ライターがAIエディタに乗り換えたら“孤独な旅“が終わった 「Cursor」で文章を書く方法

2025年4月18日(金)15時52分 ITmedia NEWS

 大学のレポートをAIに書かせて提出するなどの「事故案件」はまあまあ起こっていて、すでに問題になっているところである。大学ではこうした行為に対してのガイドラインを設けているところも多い。
 一方で仕事で文章を書かなければならない人は、研究論文などでもない限り、なんとかAIを使って効率化できんのかと日々考えているのではないだろうか。これまで文章とAIという関係では、書き上がったものを校正してもらうとか、箇条書きの文面から丁寧なメールの内容を作ってもらうとかいった使い方があった。
 大学のレポートや研究論文をAIに書かせるべきではない理由は、文章の中身そのものがAIの知識に依存するからである。一方で文章の構造、例えばこの文末をどう結べばスムーズかといったことは、文章力の問題であり、そこはAIに助けてもらっても内容には直接関係しない。特に論旨は出来上がっているのだが文章力が追い付かないという理系の人は、助かるのではないだろうか。
 AIコードエディタとして知られる「Cursor」は、最近ではカカクコムの全エンジニアに導入されたというニュースで知られるようになった。
 多数のプログラミング言語に対応し、複数のAIモデルを使ってプログラミングをサポートするツールだ。例えば途中まで書きかけのプログラムがあったら、その続きを予測して提案してくれる。提案通りでよければ、TABキーを押して確定する。
 こうしたAIにサポートしてもらうプログラミング方法は、数年前から実用化されてきた。昨今はAIエージェントを使って、プログラムの内容をテキストで投げてコード生成させるというやり方が主流になっている。
 そのCursorを使って、プログラムではなく文章を書いたらどうなるのか。実際にやってみたところ、かなりうまくいくことがわかった。
●Cursorをセットアップする
 Cursorのセットアップは、公式サイトからダウンロードしてインストールして、アカウントを作るだけである。Windows、macOS、Linuxに対応しているので、大抵の環境で使えるはずだ。
 Cursorは基本的にはエディタなのだが、拡張機能をインストールすることでさまざまなカスタマイズが可能になっている。とはいえ、文章を書くだけならそれほど多くのカスタマイズは必要ない。
 Cursorの料金プランだが、無料のHobbyプラン、月額20ドルのProプラン、月額40ドルのBusinessプランがある。最初にインストールすれば、2週間は無料でPro版が使えるので、その間に課金するかどうか決めればいいだろう。文章執筆におけるHobby版とPro版の違いは後述する。
 最初に起動すると、「Open Project」というボタンが示されるかもしれない。これはソースコードをプロジェクト単位で管理するためのものだが、文章の場合はあちこちのフォルダに保存すると思われるので、あまり関係ない。一元的に管理したいのであれば、どこか適当な場所にCursorというフォルダを作っておけばいい。
 そのあと、メニューの「File」→「New Text File」を選ぶと、Cursor上に空のテキストファイルが開く。このままでも日本語の入力はできる。だが日本語の入力に便利な拡張機能がたくさん公開されているので、これを使わない手はない。
 左上のツールアイコンから、「Extensions」を選ぶと、拡張機能のメニューが開く。そこの検索ボックスに「japanese」と入力すると、日本語の拡張機能がたくさん見つかる。
 取りあえず入れておくべきものとしては、「Japanese Language Pack for VS Code」がある。これはUIを日本語化してくれる。設定メニューのフロントページは英語のままだが、エディタの設定は日本語になる。またメニューやエディタ画面の下の表示も日本語化される。
 「Japanese Word Count」は、日本語の文字数をカウントしてくれるもの。画面下の「文字数」と書かれた部分に、スペースも入れた文字数を表示する。またこの上にカーソルを合わせると、スペース抜きの文字数と、400字詰め原稿用紙に換算すると何枚か、という表示も出る。
 それからあったら便利な機能として、「Google Translate Extension」がある。これは文章中に英文や英単語がある場合、そこを選択してカーソルを当てると、Google翻訳を使って日本語訳を表示してくれるものだ。選択してCtrl+Shift+Tでもいい。Cursorの世界では、一つの機能を呼び出すにも複数の方法が提供されるのが普通だ。
 メニューが日本語化できたら、設定メニューに行って、「Open Editor Settings」と書かれた部分をクリックして、エディタの設定に進む。とはいえ、当面必要なのは自動保存のタイミング、文字サイズ、ワードラップの設定ぐらいかと思う。
 文章のタイプは、デフォルトはプレーンテキストになっていたりINIファイルになっていたりすると思うが、ファイル形式は画面下の「言語モードの選択」のところから選択できる。多くのプログラム言語をサポートしているが、HTMLやMarkDownといった記述式も選択できる。個人的にはプレーンテキストだと見出しの処理ができないので、MarkDownを選択している。
 たくさんのフォーマットの中から自分の求める書式を素早く見つけるには、検索窓に最初の頭文字を入力するといい。Markdownの場合は「m」を入力すると、先頭がMのフォーマットだけが出てくる。
