知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第189回 オープンRANで日本の携帯電話産業の再興なるか、NTTドコモ系がインドネシアで実績

2025年3月10日(月)18時29分 マイナビニュース


日本の携帯電話産業再興に向け、国内企業が力を入れて取り組んでいる「オープンRAN」。一時の盛り上がりから一転して停滞傾向にあるが、着実に実績を上げる事業者も出てきている。NTTドコモと日本電気(NEC)が合弁で展開しているOREX SAIの事例から、オープンRANの現状を確認してみよう。
停滞ムードの中、OREX SAIが初の商業契約を受注
現状、日本企業の存在感が全くといっていいほどなくなっている携帯電話産業。だが日本の企業もそうした状況に対して指をくわえて見ている訳ではなく、再浮上のため活路を見出しているのが「オープンRAN」である。
これは従来、提供する企業毎に異なっていた携帯電話基地局などの無線アクセスネットワーク(RAN)のインターフェースを統一化し、複数の企業が提供する機器を組み合わせてネットワークを構築できるようにする仕組みだ。
現在、携帯電話向けの通信機器市場はファーウェイ・テクノロジーズやエリクソンなど少数の企業による寡占状態となっているが、オープンRANが普及すればその蚊帳の外にいる日本企業には大きなチャンスとなるだけに、国内の携帯電話会社や通信機器ベンダーがオープンRANの事業化に積極的に取り組んできた経緯がある。
しかしながら、大きな期待を集めた5Gによる新規市場開拓が進まず、携帯電話会社が売上を大きく伸ばす見込みが立たなくなったこともあってインフラ投資意欲が減衰。必然的に2023年ころを境としてオープンRANの導入機運もしぼんでしまい、当初オープンRANの事業化に強い期待をかけていた国内の通信機器ベンダーも、事業規模縮小を余儀なくされている。
だが、2025年3月3日からスペイン・バルセロナで開催されている「MWC Barcelona 2025」の様子を見ると、かつてほど勢いがある訳ではないものの、オープンRANの導入に向けた機運は徐々に高まりつつあるようで、徐々に成果も出てきている。
そのことを象徴しているのが、NTTドコモは2024年に、オープンRANの推進に向けNECとの合弁で立ち上げた「OREX SAI」だ。OREX SAIはMWC Barcelona 2025会期中の2025年3月4日に、インドネシアの固定通信事業者であるSURGEと、インドネシアでの5Gを用いた固定無線アクセス(FWA)による高速インターネットサービスの提供に向け、複数年の商業契約を締結したことを明らかにしている。
このことは、OREX SAIとして初めて、オープンRANを用いた具体的な商用ネットワーク整備の受注を獲得したことを意味している。これまでOREX SAIではいくつかの海外通信事業者とオープンRANの導入に向けたトライアルは実施してきたが、具体的な商用展開にはまだ結びついていなかっただけに、SURGEの事例はオープンRANの広がりを見据える上で大きな一歩となることは間違いない。
低コストとスピードに強みも既存事業者向けには課題が
OREX SAIのCTOである安部田貞行氏によると、既存の通信機器ベンダーら競合と争い、SURGEからの受注を獲得できた大きな要因として、オープンRANによって同社が要求する整備スピードと低コスト化を実現できたことを挙げている。
今回、SURGEがOREX SAIと整備を進めようとしているのは、スマートフォン向けのモバイル通信サービスではなく、モバイルの技術を用いた固定ブロードバンドサービスだ。インドネシアの固定ブロードバンド回線普及率が15%と低く、とりわけ地方でのネットワーク整備が進んでいないことから、光ファイバーの整備が進んでいない地方部を中心に、無線で固定ブロードバンドのネットワークを整備することが狙いとなっている。
それゆえプレ商用サービスの開始は2025年後半、本格サービス開始は2026年前半と早期の立ち上げが求められているし、安部田氏によると月額料金も10万ルピア(約1700円)と、日本で提供されている固定ブロードバンドやFWAのサービスよりもかなり安い金額が想定されているという。OREX SAIはオープンRANの技術を用い、これらの条件を“赤字覚悟”ではなく、コストに見合った形で実現する計画を打ち出せたことが、受注へとつながったようだ。
ただし低コスト化のためには日本のFWAと同じ水準でのサービスは難しいという。利用する周波数帯はインドネシアでFWA向けに新たに割り当てられた1.4GHz帯(バンドn50)を用い、通信速度は最大100Mbpsと、日本の水準からすると高速という訳ではない。
だがそれでも、従来ブロードバンド回線の恩恵を受けられない人達にとって大きなメリットをもたらすことは間違いない。またOREX SAI側も予定通り整備が進めば、売り上げ規模も100億円を超える水準を達成できるなど大きなメリットをもたらすことになるようだ。
ただ一方で、今回のSURGEのケースは新たな周波数帯を用いた新規のサービスに近いもの。ある意味で楽天モバイル傘下の楽天シンフォニーが、やはりオープンRANを用いたネットワーク構築を支援し、2023年にサービスを開始したドイツの新規携帯電話事業者、1&1のケースと共通している部分も多く、新しい技術であるオープンRANを導入しやすかったともいえる。
一方でOREX SAIMも、既存の携帯電話会社にオープンRANを導入してのトライアルは多くの実績を挙げているものの、商用ネットワークへの導入実績はまだないのが実情だ。既に多くの国や地域で携帯電話市場が飽和している現状、新規の携帯電話事業者は数が決して多いとはいえないだけに、“本丸”というべき既存の携帯電話会社へのオープンRAN導入が、最大の課題となってくることは間違いない。
ただ安部田氏によると、確かに当初オープンRANに強い関心を持っていた欧米の携帯電話会社は、経営状況の厳しさや政治の影響もあって導入機運が高まっていない一方、東南アジアは人口も多く成長余地も大きいことから導入に向けた関心も比較的高いようだ。それゆえOREX SAIでは東南アジアを中心に市場開拓を積極的に進めているそうで、今回のMWC Barcelonaに合わせてはSURGEだけでなく、シンガポールのStarHubやフィリピンのGlobe Telecomとのパートナーシップ締結も発表している。
その上で安部田氏は、いくつかの事業者と2026年頃の商用サービスを意識した話を進めているとしている。もちろんフィールドトライアルが順調に進んだからといって、その後の商用化に向けた受注を実際に獲得できるとは限らないが、それでもOREX SAIの取り組みが今後数年のうちに花開く可能性が見えてきたことは確かだろう。
新しい技術でもあるオープンRANの導入に向け、足りていないのは何より実績でもあるだけに、SURGEのネットワークをはじめとしていかに多くの実績を作り上げるかが、OREX SAIには求められることになるだろう。世界的にオープンRANの機運が高まっていかなければ、日本の通信産業の再興にもつながらないだけに、OREX SAIや楽天シンフォニーのような事業者が果たす役割は今後一層大きくなってくるのではないだろうか。

マイナビニュース

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