「PKはどこを狙って蹴ると1番決まる?」主要大会PK全1711本を分析した北欧の“PK研究者”が出した結論とは

2025年5月17日(土)7時0分 文春オンライン

〈 メッシの「PK成功率」は平均以下だった? クリロナ、ネイマールは? 主要大会PK全1711本を分析してわかった衝撃の事実 〉から続く


 スタジアムの誰しもが固唾を飲んで見守り、そのひと蹴りで勝敗を決する——。サッカーのPKは極度のプレッシャーがかかる場面で行われるものです。


 ノルウェースポーツ科学学校のゲイル・ヨルデット博士は長年、PKという局面が選手の心理に及ぼす影響に注目し研究を続けてきました。ここではその内容をまとめた話題の新刊『 なぜ超一流選手がPKを外すのか 』から一部を抜粋します。(全3回の2回目/ 続きを読む )


◆ ◆ ◆


“PK職人”ケインとレヴァンドフスキ


 個人的な意見を言うなら、もっとも圧倒的なPKキッカーとは、長年にわたって最高レベルで安定してPKを成功させてきた実績があり、なおかつ平均以上の成功率を誇る選手のことだろう。いわゆるPK職人だ。その一人がハリー・ケイン。これまでのキャリアでのPK成功率は86・6%(キック総数82本)、プレミアリーグでは37回PKを蹴って、その成功率は驚異の89・2%だ。もう一人が、ロベルト・レヴァンドフスキだ。主にブンデスリーガで87本のPKを蹴って、89・7%の成功率を誇る。



ハリー・ケイン ©JMPA


 ケインとレヴァンドフスキは、PKを蹴る際のプレッシャーに対処する方法こそよく似ているものの、PKを蹴る技術はまったく異なる。ケインは概して、われわれが“GK非依存型のテクニック”と名づけた方法を採る。あらかじめどの位置にどうやってシュートするかを決めてから蹴る方法だ。ほとんどの選手はこの方法を採用している。シュートする場所を選び、助走し、ねらいを定め、そこへ向かってボールを蹴るのだ。前もってシュートする場所を決めておけば、タスクをある程度まで簡潔にできる。このスタイルなら、適切にキックするのも比較的容易だ。といってもケインのようにキックするのは容易ではないが。


どこを狙うと一番成功率が高い?


 では、どこへボールを蹴ればいいのか? 上部をねらうのが良いと言われている。イングランドのプレミアリーグとポルトガルのプリメイラ・リーガでのPK結果を調べた研究によると、ゴール内の一番高いゾーンをねらってボールを蹴る方がいいという。また、高いところをねらってボールを打ち上げてしまうリスクは、低いところをねらってGKにセーブされるリスクよりも低いとも書かれている。


 われわれが主要なPK戦のデータを検証したところ、左側にキックした時の得点率は70・7%、右側は71・2%で、(おそらくあなたの予想どおり)左右で大差はなかった。では、一番成功率が高いのはどこか? ど真ん中だ。GKがダイブしたら、さっきまで立っていたところへシュートする。われわれのデータによると、ゴール中央に蹴り込んだボールの77・9%はゴールに入る。アントニーン・パネンカは何かに気づいたに違いない。このチェコスロバキア出身のMFが、その大胆な動きでPKに革命をもたらしたのは1976年のことだ。先にGKを誘い出してダイブさせたあと、彼は優雅にボールをチップキックしてゴールのど真ん中にシュートを決めた—このスタイルのPKは今も“パネンカ”と呼ばれている(パネンカが習得するのにまる2年かけたと言われるこのテクニックのおかげで、EURO 1976の決勝でチェコスロバキアは西ドイツを下して優勝した)。GKは動こうとする傾向がある。不動の姿勢で立っていると、愚鈍に見えるか、悪い場合には勝つ気がないとの印象を持たれかねないため、人々の期待に応えて右か左に動こうとするのだ。しかし確率的には、少なくとも時々は真ん中にとどまる戦略を織り交ぜておく方が賢明だろう。


キッカーが無力感を覚える理由


 GK非依存型のテクニックを用いる選手にとっての大きな難題は、GKが正確に動いた場合だ。実際、この点においては、PKはくじ引きみたいなものだとの意見にわたしも賛成だ。実に多くのGKが、キッカーがボールを蹴る前から、どちらに飛ぶかを決断してその方向に動く。つまりGKが正しい方向を選択することもあれば、そうでない場合もあるということだ。われわれが主要なPK戦を分析した結果、GKが間違った方向を選んだ場合—つまり左にダイブしたが、ボールが右側に飛んできた場合—キッカーが得点する確率は91%。GKが正しい方向を選んだ場合、ゴールする確率はわずか54%。ちょっと考えてみてほしい。GK非依存型のキッカーには、GKがどちらに動くかをコントロールできない。そしてGKが正確にダイブすると、あなたがPKで得点する確率が50%近く下がるのだ。こうした状況で、キッカーがしばしば無力感を覚えるのはそのためだ。


