JAXAの「だいち4号」(ALOS-4)の機体が公開、従来より4倍の観測幅を実現!

2024年3月13日(水)9時49分 マイナビニュース

●「だいち2号」の後継機として大幅な性能向上を果たした「だいち4号」
三菱電機は3月11日、同社の鎌倉製作所にて、先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)を報道陣に公開した。同衛星は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が現在軌道上で運用している「だいち2号」(ALOS-2)の後継機。分解能を維持したまま、観測幅や観測頻度が大幅に向上しており、災害対応などでの活用が期待される。
衛星の重量は約3トン。軌道上で各部を展開すると、10.0m×20.0m×6.4mという大きさになる。三菱電機は、プライムメーカーとして、衛星開発を担当。2016年度より開発を始め、設計・製造・試験が完了した。開発費は320億円(打ち上げ費用は含まず)。2024年度に、H3ロケットで打ち上げられる予定だ。
だいち4号が担う4つのミッション
JAXAの「だいち」(ALOS)シリーズは、2006年に初号機が運用を開始。2011年に発生した東日本大震災では、400シーンの撮影を実施、10府省・機関へ情報を提供し、政府の情報集約に貢献した。
地球観測には、大きく光学とレーダーの2種類の方法がある。このうち、光学は普通の写真と同様なので分かりやすいだろう。一方、レーダーは電波を使う。アンテナから電波を出し、地表で反射して戻ってきたものを受信。光学と違ってモノクロ画像になるものの、夜間や悪天候時でも観測できるというメリットがある。
だいちシリーズのレーダー観測の大きな特徴は、Lバンドと呼ばれる帯域を使うことだ。Xバンド(約3cm)やCバンド(約6cm)よりも波長が長く(約24cm)、分解能の面ではやや不利なものの、木の枝葉などを通過できるため、日本のように植生が多い地域でも、地面の形状を正確に把握しやすい。
初号機は光学もレーダーも搭載する衛星だったが、このレーダー観測を引き継いだのが2014年に打ち上げられた「だいち2号」(ALOS-2)である。同機は、打ち上げからすでに10年。まだ稼働しているとはいえ、設計寿命の5年を遙かに超えて運用しており、故障による観測中断を防ぐためにも、後継機が求められていた。
だいち4号は、2号のミッションを引き継ぐために、同じ高度(628km)の太陽同期軌道から観測を行う。分解能は、2号と同じ3m。しかし、強化されたのは観測幅で、これは50kmから200kmへと、4倍に広がった。この200kmという観測幅だと、たとえば伊豆から銚子までの広範囲が一度に観測可能になる。
だいち4号に与えられたミッションは、以下の4つ。
地殻・地盤変動の監視
災害状況の把握
海洋状況の把握
地球規模課題への対応
上記(1)では、「干渉SAR」と呼ばれる技術を使う。これは、同じ場所を別の時間に2回観測し、その2つのデータを処理することで、地表の変動をcmオーダーで検出できるというもの。今年1月に発生した能登半島地震では、だいち2号による緊急観測を実施。最大で4mもの隆起が確認され、これは現地調査の結果とも整合した。
だいちは2号も4号も、回帰日数は14日、つまり、14日後には同じ場所に戻ってくる。2号は観測幅が狭いため、4回に分けて観測しなければならなかったが、4号はそれを1回で観測できる。これにより、年間の観測回数は、4回から20回へと、5倍に増えるという(4倍でないのは、実際の運用ではマージンも含まれるためだ)。
この観測頻度の向上により、火山や地盤沈下などの異変を、早期に発見することが可能となる。また、短期的な変動も、高精度に検出できるようになる
上記(2)は、レーダーの全天候型観測が役立つ。災害はいつ起きるか分からず、光学で観測できる昼間や晴れた日とも限らない。2020年7月に熊本県を中心に発生した集中豪雨では、河川の氾濫の様子を見るために、だいち2号で深夜の観測も行った。
