“Xperiaの父”も加わり日本攻略に本腰のNothing スマホ/イヤフォンの両軸が強みになるワケ

2024年4月20日(土)6時5分 ITmedia Mobile

Nothing Technologyは、日本で新製品発表イベントを開催。Nothing EarとNothing Ear(a)を発表した

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 背面が光る斬新なデザインのスマートフォンや、シースルーのワイヤレスイヤフォンといったデザインに特徴のある製品開発を手掛ける英Nothing Technologyは、日本で新製品をいち早くお披露目するイベントを4月18日に開催した。同イベントでは、ネーミングルールを改めた「Nothing Ear」とその廉価版にあたる「Nothing Ear (a)」の2つを発表。翌19日から、蔦屋家電や一部セレクトショップなどで先行販売を開始した。
 2つのイヤフォンは生成AIの「ChatGPT」とも連携し、タッチ操作でアシスタントのように呼び出すことが可能になる。スマホのNothing Phoneも、ソフトウェアアップデートでChatGPTを組み込み、同モデルのユーザーインタフェースに合わせたウィジェットや、文字選択から呼び出せるメニューなどが追加される。
 この発表会はグローバル向けという位置付けで、発表済みのモデルの日本版を導入したわけではない点が異例といえる。Nothing TechnologyのCEO兼創業者、カール・ペイ氏も来日し、イベントに登壇している。あえて日本を発表の場に選んだのは、同社にとって日本市場の重要性が高まっているからだという。では、Nothingはどうやって日本市場を攻略していくのか。発表会で語られたことやインタビューから、その戦略を解説していきたい。
●日本での販売に成功したNothing Ear、スマホはソフトローンチで反響を確認
 スタートアップとして2020年10月にペイ氏が設立したNothingだが、翌2021年7月には最初の製品として「Nothing Ear(1)」を発表している。2022年には、スマホに進出し「Nothing Phone(1)」が登場。2023年には後継機となる「Nothing Phone(2)」も発売した。直近では、Nothing Phoneのエッセンスをミッドレンジモデルに落とし込んだ「Nothing Phone(2a)」の販売も開始しており、日本でも発売済み。4月22日には、家電量販店やIIJmioでの取り扱いがスタートする。
 同社は、Nothing Ear(1)のころから日本での展開も視野に入れてきた。同モデルは、2021年8月に米国や英国、カナダなどと同時に発売された他、スマホも初号機となるNothing Phone(1)から、日本市場で展開している。新モデルのNothing Phone(2a)は、日本市場向けのローカライズにも注力し、同社のスマホとして初めておサイフケータイにも対応した。
 ワイヤレスイヤフォンのNothing Earシリーズは、日本での販売も成功。ペイ氏によると、「アメリカに次いで、日本は2番目に大きな市場になった」という。これをきっかけに、Nothingは「日本に本格進出することを決定した」(同)。一方で、スマホのNothing Phoneは、「ソフトローンチ」(同)という位置付けだった。ペイ氏によると、その理由は次のようなところにある。
 「振り返ってみると、われわれのスマホにはFeliCaなどの(日本市場における)基本的な機能がなく、そこまでのエネルギーを投下してこなかった」
 ペイ氏自身も3週間日本に滞在し、「切符を買わなければならない煩わしさを感じた」(同)というだけに、Nothingがその重要性を認識していなかったわけではない。FeliCa対応を見送ってきたのは、日本独自の仕様がコストアップにつながるのはもちろん、SKU(商品管理上の品目数)が増えることでオペレーションが煩雑になるからだ。特に、Nothingのようなスタートアップにはそれが経営上のリスクになりうる。ペイ氏は、「コストやビジネスを成立させるのが難しかった」としながら、その理由を次のように話す。
 「グローバルでSKUが同一だと、国や地域の間で在庫調整ができるが、FeliCaを載せたSKUができると、日本だけでそれを全て売らなければならない。認証も含めてコストもかかり、日本で数字を成り立たせることが重要になる」
 「それでも、Nothing Phone(1)、Nothing Phone(2)は非常にポジティブな反響をいただけた」(同)のが、Nothingとしての評価だったという。「FeliCaのような基本的な機能がない中では市場のポテンシャルを正確に捉えられないので、Webもトラックした」(同)ところ、日本で150万のユニークユーザーが同社のサイトを訪問していた。これは、世界で5番目に多いアクセス数だったという。
●規模拡大にかじを切ったNothing、日本市場での展開も加速させる
 Nothing Earシリーズの販売規模や、過去に投入してきたNothing Phoneへの反響を踏まえ、NothingはNothing Phone(2a)にFeliCaの搭載を決定した。価格がこなれたミッドレンジモデルであれば、販売数も見込みやすい。ミッドハイのNothing Phone(1)や、ハイエンドモデルとして投入したNothing Phone(2)よりも、FeliCaへの対応はしやすかったはずだ。Nothing自身も、Nothing Phone(2a)でビジネスを拡大する方針だ。ペイ氏は、次のように語る。
 「会社としてスケールする中で、異なるニーズにこたえる必要があった。世の中には、フラグシップモデルが必要な人もいれば、ミッドレンジモデルが必要な人もいる。会社の成長に合わせて、今後はエントリーモデルも必要になってくると思っている。ありがちだが、フラグシップモデルはこだわって作り込むが、ミッドレンジやエントリーモデルで手を抜くブランドはたくさんある。そういう現状があるため、逆にチャンスだと思っている」
 同時に、ペイ氏は日本市場でも「規模を拡大していかなければいけない」と語る。スマホ業界は、「ニッチなプレイヤーが生きながらえる業界ではない」(同)からだ。
