メッシの「PK成功率」は平均以下だった? クリロナ、ネイマールは? 主要大会PK全1711本を分析してわかった衝撃の事実

2025年5月17日(土)7時0分 文春オンライン

 スタジアムの誰しもが固唾を飲んで見守り、そのひと蹴りが勝敗を決する——。サッカーの「PK」は極度のプレッシャーがかかる場面で行われるものです。


 ノルウェースポーツ科学学校のゲイル・ヨルデット博士は長年、PKという局面が選手の心理に及ぼす影響に注目し研究を続けてきました。ここではその内容をまとめた話題の新刊『 なぜ超一流選手がPKを外すのか 』から一部を抜粋します。(全3回の1回目/ 続きを読む )


◆ ◆ ◆


メッシのPK成功率はどのくらい?


 この10〜15年間で世界最高のサッカー選手はリオネル・メッシだというのが、大方の意見だろう。では、彼のPKはどれだけすぐれているのか? それを測る基準はいくつかある。もっとも基本的な基準は、過去3〜4年間にヨーロッパの上位30リーグで選手たちがPKを成功させた確率だ—78・6%だった。インテル・マイアミに移籍する前、ヨーロッパでの最後のシーズンとなった2022─2023年、メッシはフランスのリーグ・アンでプレーしていた。同リーグの選手たちの同シーズンにおけるPKの平均成功率は79・7%で、前述の基準よりわずかに高い。リーグ・アンの全選手のキャリアを通したPK成功率の平均は81・9%、とさらに高くなる。



メッシ ©JMPA


 では、メッシの成功率はどうか? 彼はデビュー以来140本のPKを蹴り、うち109本が得点に結びついた。成功率は77・9%。つまり、この10年間世界最高の選手として君臨してきたリオネル・メッシは、PKキッカーとして平均を下まわっているのだ。


クリロナ、ネイマールのPK成功率は?


 実を言うと、身体能力が高く頻繁にゴールを奪う点取り屋でありながら、PKの成績が驚くほど凡庸な選手は大勢いる。その中には、過去数年間ヨーロッパで活躍した主要な点取り屋も含まれる。たとえばチーロ・インモービレ(成功率82・8%/キック総数93本)、エディンソン・カバーニ(81・6%/76本)、キリアン・ムバッペ(80・4%/51本)、マルコ・ロイス(79・2%/24本)、ラダメル・ファルカオ(79・1%/67本)、トーマス・ミュラー(78・9%/38本)、アンドレ・シルヴァ(78・4%/37本)、ピエールエメリク・オーバメヤン(78%/50本)。トップレベルのストライカーでありながら、PK成功率が平均以下の選手もいる。たとえばサディオ・マネ(73・9%/23本)、ホセル(69%/29本)、ヴィクター・オシムヘン(68・4%/19本)、ラウタロ・マルティネス(65・2%/23本)、およびアレクシス・サンチェス(47・6%/21本)。


 ヨーロッパの主要リーグのなかで、この10年間で最高のPKキッカーとみなされる選手たちですら、平均をわずかに上まわっているに過ぎない。たとえばクリスティアーノ・ロナウド(84・9%/192本)、ズラタン・イブラヒモヴィッチ(83・2%/102本)、ネイマール(81・3%/91本)、モハメド・サラー(80・4%/51本)、カリム・ベンゼマ(79・2%/53本)。


ポジションで成功率は変わるのか


 PKやPK戦での技術の影響力について、研究論文には何と書かれているだろうか? 言うまでもなく、技術を数値化して測るのは簡単ではない。研究を始めたばかりの頃、われわれは技術の代わりにポジションを利用した。攻撃重視の選手(MFやFW)はDFよりもシュート経験がはるかに豊富だから、PKのスキルも上手だと考えるのが合理的だろう。われわれの調査結果では、FW(80%の成功率)の方がDF(67・7%の成功率)よりも得点力が高かった。だが、試合中のペナルティによって獲得するPK(つまりPK戦ではない)を調べたところ、ポジションの違いはほんのわずかか、ほとんど影響しないように思えた。ポルトガルのプリメイラ・リーガでは8年間で833本のPKが蹴られたが、その内容を調べた結果、FWの得点率は79・6%、MFが78・7%、DFが75・4%だったという。スポーツ分析会社〈インスタット〉のレポートによると、10万本以上のPKを対象に調べた結果、得点率の高さについての順位は変わらないものの、その差はさらに縮小してFWが76%、MFが75〜76%、DFが73〜74%、GKが72%だという。


年俸とPK成功率の関係


 その他の最新調査では、2005〜2020年までのワールドカップ、EURO、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグで蹴られたPK全1711本(試合中のPKとPK戦の両方)のデータ分析がおこなわれた。この研究でも、さまざまな技術を基準に分析したところ、PKの結果にほとんど、あるいはまったく影響しないことがわかった。たとえば、選手の市場価値はまったく関係がないようだ。市場価値が3500万ユーロ以上の選手はPKの得点率が74・9%で、1000万〜3500万ユーロの選手が74・8%、1000万ユーロ以下の選手が73・2%。これらの違いに統計的な有意差はない。


 ところが、強いチームの選手のPK成功率は76・4%で、弱いチームの選手たちのPK成功率(71・2%)よりも高いことがわかった。しばしば実力差の大きいチームが戦うトーナメント形式のカップ戦でのPK戦の結果だけを見ると、チームの質の差はもっと明らかになる。2004─2005年シーズン〜2017─2018年シーズンに開催された14種類のカップ戦でおこなわれた1067回のPK戦を調べた研究によると、いわゆる強いとみなされていたチーム(優勝候補など)のPK戦での勝利数は559回(52・5%)、弱いとみなされていたチームの勝利数は506回だった(47・5%)(訳注:この研究では試合の賭け率がイーブンで、どちらが強いともいえなかった2試合が除かれている)。後者の結果を見ると、強いチームに所属する選手の方がPKに強いように思える。とはいえ、だからといってその差をすぐさま技術力に結びつけることはできない。これらビッグクラブの選手たちはプレッシャーに強く、だからPK戦という独特の難題に対処するのがうまいのかもしれない。


メッシと能力的に劣る選手の間には差がない


 つまり、サッカー選手としての全体的な技術はPKの成功に一役買ってはいるものの、ごくわずかにすぎないということだ。PKに臨むのがリオネル・メッシであろうが、能力的に劣る選手であろうが、ことPKとなるとパフォーマンスに差がなくなるように見える。


 だが、PK戦を開始した途端に得点する確率が全員ほぼ同じに見えるからといって、PK戦は運次第と言えるのか? あるいは、選手たちが自身の運命をコントロールするためにできることはないのか? まずは、PK戦に対して選手たちが取っているさまざまなアプローチと、PKを理解しているように見える選手たちについて検証してみよう。

〈 「PKはどこを狙って蹴ると1番決まる?」主要大会PK全1711本を分析した北欧の“PK研究者”が出した結論とは 〉へ続く


(ゲイル・ヨルデッド/Number Books)

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