大河原克行のNewsInsight 第364回 NECが勝つために、変わり続けることを変えない人的資本経営の中身

2025年5月9日(金)13時35分 マイナビニュース


NECが推進している「2025中期経営計画」は、「戦略」と「文化」を両輪とした取り組みが特徴だ。これを加速させる地盤となっているのが、同社の人的資本経営への取り組みである。
NEC 執行役Corporate EVP 兼CHRO(Chief Human Resources Officer)の堀川大介氏は、「NECは、2024年度からジョブ型人材マネジメントを本格導入し、事業戦略にあわせて、ダイナミックに人材を流動化し、変化に対応できる柔軟な組織へと成長してきた。戦略起点での適時、適所、適材を加速しており、バラエティに飛んだNECの特性、市場変化に伴う人材需要の変動にあわせて、最適な人材ポートフォリオの実現を進めている」と語る。
再び、グローバルで勝てる企業へと変革する
NECは、2000年代に入り、経営的に厳しい時代が続いていた。だが、2018年に、人やカルチャーの変革に取り組みはじめて以降、継続的に利益が創出できる企業体質へと転換してきた。このベースとなるのが、財務と非財務を関連づけたパーパス経営の推進であり、なかでも、人的資本経営は、リスク低減と機会創出の双方に寄与する重要なテーマに位置づけている。
NECの堀川氏は、「NECのサステナブル経営の基本は、11万人の多様な従業員が、価値創造サイクルを回し続けることであり、NEC Wayの根幹にあるのがゆるぎないIntegrityの精神である。社会価値創造企業として欠かせないものは、信用、信頼であり、お客様や社会、仲間に対して、誠実であることを重視している」とし、「NECは愚直な取り組みによって、ターンアラウンドという観点では、一定の成果があがっている。だが、ようやく普通の会社に戻ってきたという段階に過ぎない。これからギアを一段高め、グローバルで、再成長するステージに進みたい。これを支えるのは人であり、この姿勢は、創業当初から変わらない。人の力を最大化させるプラットフォームとして、ジョブ型人材マネジメントを徹底的に活用する。大切なのは、変革の歩みを止めないことであり、変わり続けることを変えないことである」とした。
そして、「NECは、再び、グローバルで勝てる企業への変革を目指している。2025中期経営計画で掲げた『戦略』では、最適な人材ポートフォリオの実現に取り組み、『文化』では従業員の力の最大化を目指しており、そのために、ジョブ型人材マネジメントの本格導入を開始している」と語る。
2025中期経営計画で打ち出した「戦略」では、新たな価値創造モデル「BluStellar」が柱となって、主力の国内IT事業を牽引している。
これを実行するために、NECでは、3年間で1万人のDX人材の育成を完了。さらに、中期経営計画期間中に育成計画を1万2000人に上方修正してみせた。
また、「文化」では、エンゲージメントスコアと相関性が高い領域の改善に集中的に取り組み、2018年度には19%に留まっていたエンゲージメントスコアが、2024年度実績では42%にまで上昇。2025年度までに50%に高める計画だ。
NECは、2018年度から、ジョブ型人材マネジメントの基盤を構築。その一方で、2022年度からは事業部制を改め、組織階層を大きく削減して、部門を戦略単位とした体制へと移行した。ジョブ型制度と組織体制の変更を起点に、2024年度は、NECの2万2000人の従業員のうち、約5000人が流動。社内人材公募制度であるNEC Growth Careersについては270人が活用。Re-Skilling Programには261人が参加したという実績がある。
「ジョブの明確化や、キャリアの自律化が進み、新たなポジションに自ら挑戦する従業員が増えている。とくにANS(エアロスペース・ナショナルセキュリティ)では、日本政府の防衛費の増大によって、売上げが伸長。旺盛な需要に対して、ジョブ型人材マネジメントを活用して、4年間で約1200人を増員して、リソース強化を図った。低収益部門からのリソースシフトや、マッチング、キャリア採用などの手段を組み合わせて、事業側のリソースニーズに応えている」という。
また、ITサービス事業では、NEC本体やNECソリューションイノベータ、アビームコンサルティングを含めて、1034人をキャリア採用し、即戦力として登用。ハイレベル人材輩出のための仕組みやプログラムを整備し、DX人材を、クラウド系、生体認証、サイバーセキュリティなど、8つに区分けして、人材の定義を明確化している。さらに、経済産業省のフレームワークにNEC独自の要素を加えた教育プログラムを整備。経営ダッシュボードで見える化し、組織ごとのDX人材の獲得、育成状況を、常時把握しているという。現在、ITサービス人材の定着率は約97%という高い水準を維持しているという。
今後は、部門の事業戦略において、ジョブ型人材マネジメントを徹底活用し、事業戦略と人事戦略を連動させる実践フェーズへと移行させる考えを示す。2025年度からは、NECを含む、グループ6社にジョブ型制度を展開し、国内4万8000人を対象としたリソース流動化の共通プラットフォームができあがり、グループ内でのリソース最適配置が本格化することになる。すでにグループ会社間による公募もスタートしており、よりダイナミックな流動を目指すという。
