食糧難の北朝鮮で若者の命を救う「管楽器」の腕

2023年2月21日(火)6時1分 デイリーNKジャパン

北朝鮮・黄海北道(ファンヘブクト)の沙里院(サリウォン)で最近、管楽器を習おうとする若者が増えている。


富裕層の間では、「公教育に期待できない」として子どもを塾に通わせたり家庭教師を雇ったりして、楽器、美術、ダンス、コンピュータなどを習わせることが人気だ。深刻な食糧難に陥った現状で、楽器、それも管楽器を習うのは切実な理由があると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


現地の情報筋によると、管楽器人気の高まりを受け、学校の音楽教師や朝鮮労働党の宣伝隊の奏者などが家庭教師を引き受けるケースが増えつつあるとのこと。


授業料は1時間3万北朝鮮ウォン(約480円)で、ものになるには、1日に1時間以上の授業が必要だ。楽器は生徒が市場で買わなければならないが、トランペット、サックス、ホルンなどは、安くて3万北朝鮮ウォン、高いものになると50万北朝鮮ウォン(約8000円)もする。初期費用だけで少なくとも2万円近くかかるのだ。


コロナ禍での厳しい不況と食糧難の中で、大金を注ぎ込んでも管楽器を習おうとするのは、主に徴兵検査を控えた高級中学校(高校)の生徒だ。情報筋は、その理由を次のように説明した。


「管楽器を習っておけば、(軍入隊後に)軍団の宣伝隊に選ばれ、兵役の期間中、空腹で苦労することがないという認識があるからだ」


宣伝隊とは、建設現場やその休憩時間などに、音楽を演奏したり歌を歌ったりしてその場の雰囲気を盛り上げる部隊のことだが、きつい労働を強いられることがなく、少しでも空腹から免れることができるからだ。


軍向けの食糧は、輸送時の中抜きや横流しなどで、常に量が不足しており、末端の兵士は空腹という敵との闘いを強いられてきた。中には、栄養失調になって療養所に入ったり、一時的に帰宅させられたりする者もおり、最近では餓死者も発生しているような状況だ。


そんな現状で、重労働が免除されられるのは、命に関わる。そこで、経済的に余裕がある若者の親は、管楽器を習わせて少しでも楽な宣伝隊に配属になるようにするということだ。



ただ、それだけでは不十分かもしれない。配属先もカネで取引されるのが軍の現状だ。いくら管楽器の腕がよくても、関係者へのワイロなしでは、宣伝隊への配属は難しいかも知れない。


儲け話が転がってきて喜んでいるのは、管楽器の教師だけかもしれない。

デイリーNKジャパン

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