【インタビュー】イ・ジェフン、出世作『BLEAK NIGHT 番人』からの現在地「新しい自分に出会いたい」

2021年9月14日(火)13時0分 シネマカフェ

イ・ジェフン (C) COMPANY ON

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恋に奥手な『建築学概論』の大学生、過去と繋がる「シグナル」の捜査官、悪を成敗する「模範タクシー」の運転手、遺品整理業に関わる「Move To Heaven:私は遺品整理士です」のボクサー。イ・ジェフンには様々な顔がある。けれど、モニター越しにニコニコと微笑む彼は、どの役とも印象が異なる。その理由は、「この作品なくして、今の僕はいません」と言い切る1作、『BLEAK NIGHT 番人』の中にあるようだ。

遡ること10年以上前に製作された『BLEAK NIGHT 番人』は、イ・ジェフンの出世作とも言える映画。この作品で彼は各映画賞を受賞し、トップ俳優への道を歩み始めた。その日本初配信がWATCHAで実現したのを記念し、韓国からリモート取材に応じることに。

出世作は「演技人生の基盤を作ってくれた」

「演じる姿勢というものを僕に教え、演技人生の基盤を作ってくれたのがこの作品です。カメラが回っているときだけ演技をし、カットがかかった途端に元の自分に戻るのではなく、常に役のまま生きていく。撮影期間中はそうあるべきだと学びました。言ってしまえば、メソッド演技というやつですね。役にできるだけ近づき、なりきる努力こそが大事。以降、どんな作品でどんな役を演じるときも、役になりきってきました」

さらっと語る表情からは信念と強さすら感じられるが、その演技法が俳優、とりわけ若い新人俳優にとってどれほど過酷だったかは、『BLEAK NIGHT 番人』の物語を知れば容易に分かる。イ・ジェフンが同作で演じたのは、自ら死を選ぶ高校生。物語が進むにつれ、生前の彼に何があったのかが浮き彫りになってくる。

「正直、本当に不安で、つらくて、大変でした。その感覚を維持するよう、ユン・ソンヒョン監督は撮影中の僕を導いていたのだと思います。完成した作品を見たときも、僕が演じたギテにその不安やつらさが投影されているのを感じました。俳優としてどうあるべきか、その宿命を学ばされた気もしています。技術だけでもある程度の演技はできますが、より深みのある演技をするには役として経験し、感じなくてはならない」

ギテにはかけがえのない友人が2人いた。けれども、友人との幸せな時間は続かなかった。彼らの青春には若さゆえの痛みが詰まっていて、ギテの抱える問題も若さゆえにひどく重い。年齢を重ねた現在のイ・ジェフンは、物語をどう捉えているのだろうか。

「おっしゃる通り、“若さ”ですよね。この年齢になるまで人間関係を構築してきた僕には、経験があります。でも、高校時代は未熟さとともに、人間関係を保っていかなくてはならない。幼いですしね。だから、友人との間でも思いやりが欠如してしまう。相手を大事にできず、それに気づくことすらないまま学生時代を過ごしがち。大人になったいまは人間関係の大切さを実感できていますが、僕自身、学生時代には仲のいい友人もいれば、それほど仲のよくない友人もいました。けれど、当時の交友関係が僕という人間の成長や人格形成に大きく影響しているのは事実。誰かに関心を持ってほしい、誰かに愛情を持ってほしいという若さゆえの焦燥もまた、自分の一部なんです」



常に挑戦的な役柄に「見せたことのないイ・ジェフンをお見せしたい」

“あのころ”から時間を経たことは、痛みからの脱却だけでなく、イ・ジェフンにさらなる喜びをもたらした。2020年、Netflix映画『狩りの時間』でユン・ソンヒョン監督と再タッグ。『BLEAK NIGHT 番人』ではギテと心が通わなくなる友人を演じたパク・ジョンミン、ギテの死を悔やむ父親を演じたチョ・ソンハとも再共演を果たした。

「そうです。今度はずっと仲のいい役です(笑)。『狩りの時間』の撮影中は、『BLEAK NIGHT 番人』当時の話に花を咲かせていました。何せ、撮影状況が全く違いますから。かたや低予算の独立系映画で、真冬の撮影現場に暖房器具すらない。『(日本語で)寒い〜。寒い〜』と嘆いていました。一方、『狩りの時間』も実は冬の撮影でしたが製作費は潤沢で(笑)、俳優たちが演技に集中できるような環境が整っていました。でも、笑いながら苦労話ができる仲間との再共演はうれしいものです。彼らは“映画の同志”ですから」

そんな『狩りの時間』を含め、イ・ジェフンのフィルモグラフィーがバラエティに富んでいるのは前述の通り。メソッド演技法で身を捧げるのが困難な役も、決して少なくない。

「日本でもリメイクされた『シグナル』は、大変だった役の1つと言えるかもしれません。過去と交信しながら事件を追うプロファイラーの役ですから。実際に事件を感じつつ、冷静に捉えなくてはならない。感情を抑えながら、理性と感性を衝突させるんです。精神的な苦痛がないとは言えませんね。しかも、視聴者に感情移入させないといけませんから。現実的にアプローチしようとはするけど、ファンタジー要素は消せない。リアルに演じたからと言って、リアルに受け止められるか。すごく不安でした。様々な要素が絡み合う中、様々な感情と向き合わなくてはならなかったんです」

それでも、様々な感情に進んで身を置き、挑戦的な役柄を好んでいるようにも。役柄ごとのイ・ジェフンを存在させながら。

「何よりも大事なのは、脚本です。僕は面白く感じたけど、皆さんはどうだろう? そんなことを考えます。できれば、すでに演じた役柄と重ならない役がいいですね。今までの演技を生かす方法も有効だとは思いますが、個人的には、別の領域に足を踏み入れ、新しい自分に出会いたい。いつもそんな気持ちでいます。ご覧いただく方にも、見せたことのないイ・ジェフンをお見せしたいですから。それが、僕にとっての探求心ですね」

「対面でお目にかかれる日を楽しみにしています。(日本語で)ありがとうございました〜」と、冒頭と変わらない朗らかな調子でインタビューは終了。そんな状況が訪れるころまでに、彼の顔はいくつ増えているだろうか。

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