M4チップが載った新型「MacBook Air」に見る、AI時代に向けた進化とAppleの戦略 光の加減で色調が変化する新色スカイブルーにも注目

2025年3月11日(火)22時5分 ITmedia PC USER

M4 MacBook Airの評価機

 Appleが3月5日に発表した、M4チップを搭載する新型「MacBook Air」の実機を一足先に評価することができた。
 評価機の構成はCPU、GPU共に10コア、内蔵メモリは24GBで、SSDは512GBだ。新色のスカイブルーについては詳細を後述するが、光が当たる部分はシルバーに見え、角度によってはターコイズに見えるという、爽やかでクールなカラーに仕上がっている。
 メカニカルな設計の部分では、従来モデルを踏襲しているが、随所にAppleが示す戦略的なメッセージが感じられる。改めて製品仕様を振り返った上で、実機による評価を進めよう。
●“Apple Intelligence対応”を進めるApple
 先日発表されたiPhone 16eにもいえることだが、直近のApple製品の戦略は“Apple Intelligenceに対応させること”に帰結している。
→・激安とはいえない廉価スマホ「iPhone 16e」を使って分かった本質的価値 Appleの“次の時代”を見据えた一手か
 まず注目すべきは、価格と標準仕様の見直しだ。日本での価格は円安などの影響もあってか据え置きとなってしまったが、13型モデルの米国価格は従来よりも100ドル値下げとなる999ドルに設定された(以前の水準に戻ったともいえる)。
 しかも値下げと同時に、標準メモリが8GBから16GBに倍増していることにも注目したい。メモリ増量と価格引き下げを同時に行ったのは、単なる“お買い得感”を煽るためではなく、その背景にはAI時代への備えがある。
 Appleは昨今、Apple IntelligenceというオンデバイスAIの機能強化に力を入れているが、標準メモリを増強することで、より大規模なAIモデルをデバイス上に読み込めるようになる。
 Apple Intelligenceはクラウドへの接続を前提としたAIとシームレスに連動する機能があることも特徴の1つだが、5G通信モデムを内蔵せず、スマホよりも多くのアプリケーションを連動させる機会の多いMacでは、オンデバイスで使われるAIのモデルデータは大きくなると推察される。
 M4 MacBook Airでメモリが倍増したのは、従来の体験を落とさずにAI機能を生かすことだろう。日本円では価格据え置きと書いたが、Windows PCと比較しても本機はリーズナブルな設定になっている。
 そのお買い得感は、各種ベンチマークや具体的なアプリケーションのパフォーマンスからも読み取れる。以下、前モデルに位置付けられるM2 MacBook Airとの比較を中心に話を進めることにしよう。
●着実に向上したAI処理性能
 まずはAI関連の処理能力について、どのような変化が見られるかを客観的な数値としてベンチマークテストアプリ「Geekbench ML」で比較してみた。なお、テスト実施の前後でアプリの名称が「Geekbench AI」に変化したが、基本的には同じものだ。
 このベンチマークテストは、CPU、GPU、Neural Engineのそれぞれで計測が行える。M4 MacBook AirはCPUやGPUのスループット向上でそれぞれの数値も向上しているが、CPUのスコアは想像では「もっと速くなっているのでは?」と思っていたほどではなかった。
 M4ではCPUの命令セットがアップデートされ、ML関連の演算が高速化しているはずだが、それ以前からAppleは独自の命令セット拡張を有していたので、Core MLというフレームワークでは既に実装されていたのかもしれない。
 一方、Neural Engineのスコアを見ると、M2とM4の違いはクロック周波数が少しばかり向上している程度の違いでしかないが、量子化のスコアに関しては2万9019点に対し、M4では5万1205点と1.7倍近い性能アップを記録している。
 画像処理ソフトウェア「Pixelmator Pro」での超解像処理も、この数字に近い向上を示している。Apple Intelligenceに合わせて2倍速になったといわれてきたNeural Engineだが、このように量子化データにおけるパフォーマンス向上が、どうやら改良の鍵のようだ。
 これはApple Intelligenceのようなオンデバイス言語モデルだけではなく、同様にAIモデルを参照しながら行う被写体認識などでも高速化に効くはずだ。
 なお、量子化データの処理能力が向上した新しいNeuralEngineはM3チップにも搭載されておらず、M4ファミリー以降の対応となる。
●CPU/GPUの堅実な進化がアプリ実効速度を押し上げ
