【インタビュー】井浦新が輝き続ける理由 感情的にも、身体的にも「常に完全燃焼」

2020年10月19日(月)7時45分 シネマカフェ

井浦新『朝が来る』/photo:You Ishii

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役に真摯に向き合う。井浦新ほど、その言葉にぴったりハマる役者はいないだろう。作品ごとに監督と対話をし、役への理解を深めると同時に、どのようにその役に染まっていくかを組み立てていく。ときに感情的に、ときに身体的に。

「役や作品・監督によって当然、求められるものは違ってきますが、毎回、同じ熱量でぶつかっていく構えでいます。“てにをは”含め、すべて台本通りにやってほしいと、テクニカルなものを求められるときもあるし、台本より心をそのまま表現してほしいと言われるときもある。僕はどれでも完全燃焼ですし、毎回、同じではないから楽しいんです」。

観客と作品を共有することは「奥行きを知れる機会で、僕にとっても喜び」

自身の引き出しをフル活用して、役に捧げる。井浦さんの出演作の多彩さは、フィルモグラフィーを見れば一目瞭然だが、思いの深さこそ胸を打つ。作品公開前の精力的なプロモーション活動はもとより、公開後の活動にも熱心だ。様々な地域への舞台挨拶およびティーチインに出席したり、コロナ禍ではSNSでのライブやオンラインイベントに参加するなど、作品の盛り上げに一役買っている。

例えば、こんなことも。2018年に出演し、好評を博したドラマ「アンナチュラル」で演じた法医解剖医・中堂系になりきった、9月10日のツイートも話題を呼び、ファンを喜ばせた。そんな小粋な演出も、井浦さんならではの計らい。本人は「時間があるときにやってるだけなんですけどね(笑)」と照れ笑いだったが、プロモーション活動への信念は強固だ。


「本来、映画やドラマは観てもらうだけで完結しますけど、味わい方や楽しみ方って、いろいろな形があると思っているんです。参加した作品については、役の大小問わず、あまり厚かましくならなければ、とことん関わらせていただきたいんです。演じるだけでなく、観客の方たちに伝えていく作業も、俳優の仕事のひとつだと僕は思っているので。観る環境をさらに楽しめたり、喜んでいただけるのであれば、別に、それは労力でもないですし」。

作品公開後も行うプロモーション活動は、「作品への感謝の表し方」という表現をする一方で、「自分自身が知りえなかった奥行きを知れる機会であり、一体感を共有できることは、僕にとっても喜びなんです」と、井浦さんは目を細めた。


「嘘や虚構が本当になる」初の河瀬組/理想的な撮影現場を体験して

井浦さんの最新出演作『朝が来る』は、『殯の森』や『あん』などで知られる河瀬直美監督が脚本・撮影を務めた。「特別養子縁組」という制度のもと、実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることができなかった14歳の少女、それぞれの視点で命と家族を描き出している。井浦さんの役どころは、一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和。清和は特別養子縁組制度を知り、妻の佐都子(永作博美)と、男の子を迎え入れることを決意する。

「作品に入る前、監督からは“あれをやっといて”“これを知っといて”と指示がきましたし、実際、永作さんとふたりで特別養子縁組のご夫婦に面会させていただいて、お話も伺いました。朝斗(息子)役のオーディションには、僕らも参加して3人でセッションをしたり。映画作りというものに、河瀬監督が巻き込んでくれたんです。役を積んでいくという“役積み”をしてから初日を迎えるのは、本当にありがたいことでした」。


撮影はすべて順撮り。シーン1から始まり、「嘘のない」状態で挑んでいった。

「この映画を観ていると、誰かの生活をちょっとのぞき見しているかのような生々しさを感じるんです。河瀬組の撮影現場では、演じる俳優たちに嘘がなくなってしまう。嘘が、虚構が、本当になるんです。それがちゃんと画に映っているんだなと、完成したものを観て思いました。僕にとっては一番理想で、目指している映画の作り方なんですね。きっと、どの監督もスタッフさんたちも、できるならばそうしたいと思っているでしょう。そのことをやってのける、本当にたくましい監督だなと思いました」。

贅沢な、理想的な現場に身を置いて、全力を注ぎ込んだ撮影期間。初の河瀬組でのオールアップは、抜け殻のようになったのかと問うと、「うーん…」と思案した後、「言葉では言い表せないんですけど、」と切り出した。井浦さんの作品愛がこだまする。


「撮影は生命そのものを作品にぶつけていくから、本当に魂をすり減らすので、すごくきついんです。なので“早く終わって楽になりたい”気持ちもどこかにはありながら、真逆で“終わりたくない”気持ちも、もっと大きくありました。こんな純粋な現場にずーっといられたら、なんて幸せなんだろうと思いながらも、早くうちに帰って自分の家族と過ごしたい気持ちもありましたし(苦笑)、様々でした。…打ち上げのときが一番きつかったかな。“ここにいると本当に終わっちゃうんだ”と思って、ひとりで外に出て呆然としていたり。いろいろな感情がありました」。


井浦新の思い「夢中になれるものがひとつでもあると、命が救われる」

物語内、「特別養子縁組」で朝斗を授かった栗原夫婦は、家族3人で幸せな日々を送っていた。しかし、6年後のある日、朝斗の産みの母親を名乗る女性から、「子どもを返してほしい。それが駄目ならお金をください」という1本の電話がかかってくる。血のつながりと魂のつながり、異なる立場からの強い感情が絡み合い、子どもをめぐる葛藤に胸をえぐられる。

それでも、『朝が来る』のタイトルの通り、やがて来る朝が微かな希望を照らし、力をもたらしてくれる。今現在、「生きる」ことに活力が見出せないと感じる人にとっても、何らかのメッセージを受け取れる作品かもしれない。


「みんなが強いわけじゃないですからね。僕は…好きなもの、夢中になれるものがひとつでもあると、命が救われるんだなと思うんです。自分にとって夢中になれるものって、やっぱり俳優の仕事で。撮影現場で本当に一瞬記憶がなくなってしまう、もしくは、この芝居をしながら気絶するぐらい、ギリギリのせめぎ合いをした日の帰り道とか、疲弊して動けなくなってはいるけれど、確かに“生きている”実感があるんです」。

だから、井浦新は今日も現場に立ち続ける。

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