それでもケインは81%と高確率


 といっても、仮にあなたにケインと同じぐらい強力な脚があれば、たとえGKにコースを読まれる確率を完全に克服できなくても、物事を有利に運べるだろう。ケインのPKキッカーとしてのキャリアを通して見ると、GKが誤った方向に動いた場合、ボールがゴールに入る確率は95%だ。しかもGKが正しい方に移動した場合でも、81%と高確率でゴールを決める。その場合のキッカーのPK成功率の平均は54%なのだから、かなりの高確率だ。彼のPKスキルはそれだけすぐれているのだ。


 これほど質の高いGK非依存型のキックをコンスタントに繰り出せる選手はそういない。いや、例外が他にもいた。ハンガリー代表チームのキャプテン、ドミニク・ソボスライだ。2023年にリヴァプールに加入したが、それより2年前、RBライプツィヒの選手だった彼はわずか21歳でチャンピオンズリーグに出場した。グループステージ、パリ・サンジェルマン(PSG)戦でのことだ。2─1でPSGに後れを取るなか、試合後半、アディショナルタイムにライプツィヒはPKを獲得して、同点に追いつくチャンスを手にした。ソボスライはすぐさまボールをつかむと、ペナルティスポットにボールをセットした。ふと気づくとPSGのネイマールがちょっと言葉を交わしたそうな様子で近くに立っていた。


試合中にネイマールが「マジで?」


 試合後のインタビューで、ソボスライはその時の会話の内容を明かした。「ネイマールから『おまえ、得点するつもりなの?』と訊かれたので、はいと答えました。『マジで?』と訊かれたので、はいと答えました。ぼくは絶対に外さないんです。そういうものなので」


 ソボスライは、その自信に満ちあふれた言葉どおりのすぐれたキッカーだった。彼が強くキックしたボールは、ゴールの左下、ポストのちょうど内側に吸い込まれた。GKジャンルイジ・ドンナルンマは正しい方向にダイブしたが、シュートがあまりに強くて正確だったため、止められなかった。


PK成功率100%を実現できたのはなぜ?


 ソボスライはどうしてそれほど自信満々なのか? 重要な試合の最終盤、得点できればチームを救えるという状況だ。ネイマールが彼の集中力を削ごうと近づいてこなくても、エリートクラスのPKキッカーですら押しつぶされそうなほどのプレッシャーがのしかかる。おまけにソボスライの対戦相手は、身長1メートル96センチの強敵GKドンナルンマだ。


 当時まだ若手だったにもかかわらず、ソボスライにとって、それは初めてのPKではなかった。それ以前にも、彼はクラブの試合でPKを10回蹴ったことがあった。そしてネイマールに言ったように、すべてのPKで得点を決めていた。成功率100%だ。もちろん、PK10本では実績として少なすぎる。だがおもしろいことに、彼がキックした10本のPKのうち、8本はまったく同じところに飛んだ。向かって左側だ。PSG戦以来、ソボスライはさらに6回PKに臨んだが、そのすべてで左にボールを蹴り込んだ。


絶対的な自信を持てるメンタル


 つまり、彼が左へ蹴ったボールは14本、右へ蹴ったボールは2本ということになる。彼のコースはほぼ予測できるということだ。どこへボールを蹴るのかをあらかじめGKに教えるようなものだが、彼のキックは抜群に正確で速いため、GKがボールを止めるのはとても難しい。これら16本のPKのうちで外したのは1本だけだったが、それもGKに止められたわけではない。ポストの足下に当たったのだ。ライプツィヒでソボスライのチームメイトだったGKのエルヤン・ニーラン(現在はスペインのセビージャ所属)に、どうすればソボスライのPKを止められるのかと尋ねたことがある。「彼がどこへ蹴るかわかっていても、止めるのは非常に難しい。とにかくすばらしい右足だからね。あと、絶対的な自信があるのも大きい。メンタルが強くて、周囲が何と言おうが、GKがどんな準備をしようが、彼は影響されないんだ」とニーランは言った。

〈 なぜ遠藤保仁はPKの直前に「6.4秒」も立っていた? 北欧の“PK研究者”が興奮して質問すると本人は… 〉へ続く


(ゲイル・ヨルデッド/Number Books)

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