86歳になった漫画家のちばてつやさん、心に染みるのは武者小路実篤の言葉
2025年5月30日(金)15時15分 読売新聞
『武者小路実篤詩集』亀井勝一郎編(新潮文庫) 539円
少年漫画や青年漫画でも、男性キャラクターのまつ毛が長めなのは、少女漫画時代の名残だ。『紫電改のタカ』『ハリスの
「漫画を描くのに、詩心も大事です」と説く。ちばさんの作品はストーリーを追うだけではなく、“行間”の描写にも紙面が割かれ、読者をひきつける。
「例えば登場人物の少年や少女が、迷ったり、つまずいたりしたときに、少し目がうつろになる。どうしたら、彼らの気持ちを描けるかといえば、ふわっとトンボを飛ばしたり、ススキの穂を描いたり。風がさやさや、葉っぱがざわめいて、ふとその子を見た時に、目が潤んでるとか。そんな表現には、詩心が必要なんです」
2005年から文星芸術大のマンガ専攻教授や同大学長を17年にわたって歴任した。読書や音楽、映画、落語など、幅広く触れながら作品を描いてきて、実感したことを学生にも伝えた。「手塚治虫さんとも話したことだけど、漫画家は漫画だけ読んでいては駄目です」
様々な娯楽に恵まれた世代に、可能性も感じている。「我々は活字を読むのが発想の源になったけれど、今はいろんな情報があって、何が糧になるかわからないくらい。予想もしないようなキャラクターや世界を描く人が出てくるかも。とっても楽しみですね」と大きく笑う。
平和でなければ、どんな作品も心から楽しむのは難しい。戦争が深く影響した生い立ちから、反戦の思いは強い。「どんなことがあっても、戦争だけはしちゃいけない」。日本漫画家協会会長を務め、昨年は漫画家初の文化勲章を受章するなど、漫画の「文化」としての確立に大きく貢献してきた。86歳の今も連載などを抱えて多忙な日々を送り、来年はデビューから70年を迎える。
愛読する武者小路実篤の中でも、三行詩「この道より」が心にしみている。
<この道より 我を生かす道なし この道を歩く。>
「本当に自分もそうだなと。何もかも、うまくいかなかったけれど、漫画を描くという道でだけは、自分を生かすことができる」
「まだ途中だけどね」と、さらりとつけ加えた。終わらない道を歩く人の