加藤タキ×さだまさしの日本論「この国は精神的には100年持たない」「関わりたくなきゃ関わらなくていいって状況が今の日本を作った」【2023編集部セレクション】

2024年11月26日(火)10時0分 婦人公論.jp


さださん「今、日本語が不自由な日本人が増えつつあるんですよ」(写真提供:講談社)

2023年下半期(7月〜12月)に配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします。(初公開日:2023年09月20日)
2023年10月25日に歌手として50周年を迎え、記念コンサートツアー中のさだまさしさん。今回はそんなさださんと、国際間のコーディネーターとして長年活躍し、現在は国際NGO 認定NPO法人 AAR Japan[難民を助ける会]の副会長を務める加藤タキさんの対談のようすをお届けします。さださんは「今、日本語が不自由な日本人が増えつつあるんですよ」と言っていて——。

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日本語が不自由な日本人


まさし ルーマニアのシオランという哲学者による「祖国とは国語なり」という言葉があって、僕これ好きなんですよ。

線を引いて国境を決めるんじゃなくて、その人が何語を喋ってるかを聞きましょう、それがその人の祖国ですよという。これはルーマニアという、あちこちから侵略された国の人らしい言葉だなと思って僕はいつも感動するんだけど。

今、日本語が不自由な日本人が増えつつあるんですよ。タキ姐、これはどうしたらいい? 日本語が通じないからみんな話しながらイライラしている。自分の言いたいことも伝えられない。

タキ 例えばまさし君がおかしいなと思ったら、「君ね」って言って、ちょっと親身になる時間を作って、「君が言いたいこと、ちゃんと伝わってこないんだけど、伝わっていないってこと自体わかってる?」って、やっぱり聞いてあげたらいいんじゃないの?

まさし 聞いてあげるのはいいんだけど、聞いてあげても要領を得ない子が多過ぎてね。それで、ある程度大人になってくると自分に自信を持ってるから、自分の価値観を絶対曲げない。こんなとき、自分は無力だなと思うし、自分の日本語力もまだまだだと思うね。

タキ まさし君の日本語力は超一流ですよ〜。ただ、人を変えようと思わないで、そんなときは自分がやっぱり変わるしかない。

まさし 自分が変わるしかないんだねぇ。

タキ 妥協するっていうふうに変わるのか、やっぱり説得しようとするのか、それは今の状況のためだけじゃなくて、その人の将来だったり。だから、どこまで自分がその人に関わりたいかでしょうね、やっぱり。関わりたくなければ、ほっときゃいいんじゃない?

このままでは日本という国は100年持たない


まさし でも、関わりたくなきゃ関わらなくていいって状況がね、タキ姐、この日本を作ってきちゃったんじゃない?

タキ うん、たしかに……ね。


『さだまさしが聞きたかった、「人生の達人」タキ姐のすべて』(著:加藤タキ・さだまさし/講談社)

まさし だから、ある種の一部の本当に芯を持ってこの国を憂えてる人、哲学的でもなく宗教的でもなく思想的でもなく、純粋にこの国のことを憂えてる人がほんのわずかいてね、その人たちが今、拠り所がなくて困ってる。

じつはね、精神的には日本は今後100年持たない状況。

タキ うん、精神的に貧しいよね。文学を読まなくなって、言葉が省略されて。

まさし はい。だから、おそらくこのままでは日本という国は100年持たないでしょう。中国のトップが「日本はあと100年持たない」と言ったの。そのときはカチンと来たけど、冷静に考えれば本当にそうだなって僕は最近感じるようになってきた。僕なんかの力ではそれは止められないんだけれども、どこにどう働きかけたら、どう動くんだろうね。

長老を敬う心が薄れている


まさし 僕らもう老人じゃないですか。老人の力って、本来もっともっと大きくなきゃいけないと思っているんです。老人の言葉が届かない社会は誤った社会だと思っている。

ネイティブ・アメリカンのイロコイ族では、悩んだら最長老の老婆に相談するというのがルールだったんだって。

若い衆が相談をして、最長老の老婆に相談しに行く。そしたら、老婆が悲しそうな顔をしたら、その件は持ち帰る。嬉しそうな顔をしたら、その件は通るっていうやり方をやってたっていうのを本で読んでね。

日本の最長老の老婆という人が悲しそうな顔をしたときにはやめようって言える社会じゃないでしょ?

タキ そう、高齢者を単なる弱者と見なして、長老を敬う心が薄れている。でも、嘆くばかりでも仕方ない。

まさし もちろん年寄りの責任もあるよね。

タキ 老害と言われるような年寄りはたしかにいる。とは言え、年齢を問わず“老害”的な存在の人はたくさんいるけれど。

まさし タキ姐は団塊の世代じゃないでしょう? その前。

タキ 1945年生まれだから二つ前。

まさし 僕は1952年生まれだから団塊の世代のちょっとあとなの。タキ姐と僕はちょうど団塊の世代を挟んでんのね。

タキ そうそう。

まさし その団塊の世代が、今の日本の老後の正体なんですよ。

タキ うん、圧倒的多数ね。

まさし だから、僕は泉谷しげるさんとか谷村新司さんによく責任取れって言うんだけどね。「ちゃんと責任取ってくれ」。すると彼らは「お前も仲間じゃないか」。「僕はつながってるけど、後輩だから」と言い訳するんだけど。老人力というものがこの国から消え去るっていうのは文化の喪失だなと思う。

タキ けれど、憂えてばかりいられないよね。

まさし そう。「で、どうする?」というのがタキ姐への相談なの。

どうする、老人。老いの重みって何?


タキ これは母が語っていたことなんだけど、本当に老いるとね、その重みに耐えられるだけのものを持っているかどうか。それは使命感だと一言いわれた。

まさし 使命感。

タキ 使命感だと。自分ができることを遂行する。

まさし 何をしたいかが大事だってこと?

タキ そう。

まさし うわー。何をしたいかがわからない人にはダメじゃん。

タキ それはいつでも見つけられるって。まず見つける気持ちを持ちなさい。

まさし 見つける気持ちを持つ。

タキ うん。だから、自分は誰の役に立ちたいの? どうやってこれから生きていたいの? 「孤独になるばっかりで誰も私のほうを見てくれないし」じゃなくて、お料理が好きな人は、ずーっとお料理をいろんな人にふるまって食べてもらうのも使命の一つだし、できることを何でもやる。ささやかでも有料にすることも大事かも。

その人にとっての、「生きがい」というやさしい言葉もあるし、「使命感」という哲学的な言葉もあるけれども、とにかく何かをやって、何かを感じる。そのためにはどうしたらいいか。やっぱり人の話を機会あるごとに聞く姿勢がいくつになっても大切なんじゃないかな。

※本稿は、『さだまさしが聞きたかった、「人生の達人」タキ姐のすべて』(講談社)の一部を再編集したものです。

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