多国籍メンバー、コンセプト戦略、ティザー考察…K-POP業界の革命児「EXO」が“変えた”もの

2025年5月22日(木)21時25分 All About

K-POP業界にさまざまな影響を与えてきた「EXO」。多国籍メンバー構成、ティザー考察など、後続グループにも大きな影響をもたらしたその革新的な功績に迫ります。※サムネイル写真:YONHAP NEWS/アフロ

M世代の韓国エンタメウオッチャー・K-POPゆりこと、K-POPファンのZ世代編集者が韓国のアイドル事情や気になったニュースについてゆるっと本音で語る【K-POPゆりこの沼る韓国エンタメトーク】。韓国エンタメ初心者からベテランまで、これを読めば韓国エンタメに“沼る”こと間違いなし!

今回のテーマはEXO。デビュー以来、K-POPに大きな影響を与えてきた彼ら。多国籍なメンバー構成や徹底したコンセプト設計、考察を誘うティザーなど、後続グループにも大きな影響を与えたそのイノベーティブな功績に迫ります。

EXOがK-POP業界へ与えた影響


編集担当・矢野(以下、矢野):今回はEXOが“K-POP業界へ与えた影響”を中心に知りたいと思っています。
K-POPゆりこ(以下、ゆりこ):これまで以上に私の個人的見解が多めの回になりそうですが、温かい目でお付き合いください。
矢野:具体的にEXOがいたから「K-POPがこう変わった」というものは、何かありますか?
ゆりこ:「多国籍メンバーシップ」「コンセプトの多様化」「ティザーと考察文化」など、いくつか思い当たります。どれもEXOがゼロから生み出したOR始めたというものではありませんが、広げた、強化した、定着させたと言ってもよいと思います。
矢野:なるほど。ではまず「多国籍メンバーシップ」からいきましょうか。レイさん以外のメンバーはすでに脱退済みですが、かつて中華系のメンバーが計4人もいたんですよね。
ゆりこ:はい。EXO以前も韓国籍以外のメンバーが所属するグループはありました。ただ、アメリカや日本で生まれ育った韓国系の人が多かった印象です。EXOの先輩に当たるSUPER JUNIORにも初期の頃はハンギョンさんという中国人メンバーが在籍(2009年に脱退)し、“SUPER JUNIOR−M”という中国市場向けのプロジェクトユニットもあり、中国人のチョウミさん、中国系カナダ人であるヘンリーさん(2018年に独立)が活動していました。ただ、メンバーの半数以上が中国系で占められた“EXO-M”の登場は思い切った挑戦だったと思います。
矢野:SMエンターテインメント(以下、SM)の創業者、イ・スマンさんは今も中国で新人アイドルの育成と準備を進めているそうですが、当時から中国市場への関心が高かったのがうかがえます。
ゆりこ:実はSMは第1世代のH.O.T.の時代から当時では珍しく北京公演を行うなど、中国でのマーケティングに注力していました。その上でEXOは本格的に大陸進出を図ったグループだと言えます。矢野:EXO以後に中国市場にフォーカスしたグループといえばWayVがありますよね。2019年に結成され、中国を基盤に活動するNTCの派生ユニット。中国やタイ、マカオ、台湾出身メンバーから構成され、韓国人は1人もいません。母体となるNCTというグループ自体、多国籍がゆえに彼らがファンと交流する言語も中国語、英語、韓国語、日本語、タイ語など実にさまざま。
ゆりこ:WayVは現在の成功例ですよね。EXO-Mの中華戦略がどうだったかというと、瞬間風速的には大成功。一方で残念ながらグループ運営としては多くの課題を残しました。そこからの反省を生かしチューニングを経て、生まれたのが後輩のWayVだと思います。EXO-Mの崩壊を他山の石として学びを得たライバル会社も多いはずです。個人的な意見ですが、K-POPグループにおける中華系メンバーが徐々に減少傾向にあること、一方で日本人や東南アジア出身メンバーが増加しているのも、無関係ではないかもしれません。“コロンブスの卵”と言いますが、先駆者は苦労も失敗も付きものですよね。
矢野:「これをやったらいけそう」とか「あれならうまくいくはず」など一見誰でもできそうなことでも、“最初”に実践するのは本当に難しいことですよね。「どんなに天才的な考えを持っていても、実行しなければ凡人も同じ」というのは、ぼくが恩師から言われた言葉です。そして次にお話ししたいのはK-POPグループが今でも重要視する「コンセプト」について。EXO以前はそういった概念がなかったのでしょうか?

