金正恩の「専用野菜」農場が壊滅…本人が作る場所を間違え

2025年3月1日(土)5時4分 デイリーNKジャパン

北朝鮮の北東部、咸鏡北道(ハムギョンブクト)鏡城(キョンソン)にある仲坪(チュンピョン)温室農場は、2019年12月に完成した200ヘクタールに及ぶ巨大な敷地に300棟以上のビニールハウスが立ち並ぶ巨大農場だ。主に生産しているのは野菜だ。


北朝鮮では冬に野菜の栽培ができないため、前年の秋に取れたものを塩漬けやキムチにするなどしてビタミンを補給するしかなかったが、農場の完成で冬でも野菜の供給ができるようになった——はずだった。


ところが今シーズンの寒波で被害を受け、生産にも影響が出ていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


現地の情報筋は、低温と大雪で農場はその役割をほぼ喪失したと述べた。


ビニールハウス1棟は長さ100メートル、幅10メートルだが、その屋根に雪が積もってしまった。すぐに雪下ろしをしなければならないが、人手が足りず、至るところでビニールシートが破れ、柱が倒れるなどの被害が出た。


氷点下の寒さに晒されたキュウリ、シュンギク、サンチュなどが凍ってしまい、出荷できなくなってしまった。


この地方は中国やロシアと国境を接しているが、緯度の割には気温が高く、はるか南にある平壌や開城(ケソン)よりも暖かいことがある。雪は降っても数センチ程度だ。しかし、この冬はことの外寒く、雪が多かったため、このような被害が発生した。


また、被害を免れたビニールハウスも、シートの上に土ぼこりがたまり、陽の光を遮断したため野菜の成長に影響が出ている。


農場員総出で倒れた柱を建て直し、破れたビニールシートを張り替えたが、作業には10日もかかった。咸鏡北道の幹部がやってきたが、「元帥様(金正恩総書記)がおこしになった史跡単位が壊れることは許さない」と怒鳴りつけただけだった。


一方、土ぼこりまみれのビニールハウスは、「雨が降って土ぼこりを洗い流してくれるのを待つばかり」(情報筋)の状態だ。


ここで生産された野菜は、地元住民の口には入らない。


「ビニールハウスでできるキュウリやトマトなどの野菜はほとんどが幹部用、政治行事用だ。残りは育児院、愛育院(いずれも孤児院)、そして社会給養網に供給される。そのため、一般住民にビニールハウスでできた野菜が供給されたことはない」(情報筋)


また別の情報筋は2021年5月、金正恩総書記一家に供給する「9号製品」と呼ばれる野菜の生産ノルマが達成できなかったとして、農場の朝鮮労働党委員会の書記と支配人が、処罰を受けたと伝えた。ビニールシートや燃料を確保できず、野菜の3割以上が寒さや病気のせいで枯れてしまったというのがその理由だ。


それでもきわめて幸いにも、彼らの処分は平従業員として3カ月働くというものにとどまった。


このように、ビニールハウスでは温度管理ができていない。情報筋は、昨年10月に農場を訪れたときの様子を語った。


「昨年10月に農場に行ったのだが、道内の農場があまり生産できていないトマトやシュンギクなどの作物はあまりなく、白菜とカボチャが多かった。ビニールハウスは野菜が貴重な冬と初春に必要なのだが、ビニールハウスは役割を果たせていない」


期待されたような様々な野菜が育っていない理由として、情報筋はロケーションの悪さを挙げた。


「ビニールハウスのある場所は、もともと風が非常に強い場所」


鏡城には、朝鮮半島で2番目に高い冠帽峯(海抜2541メートル)があり、頂上は10月から冠雪する。また、農場から600メートル離れたところには日本海がある。山から吹き下ろす風、海から吹く風と常に風にさらされているところに農場がある。さらに、昼と夜の寒暖差が大きく、非常に寒いのだ。


なお、このロケーションを決めたのは金正恩氏本人だ。2018年7月に咸鏡北道の様々な現場を訪れて現地指導した際に、大規模野菜温室農場の建設計画を発表した。それには、今の場所にあった空軍基地を撤去して、この農場を作れという指示が含まれていた。

デイリーNKジャパン

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