 画面構成としては、中央がエディタ、左がさまざまな情報を表示するワークスペース、右がAIのチャット画面になっている。ワークスペースではフォルダ構造が表示でき、ここである程度のファイル操作もできる。筆者は仕事にDropboxを使っているので、ファイルメニューの「ワークスペースにフォルダーを追加…」からDropboxのルートフォルダを選択している。
 テキストウィンドウの見た目を変更したければ、テーマを設定できる。筆者のスクリーンショットのカラーリングがデフォルトと違うのは、別のテーマを設定しているからだ。
 テーマを選ぶには、設定のGeneralから「Open Editor Settings」へ進み、上部の検索窓に「テーマ」と入力すると、テーマに関する設定がたくさん出てくる。Cursorの設定項目は多岐にわたるが、設定の場所を覚える必要はない。このように検索すれば、大抵出てくる。
●AIの効果とは
 ではこの中でAIをどう使うか、ということになるが、設定画面の「Models」のところには、すでにいくつかのAIが設定されているはずだ。
 まず右側のチャットウィンドウで、普通にAIに質問することができる。ここではAIの動作をAgent、Ask、Manualの3モードが選択できる。Agentはプログラミングにおいてコードを自動生成させる際に使用するわけだが、文章にはあまり向いていない。ほとんどのケースではAIに質問することになると思うので、Askモードを選択する。
 その横には使用するAIのモデル選択画面がある。ここでは設定の「Models」で選択したものが選べるわけだが、昨今のアップデートで「Auto-Select」も選べるようになった。
 これは単に、わざわざ別アプリやブラウザに行かなくてもAIに質問できるという以上の意味がある。質問の回答を、今書いているテキストの内容を参照して、それに即した回答を出してくれるのだ。例えば文章の校正を依頼するにしても、参照する文章をコピペしてAIに投げる必要はない。開いている文章とAIチャット画面が1対1対応しているからだ。逆に言えば、文章を変えたのであれば、チャット画面も新規に立ち上げる必要がある。
 執筆中に他のウィンドウに移動したくない場合は、その場でCtrl+Kを押せば、チャット画面がテキストウィンドウ内に現れる。
 もう一つのAIの効果としては、途中まで書きかけの文章があると、その続きを提案してくれるという機能がある。提案はグレーで表示され、それでよければTABキーを押して確定する。これはあくまでも提案なので、気に入らなければ無視してそのまま続きを書けばよい。
 文章の続きに詰まってしまうということは、プロの文筆家であってもよく起こることだ。そんな時に、思ってたのと違ってもいいから、なんとなく続きを提案してくれるというのは、先を促す効果がある。これは文章に集中するという点において、無視できない非常に大きなポイントだ。
 続きに何もない空白が続いている執筆というのは、いわば一人旅である。誰も助けてくれないし、孤独だ。それよりも、取りあえず横でガチャガチャ言ってくるヤツが1人付いてくる旅は、それなりに面倒もあるが、飽きないし楽しい。そして気が付けばいつの間にか目的地に着いている。
 筆者はこの機能があることで、文章を仕上げるスピードが格段に上昇した。これまでちょっと書いてはSNSをのぞいたり、ちょっと書いては寝転がったりしていたので、一文を仕上げるのに5〜6時間かかっていた。今は3〜4時間程度で終わるようになった。
 また面白い機能としては、表組みの提案機能がある。例えばスペックをタブやスペースで区切って、なんとなくの表組みを作って情報をまとめておきたいことがある。こうしたときも、表組みを作り始めると、なんとなくそれっぽい表組みを提案してくれるのだ。もちろんデータは間違っているのだが、取りあえずそれで確定しておいてデータだけ書き換えれば済む。
 この提案機能は、Pro版から利用可能だ。Hobby版では、この機能はグレーアウトする。またHobby版では使用可能なAIのグレードが下がるが、別途APIキーを設定すれば、Pro版と同じグレードのAIを使うこともできる。ただしこの場合は、APIの従量制で課金されることになる。またAPIキーを設定しても文章の提案機能は使えるようにはならないので、これを使いたければPro版に課金する必要がある。筆者も一時期Hobby版でAPIを使っていたが、現在は提案機能を利用するためにPro版にアップグレードした。
 難点としては、これがプログラミングであれば、ここからビルドを走らせたりもできるわけだが、テキストの場合は何らかのフォーマットに書き出して整形することになる。テキスト関連のフォーマットとしてはプレーンテキスト、HTML、MarkDownがあるが、Wordなどへの書き出す機能はない。従って下書きツールとしては有用なのだが、そのまま納品や提出するなら、何らかのアプリへ向かってコピペするといった作業は必要になる。
 月額20ドルは、日本円にするとだいたい3000円程度になる。提案機能のために月額3000円出せるかというのは微妙なところだが、それによって前に進むことができるということがわかったのは、新しい発見であった。文章執筆で筆が進まないという人は、使ってみる価値はあるのではないだろうか。提案機能はいらないと思えば、Hobby版に戻せばいいだけである。
 ライターが、手になじんだエディタを乗り換えるというのは、10年に1回起こるかどうかの話である。今回の乗り換えは、これまでよりも難易度が高いが、それだけの効果は期待できそうだ。

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