IIJmio「ギガプラン」改定の効果は「狙い通り」、プランの抜本改定は「検討の余地あり」 キーパーソンに聞く

2025年4月11日(金)11時18分 ITmedia Mobile

3月1日から値下げとデータ増量を行ったIIJmioの「ギガプラン」

 IIJは、IIJmioの「ギガプラン」を3月1日に改定した。データ容量別の料金という枠組みやプラン数はそのままだが、5GBや10GBは料金を値下げする一方で、20GBから50GBの大容量プランはそれぞれデータ容量を5GBずつ増量している。また、30GBプランはデータ容量を35GBにしただけでなく、価格も2700円(税込み、以下同)から2400円へと1割以上、値下げしている。容量アップと値下げが両立しているのは、このプランだけだ。
 3月には、IIJmioの競合ともいえるオプテージのmineoも、大容量プランの50GBコースを新設しており、もともと低容量が主戦場だったMVNOも、徐々にそのデータ容量を増やしている。では、IIJはどのような狙いで料金プランの一部を改定したのか。同社の常務執行役員の矢吹重雄氏と、MVNO事業部 コンシューマサービス部長の亀井正浩氏に話を聞いた。
●5GBプランのシェアが2GBよりも高くなっていた
—— 最初に、なぜプラン改定をしたのかを教えてください。
亀井氏 ギガプランを出して4年がたちました。われわれも数年前に値下げした時期もありましたが、商品力という意味だと30GBを強化してきたキャリアのサブブランド(ahamoやUQ mobile、Y!mobile、LINEMOなどを指す)もいたので、思い切ったことをやらなければ注目されない。既存のユーザーの方で、データ容量を使っている方にアピールするため、値下げと増量を実施しました。昨年(2024年)、同時期に大容量帯をリリースしていましたが、全容量そろった状態だったので既存ユーザーや新規ユーザーに対して、何をすればいいのかを考えました。
—— 小容量の部分は、5GBと10GBを値下げしています。ここを値下げした意図を教えてください。
亀井氏 昨年の改定以降、5GBプランのシェアがだいぶ高くなってきていました。割合でいうと、2GBを超えていたというのがプラン改定前の状況です。2GBから5GBに変わっていく流れがあったので、さらに5GBとその上の10GBを強くしたいという思いがあり、ああいう見せ方になっています。階段が低くなっているので、5GBから10GBに変えていただくステップアップをしていただきたいということもあり、意図的にこのような形にしています。
—— 5GBはそんなに増えていたんですね。ただ、ユーザーが多いところを値下げすると、失う収益も大きくなってしまうのではないでしょうか。
亀井氏 新規の獲得においても、(お得さを)示したかったというのがあります。確かに既存ユーザーを考えるとマイナスになるだけですが、そこは長期利用を促すのが狙いです。
●サブブランドと比べて見劣りすることがない料金に
—— もともと20GB以上は家族や複数端末でシェアする前提の料金設定でした。今回の改定で、何か考え方が変わったようなことはありますか。
亀井氏 大容量帯を出して1年ぐらいの間で、20GBプランの方のデータ使用量が20%ぐらい多くなってきたので、大容量帯は安くするというよりも容量を増やした方がいいと考えました。そのままの容量帯でとどまってもらうことで、利用も促進できます。使い方(の想定)に関しては変わっていません。
—— とはいえ、30GBは35GBになり、価格も引き下げています。ここは力を入れたところではないでしょうか。
亀井氏 もとの計画では、35GBも価格はそのままでした。ただ、上層部の承認を取る中で、「他社のサブブランド(対抗)を見据えると弱い」という意見が出ました。「サブブランドと比べて見劣りすることがない料金にして、商品価値をもう1回上げましょう」という後押しがあったので、ここまでやってみました。
—— いわゆる社長案件のような(笑)
亀井氏 そこまでではありませんが(笑)、会社全体としての判断です。
矢吹氏 30GBがみんな安くなった中で、もっと存在意義を示したいというのが狙いになります。
—— その意味では、新35GBプランは戦略的な価格設定なんですね。
矢吹氏 そうですね。キャリアに対して安いというのがMVNOの存在意義の1つなので、そこは意識しています。
●サブブランドへの流出を止める要因は作れた
—— 実際、大容量のところを変えてみて、ユーザーの反応はどうでしたか。
亀井氏 大容量帯は変わらず継続利用いただけていますが、ahamoなど他社が30GBにアップグレードしてきた中で、顧客が流れているという印象がありました。新規が取れないというわけではないのですが、既存のユーザーが流れていた。そこは止めることができました。容量はahamoと比べて5GB多いですし、価格も安い。そういう意味だと、流出を止める要因は作れたと思います。