上記(3)のためには、衛星AIS(船舶自動識別装置)受信機「SPAISE3」を搭載する。これはJAXAが開発した実験装置で、従来よりも性能が向上。船舶が混雑する海域でも、個々の識別が可能になったという。
上記(4)では、森林資源や食料資源の把握を行う。だいち2号では、全球の森林マップを作成。森林保全など、地球温暖化対策に貢献した。また機械学習を活用した水稲監視パッケージも開発。東南アジアを中心に、実証活動が続けられている。
●だいち4号のフライトモデルの各部を写真を交えて詳細解説
公開されたフライトモデルを詳細解説
だいち4号に関する説明が行われたあと、報道陣は4班に分かれてクリーンルームに向かい、完成した衛星を見ることができた。衛星は打ち上げ時の向きで設置されていたのだが、軌道上では、この上下が逆さまになる。またレーダー、太陽電池パドル、SPAISE3は畳まれており、軌道上ではこれらを展開する。
上にある白い板が、レーダーの「PALSAR-3」である。5枚のパネルで構成されており、展開すると、幅約3.6m、長さ約10mという大きなアンテナになる。表面に10本の突起が見えるが、この中にはボルトが通っており、パネルを固定。軌道上では、これをボルトカッターで切断してから、モーターの力で展開するそうだ。
表面をよく見ると、12cmほどの小さな白い板がびっしりと貼られている。この1つ1つが、アンテナの素子。それぞれの波長を調整することで、電波を出す方向を変えられるフェーズドアレイ方式を採用しており、アンテナを物理的に動かして向きを変える必要は無い。
前述のように、観測幅は4倍に拡大しているが、これを実現したのが「デジタル・ビーム・フォーミング」(DBF)技術だ。従来は、一度に1方向しかビームを出すことができなかったが、PALSAR-3ではオンボードでの高速演算により、最大4方向の観測が可能になったという。
分解能を維持したまま、観測幅が4倍に広がったので、データ量も4倍になる。そのままだと、通信がボトルネックになってしまうため、だいち4号は新たにKaバンドアンテナを搭載。従来のXバンドより4.5倍高速な、3.6Gbpsの通信速度を実現している。
ただ、地上との直接通信は、衛星が1周する約100分間のうち、地上局が見えている10分程度しか使えない。そこで、だいち4号には、中継衛星を使って光通信でデータを送る装置も用意。この通信速度は1.8Gbpsで、これだと1周で40分の通信が可能だ。
軌道上では、太陽電池パドルを左右両翼に展開し、PALSAR-3は右側面に向けた状態で飛行する。そのため、基本的には進行方向の右側を観測することになるが、地震などが起きて緊急観測を行うときには、機体の向きを180°変え、左側を観測することも可能。衛星の姿勢を早く変えられるよう、リアクションホイールは5台搭載されている。
なお、だいち4号は当初、H3ロケット2号機で打ち上げる予定だった。しかし、初号機の失敗により、計画が変更。2号機はもともと、固体ロケットブースタ無しの「H3-30」形態になる予定だったが、初号機と同じ「H3-22」形態を使い、ダミーペイロードを打ち上げることになった。
H3ロケットは、3号機以降の計画がまだ決まっていないものの、順当に行けば、次はだいち4号が搭載されることになるだろう。ただ、その場合、少し気になるのは、打ち上げ時の振動環境の変化だ。ブースタ無しのH3-30形態に比べ、ブースタ付きのH3-22形態は、その分、振動が大きくなってしまう。
しかし、形態の変更による問題の検証はすでに完了しており、特に衛星側での追加対応は不要という結論が出ているとのこと。衛星はもともと、H3-30専用で設計していたわけではなく、バックアップとしてH-IIAも想定していたそうで、耐振性には余裕があった。その結果、変更無しでH3-22に乗せることが可能になったのだ。

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