 M4チップのパフォーマンスについては、既にMac miniやMacBook Pro 14インチモデルなどでも知られたことだが、連続した負荷が長時間続く用途でなければ、本機でもその実力に変化はない。
 特にCPU性能に関しては大きく向上している。向上の理由を改めて振り返ると、高性能コア、高効率コアともに設計上の大幅な改良が加えられているだけではなく、高性能化した高効率コアの数が2個増加している。これにより総合性能が向上するとともに、日常的なタスクにおける電力効率も高まっている。
 続いて「Geekbench Pro 6」のベンチマークテストの結果を見ると、シングルコアスコアでM2 MacBook Airが2687点なのに対して、M4 MacBook Airでは3864点を記録した。
 マルチコアスコアは9792点から14889点へと大きな飛躍だ。参考として記載したM3チップのパフォーマンスと比較しても差がある。
 この性能向上の成果を最も受けているのがPhotoshopで、Pudgetのアプリケーションベンチマークにおいて34%の速度向上を果たしている。ちなみにこのスコアはわずかではあるが、M3 Proチップをも上回る。
 ではGPU志向の強いアプリケーションではどうだろう? GPU性能も着実に進化しており、「Geekbench」のMetalスコアはM2 MacBook Airが約4万6305点だったのに対し、M4 MacBook Airでは約5万7527点に向上している。
 この値はメッシュシェーダやレイトレーシングのアクセラレータによる効果を反映していない演算スループットだが、GPUを演算機として使う例として、「DaVinci Resolve」でのテスト結果を見ると42%の向上が見られ、ほぼスコア通りの処理速度向上がもたらされている。
 4Kレベルの動画編集や画像加工処理は個人ユースでも使われることが多くなっていることを考えれば、この違いは小さくはない。
●スペースグレイに代わる、新色スカイブルー
 さて、前述したようにスカイブルーがMacBook Airに新色として投入された。
 個人的な感想を言えば、これまでAppleが投入してきな染色アルミの中でも、もっとも上品な風合いを持っている。淡いメタリックブルーのボディーは光の加減で色調が変化し、シルバーに近い輝きを感じる一方、ターコイズブルーの落ち着いた水色も感じる。
 見る角度や環境光によって微妙に色味が変化するが、一貫しているのは“控えめ”であることだ。派手すぎず、主張はしない。そして爽やかな印象は、パーソナル向けの製品として、間違いなく人気の選択肢になるだろう。
 外観デザイン自体はM2世代で刷新されたユニボディーを踏襲しており、薄型軽量でファンレスという特徴に大きな変更はない。
 なおスカイブルーの追加によって、定番カラーだったスペースグレイが廃止された。シルバー、スターライト、ミッドナイトを加えた4色構成となる。
 画面上部のノッチ(カメラ配置部)や大きなファンクションキー+Touch ID内蔵キーボードも健在だ。つまり、新モデルの外観上のトピックは、スカイブルーの追加以外にはない。
 しかし、内蔵カメラは1200万画素のセンターステージ対応カメラにアップデートされており、AIを活用したリアルタイムの追尾機能を備え、ユーザーの動きに合わせて自動的にフレーミングを調整する。また、デスクビュー機能が追加されたことで、会議中に手元の資料や書き込みを簡単に相手に共有できるようになった。
●あらゆるユーザーの用途をカバーする万能モデル
 MacBook Airはミニマルな構成が魅力な“文房具的”モバイルコンピュータとして登場し、その後、エントリークラスの製品として定着した。
 しかし、M1 MacBook Air以降において、薄型ノートブックの性能、機能が強化され利用領域が広がり、今回のM4 MacBook Airでは、日常的な用途から本格的なクリエイティブ作業までを幅広く快適にこなせる万能性を備えるに至った。
 CPUやGPUの底上げはもちろん、将来に向けてのAI性能の大幅な向上、新色スカイブルーの美しい仕上がり、内蔵カメラの機能向上、外部ディスプレイへの拡張性など、外観に大きな違いが少ない反面、ユーザーが実際に手にしたときに体感できる進化が詰まっている。
 M1 MacBook Air以前のユーザーはもちろんだが、M2 MacBook Airからでも違いは感じられるだろう。
 こうした基本性能の向上に加え、Appleは外部ディスプレイへの対応強化という形で、本機の万能性を高めている。MacBook Airはこれまで、外部ディスプレイを1台しか接続できなかったが、今回からは2台を同時接続できるようになった。動画編集や画像編集、プログラミング作業といった用途で、デスクの上での作業性が大幅に向上するはずだ。

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