 「スケールがないと投資ができず、投資ができないとエンジニアリングが磨かれない。エンジニアリングが磨かれないと、認知されずスケールが出せない。スケールがないと、ネガティブスパイラルに陥ってしまう。スケールすることで、それをポジティブスパイラルに転換することができる」
 日本での成長戦略の一環として、Nothingは日本支社であるNothing Japanを開設。同社を統括するマネージングディレクターには“Xperiaの名付け親”でもある、元ソニーの黒住吉郎氏が就任した。黒住氏は、ソニー・エリクソン(現ソニー)でXperiaなどの企画に携わったのち、キャリア勤務を経て、再びソニーでイヤフォンなどのオーディオ商品を統括してきた。グローバルビジネスの経験も長く、海外企業でかつスマホとワイヤレスビジネスを主力とするNothingには“適任”といえそうだ。
 黒住氏は、Nothing Japanのマネージングディレクター就任前から、Nothingを「気になるブランドとして見ていた」という。
 「ブランドを作るためにコテコテにしたものではなく、フィロソフィーを持って向かい合う一方で、適正価格や技術的な取り組みもある。Nothing OSのような取り組みは、いろいろなメーカーがトライしてはやめてきたもの。ユーザーにすてきなプロダクトや体験を提供したいということは、外から見ても感じていた」
 黒住氏は、日本での販路も「拡大したい」と意気込む。一方で、「日本ではキャリアや家電量販店などいろいろな販路があり、われわれに拡大したいという意思があっても、需要には合わせていかなければならない」と話す。体制を整え、一気に販路を広げていくというのではなく、徐々に拡大していく方針のようだ。販売量の大きいキャリアでの取り扱いについても、「まだその土俵には乗れない」としながら次のように語る。
 「大きなビジネスをしようとすると、FeliCaなどの要求仕様を満たしているかや、供給がどれだけでできるのか、一緒にどれだけマーケティングができるかという話になる。今はそれを作っているステージ。最初に足場を固めてからでないと失礼になってしまうので、むやみにこれを売ってとは言えない。(日本市場では)モトローラもXiaomiもかなりの気合いを入れているが、われわれはお客さまやコミュニティーと一緒になって育っていくブランド。今はあまり無理をするのではなく、しっかりお客さまやコミュニティーとブランドの核を作っていく時期」
●コミュニティーの力を開発に生かす、生成AI対応が次のステップか
 その反面、黒住氏は「通常のやり方だけにとらわれたくない」と語る。冒頭で挙げたように、KITH TOKYOやビームス、ユナイテッドアローズといったアパレルが中心のセレクトショップでNothingの製品を販売しているのは、その一環だ。デザインにこだわり、ライフスタイルを提案する製品だからこそ、既存のキャリアや家電量販店以外への広がりがある。
 また、Nothingはコミュニティーを生かし、日本語フォントを開発している。Nothing Phoneには「Ndot」というドットで構成された独自のシステムフォントが内蔵されているが、現状ではアルファベットしかない。英語のままだと特徴的な設定画面などのユーザーインタフェースが、日本語にすると一般的なAndroidとほとんど変わらなくなってしまうという問題があった。
 「フォントが日本語対応していないが、今、コミュニティーの方と一緒に作っている。どうやってシステムに入れるかは、サイズ感などを検証しなければならないが、原型はでき、いいものになりつつある。われわれとしても作りたいと思っていたが、フォントは難しい。日本の方の力を借りて、今後しっかりやっていきたい」
 黒住氏は、あくまで日本支社の代表的な立場のため、「今のポジションだと、そこまで深くデザインやプロジェクトをリードすることはできない」。とはいえ、「日本の声はしっかり伝えていきたい」と話す。Nothingでも、「日本の声は非常に強く、市場や文化、デザインへのこだわりにはリスペクトがある」(同)という。こうした日本のニーズをしっかりよく理解し、本社に伝えていくことも同氏の役割だという。
 現状、日本に研究や開発の拠点を設ける予定はないというが、「日本は最先端のテクノロジーに強いので、ここから学ぶことができる」(同)。ペイ氏も、「テクノロジーに関して期待値が高く、われわれでも気付かないところに指摘をいただけたり、意見を持っていたりする。この市場でブランドを確立し、ニーズに応えられれば企業として成長していける」と語る。Nothingの規模を拡大するにあたり、日本市場の果たす役割は大きい。
 とはいえ、当初は目新しかったデザインやギミックも、何世代も続くと飽きられてしまう恐れが大きくなる。日本市場でもそれは同じだ。次にNothingが他社と差別化していけるのはどこになるのか。ペイ氏は「この数年でソフトウェアの成熟を達成できた。世の中にあるAndroidの中で、最良のものが作れていると自負している」と語る。黒住氏も、Nothing EarやNothing PhoneのChatGPT対応を挙げ、「ここまでシームレスにChatGPTを融合させているメーカーはあまりない」と話す。
 ペイ氏は、「今後もそういった形のものはたくさんやっていきたい」としながら、生成AIへの期待をのぞかせる。
 「モバイルのテクノロジーはそこまで姿を変えていないが、生成AIが出てきて、可能性の領域が広がっている。イノベーションの動きが活発化しているので、その先端を走り、自分たちの中に取り入れていきたい。生成AIにはエンジニアも必要で、そこはコストもかかるところ。強いとはいえないが、全力を尽くしたい」
 対話型のAIを上手に統合できれば、スマホとワイヤレスイヤフォンの両方を主軸に据えているNothingの強みになる。黒住氏も「両方出している意味が出てくる。そこはNothingが時代を切り開きたい」と語る。ChatGPTの統合はあくまで、その最初のステップ。AIの統合は「野心的なロードマップを描いている」(同)というだけに、今後の展開にも注目したい。

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