「NECにとって、ジョブ型人材マネジメントは、勝つための手段のひとつであり、目的は、変化にスピーディに対応し、グローバルで勝ち続けるNECになることである。変わり続ける力を最大限に発揮することになる。また、会社と従業員は、選び、選ばれる対等な関係のもと、双方がともに成長する循環を作る」としている。
NECは、2024年5月に、価値創造モデル「BluStellar」を発表した。国内ITサービス事業を牽引するキードライバーであり、これをリードするデジタルプラットフォームビジネスユニットは約3万4000人の体制となっている。また、2024年4月には、全社横断型事業推進組織を400人体制で設置し、マーケティング、コンサルティング、製品・サービス、デリバリーを一気通貫で対応できるようにしている。
BluStellarに関しては、NECが強みとしているAI、コンサルティング、セキュリティを中心とした人材強化を進めているところだ。
戦略コンサルティングにデータサイエンスを融合させて、高い価値を提供できる体制を構築。100人のデータサイエンティストを、戦略コンサルティングに合流させ、「データドリブンコンサル」として他社との差異化に乗り出している。また、アビームコンサルティングは、国内外に約8300人のコンサルタントを擁しており、これも重要な戦力であることを強調した。
AI人材については、「超短期で生成AIに関する人材を育成する必要がある」とし、「Generative AI SkillUP STUDIO」を開始。5つの人材タイプ別にプログラムを用意して、それぞれのプログラムに5カ月間で450人が受講。今後、1000人規模にまで拡大する予定だ。
また、セキュリティでは、社内外の専門組織との交流、トップレベルの学生の獲得強化に努めており、国際的に認定された資格であるCISSP(Certified Information Systems Security Professional)の取得者は累計540人以上となり、国内トップレベルの水準にあるという。「ホワイトハッカーとして、国や社会インフラを守りたいという使命感を持った社員が、社会価値創造企業であるNECに集まっている。NECでセキュリティを統括する中谷昇のカリスマ性も生かされている」という。
中谷氏は、警察庁やインターポールなどで、ハイテク犯罪対策に携わってきた経験があり、現在、NECの執行役 Corporate EVP 兼 CSO 兼 サイバーセキュリティ部門長を務めるとともに、NEC セキュリティの代表取締役社長に就いている。
人の力を最大化、「文化」は「戦略」と並ぶ車輪
一方、「戦略」と並ぶ、もうひとつの車輪と位置づける「文化」への取り組みでは、エナゲージメントスコアを重視している。
ここでは、会社について肯定的に語ることができる「Say」、求められる以上に仕事に努力する「Strive」、会社に留まることを強く望む「Stay」の3つの要素をあげているが、「SayとStriveのスコア伸長が課題になっている」と反省。「今後は、SayとStriveに相関が高い、全社方針や戦略の浸透、評価、報酬、登用、キャリアに注力し、NECで働くことに誇りを持ち、より主体的に仕事に取り組む文化を醸成する。戦略浸透に向けたコミュニケーションの強化、従業員の学びおよびキャリア形成の支援、フェアな評価と登用、市場競争力の高い報酬に力を注ぐ」とした。
NECでは、トップダウンによるアプローチとして、トップメッセージの発信やタウンホールミーティングのような機会を継続。「ストーリーに一貫性を持たせ、耳にタコができるぐらいまでやり続ける必要がある」とした。また、部門戦略を語る取り組みを開始し、そのための共通テンプレートとなるPlayBookを展開していることも紹介した。
「これをもとに部門長が自らの言葉でメッセージを書き上げ、自らが熱く戦略を騙れるようにすることが最大のポイントになる。これまでのNECには、ビジョンや戦略で、従業員をワクワクさせるという点で、足りない部分があった。今回の取り組みを通じて、将来の経営トップ育成のトレーニングの機会にもしていく」という。
現在、創業記念日に開催しているNEC Way Dayのほか、新たな取り組みとして1500人のディレクター層を対象に、経営層との直接対話の場となるSkip-Level ミーティングを31回に渡って開催。経営と現場のギャップを縮め、相互理解を進めているという。
「忖度せずに、言いにくいことを言ってもいいというカルチャーが根づきはじめている。NECが変わり、経営と現場の距離が縮まっていることを実感している」と自己評価した。
また、ボトムアップのアプローチでは、キャリア自律の促進や、現場起点での変革活動など、主体的に学び、挑戦できる場を形成しるという。
「グループ長からはグループビジョン浸透に対してポジティブな声があがっているが、メンバー層には十分には行き渡っていない。未来への期待感には課題がある。トップダウンとボトムアップを有効に機能させることで、戦略を自分事化し、自ら考えて、行動できる人材を増やしていく」と述べた。
一方で、若手の学びと挑戦の機会をロードマップとして整備。若手社員に「手上げ制」の文化を浸透させ、自ら変化を起こし、互いに高め合いながら、個人や組織の成長につなげていける環境の醸成にも取り組んでいるという。