—— ただ、ahamoとの差は500円程度しかありません。5GB多いですが、音声通話定額を加味するとあまり変わらないという見方もできます。
亀井氏 ちょうど前日にmineoさんが50GBコースを安く出されていました(発表日がmineoの1日後だった)が、もうちょっと工夫はできるかもしれません。
矢吹氏 その意味だと、家族利用がいかに増えるかが今後重要になってくると考えています。
亀井氏 単身の方が使うケースも多いですが、ご夫婦や親子で使うことを想定しています。
—— 流出防止以外の効果はありましたか。
亀井氏 35GBは伸びていますが、他の容量からダウングレードするケースもあり、そこ(35GB)に人が集まっている感じになっています。
—— このあたりの容量は、MVNOでも熱くなっているのでしょうか。
矢吹氏 全体比率からすると、そうでもないですね。
亀井氏 5GB帯の伸びに比べると、35GBはそこまでではありません。値下げしたところにユーザーがきちんと乗っかってきている印象があります。これによって、5、10、35GBのそれぞれがユーザーを増やすことができました。かといって幅がないと商品としての選択肢がなくなってしまうので、その他も残しています。
—— 逆に、5GBや10GBの値下げ後は狙い通りになっているのでしょうか。
亀井氏 割と狙い通りです。値下げを機にプラン変更していけることもあり、2GBが減っているのがより明確になりました。先ほどお話ししたように、今年度(2024年度)の初めごろには既に5GBの方が構成比として多くなっていましたが、それ以上に5GBが増えています。プラン変更のきっかけにしていただけたのではないでしょうか。
●今のままデータ容量を変更するか、プランそのものを変えるかは要検討
—— ユーザーのデータ使用量自体も、昔と比べて増えているような感じですか。
亀井氏 はい。増えています。ただ、総務省のまとめている比率に近く、そこを超えるような感じではありません。1年ごとに、1倍台の増え方です。
—— 1.5倍だとしても、5GBのユーザーは翌年には7.5GBになっていますし、その翌年には11.25GBになります。あと数年たつと、5GBのトレンドが10GBに移っていくことになりそうでしょうか。
亀井氏 はい。ただ、今のプランのまま容量変更をしていくのか、別のプランにマイグレーションしていくのかは検討の余地があると思っています。ギガプランは、やっと足りなかったものを補えて、既存ユーザー向けの優待なども一通り出来上がりました。別サービスは作ると時間がかかるので、どちらにするかは要検討になります。
—— お話をうかがっていると、やはりMVNOだとサブブランドほどデータ通信を使うユーザーが多いわけではないようですね。
亀井氏 10GB以下の人がまだ多いですね。
—— mineoのデータだと、若年層ほど容量の多いプランを選ぶ傾向が強いことが分かりましたが、その意味だとIIJmioはあまり若年層が取れていないのでしょうか。
亀井氏 IIJmio自体、若年層というより、やはり40代、50代の男性が多いですね。mineoはCMもやっているので、若い方が多いのかもしれません。
—— データ容量が多い方が単価も高いので、もうかりそうですが、そこを強化するというような案はありますか。
矢吹氏 ただ、その前に接続料がもっともっと低減してほしいというのが一番です。若年層かどうかを問わず、5G SAの基地局がバンバン建ち始めるとコンテンツも変わってきて、当然ながらデータトラフィックも増えます。社会インフラに合わせて、トラフィックもどんどん大きくなっている。ここがビジネスモデルとしてコストに落ちてくることが重要です。
—— 今の接続料だと、大容量プランに注力するのはなかなか難しいということでしょうか。
矢吹氏 今の状態だとそうです。ただし、容量の話もありますが、昔から言われている昼間の速度の話もあります。動画コンテンツの利用が増えてくると、昼のトラフィックの流量を上げていく必要がある。一方で、大容量を支えるためのものを作るのか、詰まっているところを広げるのかは似たような話ですが微妙に違います。動画がある程度のクオリティーで見られるところには追従しなければなりません。
●2GBのニーズもあり、5GBから移らない人も一定数いる
—— 料金改定がこのタイミングになったのは、春商戦を意識してのことでしょうか。
亀井氏 そうです。3月1日適用ですが、なるべく2月の早い段階でということでお知らせを出しました。
—— 先ほどお話ししていたように、mineoの発表の翌日でした。これは狙っていたのでしょうか。
