五木ひろし「謙虚で家族愛にあふれた人、美空ひばりさん、52年の人生は短いけれど、没後35年経った今も歌は生き続けて」

2024年6月1日(土)12時30分 婦人公論.jp

ものごころついてから初めて人前で歌った歌が「りんご追分」。一番上の姉と同じ年の昭和の大スター美空ひばりは、歌手五木ひろしに大きな影響と思い出をもたらし、52歳の生涯を閉じた。美空ひばりとの交流をたどるとき、五木ひろしの脳裏に浮かぶのは…。(構成◎吉田明美)

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本当に頭のいい人


ひばりさんのご自宅には何度お邪魔したかわかりません。電話がかかってきて、「来れたら来て」と…。公演のあと、駆けつけたことは何度もあります。僕はお酒を飲まないのに、よく誘われましたね。

応接間じゃなくて、奥の和室に通されるのですが、そこにはご両親や弟さんたちの遺影がかかっていて、大きな仏壇があり、その前でひばりさんがブランデーグラスをゆったりと傾けるんです。

そこでいろんな話をしましたよ。ひばりさんという人は本当に頭のいい人で、政治、経済、芸能、文化、どんな分野の話でも詳しかった。小学生のときにデビューしたので、学校にはろくに通えなかったと思いますが、ちゃんと家庭教師などをつけてパーソナルな教育を受けていた。それでなきゃあれだけの英語の歌なんか歌えませんよね。

素の加藤和枝という女性は思いやりにあふれた、人を見る目も鋭い、とても魅力的な人物でした。驚いたのは、昭和天皇のお具合がよくなくて、僕も結婚式を自粛していたころ、ひばりさんがなにげなく「天皇陛下の病気平癒を願って皇居に記帳しに行ってきた」とおっしゃったんですよ。ひばりさんはすでにご自身も体調は悪かったはず。それなのに、一般国民の長い列に並んで、加藤和枝と記帳してきたと聞いたときは、本当にひばりさんという人はすごい人だと感じました。当時、著名な人たちのためには、特別な記帳の場所が設けられていて、お付の人がついて記帳していたはずなのに、ひばりさんは「美空ひばり」としてでなく「加藤和枝」として心をこめて記帳してきたんですね。

家族愛の強い人だった


ひばりさんの家族愛はすごかったです。おかあさんの喜美枝さんが自分のために生きているということで、弟さんたちが寂しい思いをしてしまったのではないかという気持ちからか、自分の家族のためにできることはなんでもやってあげようという気持ちが強かった。それはいい時もあるけれど、弟さんたちが反発することもある。僕は哲也さんとも話したことがあるけれど、結果として家族運が薄くなってしまったのは気の毒でしたね。

それだけに、和也くんの存在は大きかったです。本当に溺愛していた。ただ、和也くんは和也くんで結構言いたいことを言ってたみたいですね。

そんなひばりさんが福岡の病院に入院したときいて、僕、お見舞いに行ったんです。5,6分会えればいいかなというつもりだったのですが、誰もいなくて、1時間ぐらい話ができた。裕次郎さんが亡くなったあとで、そんな話になってしまったときにひばりさんは、枕元のティッシュをとって思わず涙を拭いていました。それで、自分が具合が悪いのに、まだ若くて仕事三昧の僕に「ひろしも身体に気をつけてよ」なんて心配してくれて、帰り際にハグして別れました。

その後、僕は、自分が結婚して幸せの絶頂のときに、ひばりさんは病と闘いながら不安でいっぱいのつらい時期を過ごしていらしたんだと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになるんです。

気を引き締めて歌い継いで行きたい


小さいころからひばりさんに憧れていて、同じ世界にいられるようになってからも僕は勝手にひばりさんからたくさんのことを学ばせてもらいました。

だから、というわけではないけれど、ひばりさんの「何回忌」のメモリアルコンサートには必ず伺っていました。名古屋で劇場公演があったときにも、昼間公演をやって、一度、東京に戻って「ひばりの佐渡情話」を歌ってまた名古屋に戻ったりね。お墓参りも入ってますしね。6月24日になるといつも心の中で手を合わせます。

52歳はあまりにも早い。でもね、考えてみると世界的にも、才能あふれるスターたちは早く亡くなっているんですよね。エルヴィス・プレスリー、マイケル・ジャクソン、マリリン・モンロー、ホイットニー・ヒューストン…。一方で、トニー・ベネットは96歳まで活躍したし、クリント・イーストウッドは93歳でもまだ現役。本当に人生ってわからないですよね。

肝心なのは、何を遺したか、ということではないでしょうか。没後35年たってもいまだに美空ひばりさんの歌は生きているし、この先も永遠に歌い継がれるでしょう。ただ、一般の人ならいいけれど、プロに歌い継いでもらうとしたら下手な人には歌ってほしくないなあ。と、元ご主人の小林旭さんがおっしゃっていました。

私もこれからはさらに気を引き締めてしっかりと歌い継いで行きたいと思っています。

※次回は「五木ひろしが語る〜〜昭和歌謡史(12)」をお届けします。

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