新入社員を対象にしたリバースメンタリングセッションは、新入社員が、役員が悩んでいるテーマをDXで解決するという斬新な取り組みのひとつで、若手が持つデジタルやAIの知識を活用。「彼らのデジタルやAIの知識は我々の比ではない。新人だからと見習い扱いするのは論外であり、これまでの経験と強みを生かして、それを伸ばす機会を作ることが必要だと気がついた」とする。約30人の新入社員が参加したという。
また、新卒2年目の約500人の社員に対しては、RISE Fast for Early Careerを実施。組織のなかにあるムリ、ムラ、ムダの課題解決に挑戦したという。
報酬制度についても説明した。
NECでは、報酬ポリシーとして、個々人の期待役割に対する貢献と成果に応じたメリハリのある処遇を行う「Pay for Performance」、明確化された職務内容、役割、責任に応じたジョブグレードの適正な適用と、それに基づく報酬水準や報酬構成を行う「Pay for Job」、必要な人材に選ばれるための市場競争力のある報酬水準や構成を行う「市場競争力のある報酬」の3点を掲げている。
「このポリシーに基づき、戦略実行に必要な人材の獲得、配置、登用を支えるために市場競争力が高い報酬体系を実現している。具体的には、戦略的ポジションに対して、株式を含む思い切った報酬の引き上げ、NECの将来を担う若手層への投資の強化、シニアが持つ経験や深い専門性の活用に向け、成果や貢献に応じた処遇制度を導入する」という。
NECでは、総額人件費を引き上げ、約7%の賃上げを行うほか、大卒初任給を29万4000円とし、さらに、新卒入社の若手層の一定年次までの約9000人に対して、報酬水準の改定を図っている。
「若手層全体が、モチベーションを高く持ちながら、、NECで働いてもらえることを目的とした報酬体系を目指している。また、約6600人の60歳以上の社員に対しても、報酬水準の見直しを行っていく」とし、「競争力を高める上で、欧米企業に対抗できる報酬体系を作ることは重要であり、それによる人件費の高騰は避けられないと考えている。外資系企業のように月収が多く、賞与が少ないという仕組みも参考にしている。これを事業の価値として、売価に転嫁し、回収することを、各事業部門が徹底して行うことで、人件費は回収できる」とも述べた。
また、NECでは、新たな株式報酬制度として、「NEC Value Shares」を導入したことも発表した。業績非連動型の仕組みであり、中長期的に大きな貢献が期待される6000人以上の人材に対し、戦略的に株式報酬を付与。2025年度から統括部長などの戦略ポジションの社員400人を中心に導入を開始。2026年度からは、持ち株会の制度を拡大し、6万人を対象に、自社株式を追加付与することになるという。
「NEC Value Sharesは、国内においては先進的な取り組みになる」と位置づけ、「将来の経営リーダー候補であるTop of Topの約100人に対しても、動機づけやリテンションという点でも株式を活用していく」とした。
また、「若手からシニア層まで、あらゆる従業員の力を最大限に引き出す上での人への投資として、新たな報酬制度の展開を進めていく。月収と賞与に、株式を組み合わせることで、総報酬を考慮。人材獲得競争力、人材維持競争力を高めていく」とも述べた。
NECは、評価制度として、9Blockを採用している。
9Blockは、行動と業績をもとに、ベスト、優秀、要改善、ミスマッチなどのブロックに分類。1年ごとに業績とNEC Wayの実践度の観点で、従業員の現在地にあわせた適切なフィードバックと改善を促進している。
その結果、9Blockを起点として、20代(27歳)の管理職が初めて誕生したほか、出産や育児により、昇格のチャンスに恵まれなかった女性が、50代となって初めて管理職に登用されるケースも出ているという。2024年度の新任管理職の男女比は69%:31%となっている。
また、9Blockでは、客観的評価をもとに、パフォーマンスが十分に発揮できていない社員に対して、マッチングしたポジションに異動させることをルール化。ミスマッチとなっている社員に対して、改善プログラムの実行や、適切なコンサルティングを行うことで、社外への転籍を含めて、リソースの最適配置を進めているとした。現在、ミスマッチに分類される社員は約5%と見ているほか、要改善をあわせて約15%を想定。「要改善に分類される社員のなかには、業績には貢献していても行動に問題があったり、行動はすばらしくても、業績につながっていなかったりというケースもある。仕事があっていないとか、スキルがあっていないという課題がある。降格を含めてポジションを変えたり、スキルをつけてもらったり、それでも難しい人には社外のポジションを提案するということもある」などとした。
その上で、「属性に関わらず能力と意欲のある人材が適切に評価され、最大の力を発揮し活躍できるポジションを提供している」という。
NECでは、人的資本経営戦略を強化することで、新たな成長フェーズに入ろうとしている。2025年度を最終年度とした中期経営計画の達成と、2026年度以降の新たな中期経営計画の実行においては、人的資本経営の取り組みがより重視されることになりそうだ。

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