グループの個性と世界観を作る「コンセプト」の重要性を再認識させたEXO

ゆりこ:BIGBANG、2NE1、少女時代SHINee、Wonder Girlsや2PMもかなりコンセプチュアルなグループだと思いますし、楽曲ごとにダンスからビジュアルまでテーマも一貫していて明確でした。当時からそういった概念はしっかりありましたよ。ただ、EXO以前と以降では結構変化があったと感じる部分です。
矢野:確かに少女時代といえばカラフルなスキニーパンツや、脚の動きが特徴的なダンス、かわいく健康的なイメージが思い浮かびます。あれもコンセプトの一環といえばそうなのか。
ゆりこ:実はね……まだ矢野さんに伝えていないEXOの(黒?)歴史があるのですよ。言おうか迷ったのですが……。
矢野:え? 何でしょう。気になります。
ゆりこ:デビュー時のコンセプトがなかなか奇抜だったのです。なんと「太陽系外惑星(EXOPLANET)からやってきた超能力者たち」という設定でデビュー。「宇宙から地球に流れ着き、記憶を失った少年たちが己の秘めたる超能力に目覚める」なんていうストーリーまでありまして。
矢野:えっと……あまりにも想像の斜め上をいく設定過ぎて一瞬フリーズしてしまいました。記憶を失って超能力に目覚める、よくアニメで見るコンセプトです。
ゆりこ:トンチキソングは免れていても、トンチキコンセプトからは免れられなかった(笑)。もしかしたら興味のある人もいるかもしれないので、超能力設定の一覧を記載しておきます。
【EXOデビュー時の「超能力」設定一覧】
EXO-K
・スホ(水を操る)
・ベッキョン(光を操る)
・チャニョル(火を操る)
・D.O.(力をつかさどる)
・カイ(瞬間移動)
・セフン(風を操る)
EXO-M
・シウミン(氷結させる)
・ルハン(念力で物を動かす)※
・クリス(飛ぶ)※
・レイ(治癒する)
・チェン(稲妻を操る)
・タオ(タイムコントロールする)※
※脱退メンバー
矢野:ここまでしっかり設定されていたとは。水や火などの物体はもちろん、時間さえも操れてしまうのですね。最強過ぎます。こんなチート級の能力を備えたグループに誰が勝てるでしょうか(いや、勝てない)。
ゆりこ:つい黒歴史だとかトンチキコンセプトだとか言ってしまいましたが(猛省)、しっかり練られた設定ではありました。EXO-KとMのメンバーの“パワー”が対で呼応するものになっていて、例えばKのスホさんの「水」とMのシウミンさんの「氷結」。“対の存在”が同じ歌を韓国語と中国語で歌いながら次第に互いの存在に気付いていく、というストーリーに基づいています。つまり一見風変わりなコンセプトが2つのグループをつなぐ役割を果たしていたということです。この強烈なコンセプトをスタートに、メンバー脱退によるグループの構成変更も経てEXOはどんどん「コンセプト」を変化、進化させていきます。その中には今や若手アイドルの中の“定番”となっているものもありますよ。
矢野:てっきりデビュー直後のインパクトを強めるための、いわば付け焼き刃的な設定かと思いきや、その裏には後に続くストーリーとしっかりとした狙いがあったのですね。EXOが生んだ“定番”コンセプトといえば、どのようなものがありますか?
ゆりこ:初期の代表的なものは『Growl(ウルロン)』の「制服コンセプト」です。今や渦中の人物となってしまいましたがNewJeansのプロデューサー、ミン・ヒジンさんがSMのクリエイティブディレクターだった時代の代表作であり功績の1つですね。知っている人も多いかと思います。矢野:ミン・ヒジンさんはかつてインタビューで『Growl(ウルロン)』の学生服について、「学生服は、一生のうちで着られるのが一瞬という特別な服。若者の“トレードマーク”とも言える制服を着てタフなダンスを踊ったら、誰もが気に入るんじゃないかと思った。実際、EXOには擦れていない美しさがあった」(※1)と語っていました。
ゆりこ:おそらく私が知らないだけで、きっとEXO以前にも制服を着て踊った韓国アーティストがいることでしょう。しかし、1つ言えるのは『Growl(ウルロン)』以降、男女共に制服を着て踊るK-POPグループが急増したということです。男女問わず後輩グループたちが雰囲気を変えたり、独自の色を加えたりしながら発展させていきました。決してEXOのまねだとか、そういう次元の話ではありません。もはや“K-POPカルチャー”の1つですよね。
矢野:K-POPといえば!というくらい、今や多くのグループが取り入れていますよね。NewJeans、TWS、RIIZEなど……制服コンセプトを採用しているK-POPグループを数えたらきりがありません。
ゆりこ:そして2015年の『LOVE ME RIGHT』時に着ていたアメフトのユニフォーム、「スポーツコンセプト」もEXOが改めての火付け役かもしれません。以降、さまざまな後輩ボーイズグループが取り入れています。1990年代にまで遡ると彼らの先輩グループH.O.T.もスポーツをテーマにしたミュージックビデオ(以下、MV)を撮っているので、言ってみれば“SMの伝統”の延長線上にあるのかもしれない。NCT Uの『90’s Love』はアイスホッケーのユニフォームでしたが、彼らは独自のカラーが出ていて、まさに“進化系”でした。とても好きなMVです。矢野:SM所属アイドル以外にも広がっていて、例えばTOMORROW X TOGETHERのバレーボール、ENHYPENのラグビーなど。爽やかさや青春感はスポーツコンセプトならではでしょうか。

