「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の主人公が背負う人類の命運、映画の夢…トム・クルーズのシリーズ総決算

2025年5月23日(金)11時30分 読売新聞

「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」=(C)2025 PARAMOUNT PICTURES.

 トム・クルーズが製作、主演し、驚異的なスタントにも自ら挑むスパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの最新作「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」(クリストファー・マッカリー監督)が、5月17日からの先行上映を経て、23日、公開日を迎えた。30年近く続いてきたシリーズの第8作にして現時点での総決算。主人公イーサン・ハントは人類の命運を、そして彼を演じるクルーズは映画の夢を背負って、限界破りの生身のアクションを見せる。それは、この映画の「主人公」がこれまでやってきたことの意味を見せることでもある。(編集委員 恩田泰子)

 1996年にスタートした映画「ミッション:インポッシブル」シリーズ(オリジナルは60年代に始まったテレビドラマ「スパイ大作戦」)の主人公イーサン・ハントは、極秘諜報(ちょうほう)組織IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のエージェント。さまざまな「不可能任務」に挑んできた。今作「ファイナル・レコニング」でのミッションで、それは来るところまで来た。

 前作「デッドレコニング」で出現した邪悪なAI(日本語字幕では「それ」、英語では「Entity」と呼ばれる)が世界を侵食。迫り来る人類滅亡の時を回避するためには、それを物理的に封じ込めるしかない。そのために、「最悪の事態の中、最も頼りになる」男、イーサン・ハントが必要とされる。

 それを封じ込めるために、まず目指さねばならないのは、ベーリング海の底に沈んだロシアの潜水艦。よこしまな敵対者のたくらみ、米大統領となったエリカ・スローン(アンジェラ・バセット)ら為政者たちの葛藤、さまざまな因縁、アクシデントが絡み合う中、イーサンは極限状況に挑む。

 北極圏や南アフリカを含め世界各地で撮影された本作には、このシリーズがこれまでもそうであったように、圧倒的にスリリングな見せ場がいくつも用意されている。

 潜水艦のシーンの水中スタント、そして大空を縦横無尽に飛び回る小型プロペラ機に食らいついての空中スタント……。高度、スピード、重力、猛烈な風圧に耐えて、翼の上でトム・クルーズがやってのける「ウィングウォーキング」を目にした時の驚きと言ったら。きっと彼なら大丈夫と思いつつ、何がどうなるか予測がつかない。ハラハラせずにはいられない。

 とにかく破格。監督のマッカリーが来日時の記者会見で明かしたところによれば、飛行機上でのシーケンスに関して、クルーズは特殊なカメラワークを提案。その時点では、それを可能にする機材とテクノロジーは存在していなかったが、翌日には「私たちのチーム」が作り上げていたという。クルーズは、ひとり機上にいる場面で、演技、操縦に加えて、撮影もコントロールしていたらしい。

 そこまでやる?——を連発しながら、クルーズは限界を突破していく。彼の生身での驚異的な格闘こそ、このシリーズ最大のアトラクション。共にプロデューサーを務めるマッカリーとともにチームを率いて、生身の人間に何がどこまでできるのか、可能性を押し広げていく。凶暴なAIを最大の敵とする「デッドレコニング」「ファイナル・レコニング」の2作において、観客はたぶん、人間と生成AIをめぐる現実に思いを重ねて、どこか切実な気分で、このアトラクションを見つめることになるのだけれど。

 この映画のように、人類を滅亡から救う役割が、ヒーローにひとりの男にゆだねられるというストーリーは珍しくはない。仲間の存在や、互いへの信頼、共に目指す大義の重要性を描く映画も、よくある。ただ、この映画には不思議な説得力がある。それはやはり、クルーズが演じているからだろう。破天荒なシリーズをマッカリーと組んで果敢に作ってきたという事実が、不可能を可能にする物語と二重写しになるからだろう。

 おなじみの盟友、ルーサー(ヴィング・レイムス)、ベンジー(サイモン・ペッグ)、そして前作から登場したグレース(ヘイリー・アトウェル)ら、仲間たちの見せ場もきっちりある。

 劇中、本作をシリーズ総決算たらしめる重要なせりふが二つある。一つは「私たちの人生は、私たちが行ってきた選択の積み重ね」。もう一つは、「あなたのすべて、そしてあなたがやってきたことのすべてが、ここにつながった」。これらの言葉に触れた瞬間、イーサン・ハントがこれまで重ねて来た破天荒な活躍とともに、クルーズその人の軌跡を脳裏に浮かべる観客も少なくないだろう。役と、それを演じるスターの幸福な結びつきが、そこにある。

 シリーズ開始から30年近く。クルーズだって年を取る。鍛錬した体は見事だが、重力や風圧、水圧を受ければ、ほおが垂れたりもする。でも、そうした瞬間をこの映画は隠さない。潔い。この先、クルーズがさらに年を重ねた時、どんな姿を見せてくれるのかも、見届けてみたくなる。生身の人間が作り出す映画の夢に引き続き出会える世界であってほしいとも思う。

 ちなみに、見終わった後は、おそらく第1作をもう一度見てみたくなる。そういうつくり。第1作を見れば、たぶん次も見たくなる。そして……。無限ループが待っているかもしれない。

 ◇「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」(原題:Mission: Impossible – The Final Reckoning)/上映時間:169分/配給:東和ピクチャーズ

ヨミドクター 中学受験サポート 読売新聞購読ボタン 読売新聞

「クルーズ」をもっと詳しく

「クルーズ」のニュース

「クルーズ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