京大など、マグネターがガンマ線バーストを発生させる機構の一端を解明

2024年2月19日(月)17時52分 マイナビニュース

京都大学(京大)と東邦大学の両者は2月16日、独・マックスプランク重力物理学研究所のスーパーコンピュータ「SAKURA」および理研の富岳を使用して、中性子星同士の連星による合体イベント「連星中性子星合体」に関する世界最高レベルの解像度の第一原理シミュレーションに成功し、その合体で形成される中性子星の一種である強磁場星(マグネター)であれば、「ガンマ線バースト」を引き起こせる可能性があることを確認したと共同で発表した。
同成果は、京大 基礎物理学研究所の木内建太特任准教授(独・マックスプランク 重力物理学研究所 グループリーダー兼任)、同・柴田大所長/教授、東邦大の関口雄一郎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
宇宙最大規模の爆発とされるガンマ線バーストは、天球の一点から太陽光度の約1018倍という、極めて高いエネルギーのガンマ線が短時間だけやって来る突発的天体現象の1つだ(継続時間が2秒以下のものは「ショートガンマ線バースト」と呼ばれる)。
2017年8月17日の連星中性子星合体イベントでは、ショートガンマ線バーストも観測され、何がガンマ線バーストを発生させているのかが初めて確認された。しかしガンマ線バーストの発生メカニズムは依然として不明であり、合体後に形成されるブラックホールもしくは非常に重く高速回転する超大質量中性子星がガンマ線バーストを駆動しているとする複数の仮説が唱えられている。
連星中性子星合体の最大の特色は、一般相対論的重力、強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用という、この宇宙に存在する4つの力(基本相互作用)すべてが本質的になる点にあるという。そのためこの合体を理論的に調べるためには、基本相互作用の効果をすべて取り入れたプログラムを開発し、スーパーコンピュータ上で大規模なシミュレーションをする必要があるとする(このような分野を「数値相対論」という)。そこで今回の研究では、SAKURAと富岳を用いて、世界最高レベルの空間解像度の第一原理シミュレーションを行ったという。
連星中性子星合体においてショートガンマ線バーストが観測されるためには、光速に近いスピードで伝搬するジェットを駆動する必要があるとする。その有力なメカニズムが、「高度にそろった強磁場による磁気力が駆動する」というものだ。連星中性子星は通常、1000〜1000万テスラ(T)程度の磁場を持ち、0.00003〜0.00006Tしかない地磁気と比較するととてつもない強さだが、その強度ではジェットの駆動には不十分だという。つまり、合体時に何らかの過程で中性子星本来の磁場が高度に揃うことでさらに強磁場に増幅され、ジェットが駆動されると考えられているものの、その過程が不明だった。
そこで研究チームが注目したのが、「αΩダイナモ機構」だ。一度不安定性が出現すると磁気乱流状態になるが、このスケールの小さい乱流磁場から、高度に揃った強磁場を生成するメカニズムが同機構である。このメカニズムはもともと太陽磁場の生成メカニズムとして提唱されたものだが、研究チームでは、同機構が連星中性子星合体でも働くのではないかと予想したという。
そしてシミュレーション結果を詳細に解析した結果、合体後に超大質量中性子星が形成された場合、その内部でαΩダイナモ機構により高度に揃った強磁場が生成されることが判明したとする。この十分な強度を持った磁場が、ほぼ光速で伝搬するジェットを駆動することがシミュレーション中で再現されたとのことだ。
さらにこのジェット駆動に伴い、中性子を過剰に含む物質が太陽質量の10%ほど放出されることも発見された。これは金やウランなどの鉄よりも重い元素が連星中性子星合体で合成され、電磁波で非常に明るく輝くことを示唆するという。つまり、合体で強く磁化された超大質量中性子星(マグネター)が形成され、ショートガンマ線バーストを駆動する「マグネター仮説」が可能であることが示されたと同時に、観測的にこの仮説が検証可能であることが示されたといえるとしている。
今回、ショートガンマ線バーストの駆動メカニズムの一端が解明された。しかし、中性子星を構成する物質(原子核状態方程式)が何であるかという問いや、中性子星の質量といった連星の個性はショートガンマ線バースト駆動に反映されるのかという問いに対しては今なお解明できておらず、研究をさらに推し進めていく必要があるとする。
連星中性子星合体はさまざまな分野と密接に関係しているため、今回の研究の波及効果は大きいことが考えられるとのこと。研究チームは、急速な勢いで発展するマルチメッセンジャ—天文学の時代において、観測との比較に耐えうる精緻なシミュレーションを今後も進めていく予定としている。

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