亀井氏 まさか翌日になるとは思ってもいませんでした(笑)。1月末ぐらいには来るかなと思って準備はしていたのですが、前日だったので、さすがにそこからは身動きが取れませんでした。内容を拝見し、取り組んでいたのが主に大容量だったのでそこまで影響はないという判断です。
—— ただ、意識はしていたと。
亀井氏 そこは当然意識しています。
—— 今回、2GBは手付かずでしたが、ここはもうあまりいじらないのでしょうか。
亀井氏 一方で、アンケートを取ってNPS(Net Promoter Score)をうかがうと、ニーズはあります。もっと安く、手軽に使いたいというニーズです。日本通信の料金プランを意識した質問かもしれませんが、それを今の料金プランで実現するのがいいのか、別物を作った方がいいのかは、決断できませんでした。低容量帯は、長期利用も難しいので……。
矢吹氏 長期利用という視点で捉えると、経営的に少し抑えてもいいという判断はありますね。
亀井氏 私たちの場合、端末割引キャンペーンもあるので。
矢吹氏 個人認証をかけてちゃんと使うことの確実性が増せばいいのですが、(MNPの)“弾”に使われてしまうのは嫌だなと思っています。弾にならないところをうまく担保できれば、もっとバリエーションは考えてもいいと思っています。
—— ただ、5GBの差は100円しかありません。この状態で、そもそも2GBプランは必要なのでしょうか。
亀井氏 100円差なら5GBにしてくれないかなという考えはありましたが、それでも5GBに移らない方は結構いるので、容量はあまり気にしていないのかもしれません。
—— プラン変更したことが伝わってないのでしょうか。
亀井氏 周知という意味だと、全ユーザーに伝えています。われわれの不利益要素になるかもしれないことも、きちんとお伝えしています。
矢吹氏 でも、ギガプランを出して4年たっても、まだ旧プランの人がいるんですよね。
亀井氏 一度契約したら、後は興味がないという人もいるのかもしれません。
●端末メーカーとはウィンウィンの関係にある
—— 話は端末ラインアップに変わりますが、以前から独占端末が増えているような印象があります。これは意図的にやっているのでしょうか。
亀井氏 矢吹も一通りメーカー行脚が終わって、関係構築できたと思っています。
矢吹氏 メーカーとはウィンウィンの関係にあると思っています。われわれはオリジナルモデルを扱える。彼らは彼らで、われわれを踏み台にするというと言葉は悪いですが、売れればキャリアモデルを狙える。一生懸命、お互いにやれるところをやっている感じです。うちのユーザーはリテラシーが高い方が多いので、ハイエンドモデルや限定モデルがきれいに完売していきます。
亀井氏 昨年度は7モデルを独占販売しました。あと、あまり言っていませんが会員限定のECも作っています。そこだと、外(非会員)に値段が出ない。在庫が余っているものを買い取ってきて、既存の会員に売るということができていて、それは大きいと思っています。
—— 優待を始めましたが、特典によって解約率が下がったなどの影響はありましたか。
矢吹氏 それ(長期利用特典)も含めて、顧客満足度が上るような改善はずっとやってきました。前年度比で言うと、毎月どんどん(解約率が)下がっている状態です。そういう意味だと、効果があったといえます。ただ、どちらかといえば、長期利用特典の効果は解約率の低下というより、LTV(Life Time Value)で継続年数の伸びを見る方が正しいとは思っています。その部分は、これからデータを収集していきます。
●取材を終えて:サブブランドへの流出防止効果あり、今後はギガプランの抜本改定も?
 今回の料金改定で最も戦略的だったが、30GBプランを35GBに増量し、価格も2400円に引き下げた点だ。亀井氏によれば、ahamoなど競合サブブランドを意識したという。矢吹氏も「キャリアに対して安いのがMVNOの存在意義」と語る。この改定により、サブブランドへの顧客流出抑制効果が見られた。
 シェアが伸びていた5GBプランは値下げでさらに強化し、10GBプランへの移行も促している。20GB以上のプランは、利用者のデータ使用量が増加傾向にあったことを踏まえ、値下げではなく容量増量で対応した。
 ギガプラン投入から4年がたち、思い切ったことをしなければ注目されないという危機感も改定の背景にあるという。一方で、亀井氏はギガプランという枠組みそのものを抜本的に変えることも、検討の余地があるとしていた。ギガプランが丸4年を迎えた中、徐々に次の“あるべき料金”を考えるときが近づいているのかもしれない。

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