「恩赦はするが農村に追放」に北朝鮮の受刑者たちが激怒

2020年9月17日(木)11時0分 デイリーNKジャパン

北朝鮮は、10月10日の朝鮮労働党創建75周年を控え、大赦(恩赦)が実施されるとの情報が伝えられていた中、国営の朝鮮中央通信は先月15日、政令に基づき大赦を実施することを決定したと報じた。記事には、政令の文面が次のように引用されている。


朝鮮労働党創立75周年に際して、祖国と人民に対して罪を犯し、有罪判決を受けた者らに大赦を実施する。


大赦は、チュチェ109(2020)年9月17日から実施する。


朝鮮民主主義人民共和国内閣と当該機関は、大赦によって釈放された人々が安定して働き、生活することができるように実務的対策を立てなければならない。


大赦は17日から実施されるが、それを巡って騒動が起きている。首都・平壌出身の受刑者は、釈放されても平壌に戻れず、農村に追放されることになったからだと、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


警察庁にあたる社会安全省の教化局(刑務所担当部署)と8局(住民登録担当部署)は、全国の教化所(刑務所)の教化課大赦指導員に対して「中央(金正恩党委員長)の意思で、10月10日を迎え、かつて平壌市に居住していた赦免対象者に農村派遣状を発給する」との指示を伝達した。また、教化所が責任を持って、釈放された全員を地方の農村に送り届けよとの指示も含まれている。


通常、出所に際しては北朝鮮国民なら誰もが持っている公民証(身分証明書)を没収される。家族や管轄の安全員(警察官)が迎えに来て家に戻り、安全部(警察署)に公民証の再発行を申請した上で、職場を割り当ててもらう。そして今回、平壌市民の場合、平壌市民証を没収され、地方に送られる。


いずれの場合も、元々の成分(身分)はそのままだが、今回は「社会成分を農場員にせよ」との指示が下された。


北朝鮮の身分制度は、国民一人ひとりに成分を付与するが、出身成分は、本人が産まれた時から満17歳になるまでの間に、親が何をしていたかに基づいて与えられる。社会成分は、本人の北朝鮮社会における地位を表す。社会成分は大きく分けて軍人、事務員、労働者、農場員の4つがある。



いったん農場員となれば、地方の協同農場に配属され、党に対して多大なる貢献をしたなどの例外を除けば、一生涯を農場員として送ることになる。またその社会成分は、出身成分として子どもに受け継がれる。子々孫々、農場で農民として暮らすことを強いられるのだ。


それを聞いた本人たちは、激怒している。


「教化所で罪を償ったのに、底辺の成分にして農村に追放するなんて二重処罰だ」


しかし社会安全省は、反発の声などどこ吹く風で、出所者を農村送りにする方針を変えていない。そればかりか、対象者が家族に会うなどの理由で平壌に無断で立ち入ることがないように、各機関と安全部に対して、今後5年間、平壌市承認番号(平壌立ち入り許可証)と旅行証(国内用パスポート)の発行を制限し、それ以降も、真面目に暮らしていると地元の労働党委員会が保証した場合に限り発行を認めるとの指示も下した。


出所してから地方に追放されても、勝手に平壌に戻ってくるのが当たり前のように行われてきたが、当局はこれを問題視していると情報筋は指摘した。


そもそも、なぜ平壌で他の職業に就いていた人を地方に追放して農民にしなければならないのか。それは、農民の数が足りないからだ。


上述の通り、農民として生まれれば一生農民として生きていかなければならないが、それは建前に過ぎず、よりよい暮らしを求めて農村を捨て都会に出る人が後を絶たない。農業の機械化が進んでいない北朝鮮では、農村の労働力減少が、農業生産の減少に直結する。そのため、無理やり農民を増やそうとするのだ。


一方、平壌市の人口を少しでも減らしたいという当局の思惑もある。食糧配給が困難となり、様々な言いがかりを付けて平壌から追い出す「口減らし」を積極的に行っているが、革命の首都にふさわしくない「前科者」を受け入れる余裕などないということなのだろう。

デイリーNKジャパン

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