単なる予告にあらず!? ファンによる「考察文化」を定着させたEXOのティザー

ゆりこ:あとは「ティザーと考察文化」にも触れておきたいです。K-POPといえばティザー。つまり、新曲のMV本編を披露する前に「予告映像」を先出しして、関心を惹くのがテッパンのPR手法となっています。ティザー自体はBoAさんの若手時代からあるので、決して新しいものではありません。しかし、その内容や隠された意味をファンがこぞって考察し始めたのは、EXOからだったと思うのです。ちなみに彼らが正式デビューまでに公開した事前ティザーはなんと23本! かなり多いでしょう。
矢野:23本! たくさんありますね。最初はカウントダウンタイマーが表示され、小出しにメンバーを紹介していく。ファンはここで初めてどんなグループなのか、どんなメンバーがいるのか知っていくわけですよね。
ゆりこ:各メンバーのダンススキルを見せるような「紹介ティザー」がある中で、時折なんとも意味深な「イメージティザー」も混ざっていたのです。それが先ほどお話ししたEXO初期の超能力設定と、壮大な物語につながるのですが、「一体これはどういうこと?」と見る人の頭に「?」が浮かぶ感じの映像です。そこから「あのシーンにはこんな意味が込められているのでは?」といったK-POPファンたちの考察がオンライン上にあふれ出しました。矢野:全体的にグレーがかっていて、流れているピアノの音もどこか不穏な感じがします。これからハッピーなことが起こるとはとても想像できないどんよりした雰囲気です。ただ、だからこそ続きが気になる。「ねえ! 次はどうなるの!?」と。
ゆりこ:以降もEXOのティザー、MVは思わず裏を読みたくなる、ストーリーを想像したくなるものが多めです。「EXOから考察文化が始まった」とまで言ってしまうと語弊がありますが、少なからず影響はあったと思います。今でもK-POPファンにとって、ティザーやMVの考察は“楽しみ”の1つです。私もSNSでさまざまなアーティストのファンの方たちの考察を目にするたび「よくぞそこまで気付いた!」「そんな面白い解釈もあるのか」と驚いたり、「言われてみればそうかも……」と納得したりして楽しんでいます。
矢野:新しくグループなどがデビューすると決まれば、まずはティザーの公開日時を確認するのがルーティンになっているように思います。YouTubeだけではなく、X(旧Twiter)やInstagramなどさまざまなプラットフォームに配信され、あっちも見てこっちも見てと大忙しです。
ゆりこ:これは私の「考察」なのですが、EXOのデビューとSNSの急成長が重なったことも少し関連しているように感じます。YouTubeが日本語対応になったのは2007年、韓国語対応は2008年から。そして日本でTwitter(現在のX)利用者が増えたのは2011年の東日本大震災がきっかけといわれています。それ以降K-POPファンの中での情報収集、意見交換ツールとなったのは周知の事実です。EXOが世に出る直前に「映像を世界同時に無料で見られる」「個人が情報を発信、共有できる」無料ツール、グローバルなプラットフォームが準備されていたことも「EXOのティザー考察」を盛り上げた一因なのかもしれない。
矢野:確かに皆がここまでSNSを使うようになっていなかったら、「ティザー考察」は話題にならなかったかもしれませんよね。無料で閲覧できて、それを簡単にシェアできる。時代やツールなどさまざまな条件が偶然にも重なった結果とも言えるのではないでしょうか。ここまでのお話でEXOがいかにイノベーティブな存在であったかを改めて実感しました。
<参考>
※1:Danmee 2021年12月12日「EXO『Growl』プロデューサーがメンバーに制服を着せたワケ 『擦れてない美しさがあった』」
【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやメンズファッション記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。
(文:K-POP ゆりこ)

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