“ネコ量子ビット”をフランスの研究者らが発表 「シュレーディンガーの猫」から発想 一体どんなもの?

2024年5月13日(月)8時5分 ITmedia NEWS

“ネコ量子ビット”をフランスの研究者らが発表 「シュレーディンガーの猫」から発想

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 フランスの量子コンピューティング・スタートアップ「Alice & Bob」などに所属する研究者らが発表した論文「Quantum control of a cat qubit with bit-flip times exceeding ten seconds」は「シュレーディンガーの猫」にヒントを得た量子ビットが、従来にない長時間にわたってエラーを起こさずに機能することを明らかにした研究報告である。
 量子コンピュータは、従来のコンピュータでは解決できない問題を解決できると期待されているが、計算中にエラーが発生しやすいという問題がある。エラーを自動的に修正できるほど強力な量子コンピュータを作るのは技術的に難しいのである。
 そんな中、研究チームが「シュレーディンガーの猫」の思考実験からヒントを得た「ネコ量子ビット」(Cat qubit)を開発した。シュレーディンガーの猫とは、オーストリアの理論物理学者エルヴィン・シュレーディンガーさんが提唱した思考実験である。箱の中に猫と、50%の確率で毒ガスが発生する装置を入れ、箱を開けるまでは猫が生きているとも死んでいるともいえる状態になるというものだ。これは、量子力学における「重ね合わせ状態」を説明するために用いられる。
 研究チームが開発したネコ量子ビットは、まさにこの重ね合わせ状態を利用している。ネコ量子ビットは、超電導回路で作られたチップ上の共振器に電磁波を閉じ込めることで作られる。この電磁波は、その共振器の中で2つの異なる状態(コヒーレント状態)で存在することができるが、研究チームはそのどちらか一方に強制するのではなく、両方を共存させ、量子の重ね合わせ状態を作り出した。
 これまでは、ネコ量子ビットにおいて数ミリ秒ごとに「ビットフリップエラー」と呼ばれる特定のエラーを検出していた。ビットフリップエラーとは、量子ビットの0と1が自発的に入れ替わってしまうエラーのことで、量子コンピュータにとって大きな問題となっている。
 しかし、これらのエラーの多くは、ネコ量子ビットの状態を測定する方法によって引き起こされていることに気付いた。研究チームはその過程を再設計したネコ量子ビットで実験したところ、ビットフリップエラーが従来よりも格段に長い10秒間(従来の1万倍もの時間)起こさずに機能できた。ネコ量子ビットはこのエラーに非常に強いことが明らかになった。
 また、量子ビットの位相が変化してしまうエラー「フェーズフリップ」(位相反転)においては、490ナノ秒超えを達成した。
 これにより、従来の量子コンピュータでは多くの量子ビットをエラー訂正に使わなければならず、計算に使える量子ビットが限られていたが、ネコ量子ビットを使えば、エラー訂正に必要な量子ビットの数を大幅に減らすことができ、より多くの量子ビットを計算に使えるようになった。
 Source and Image Credits: Reglade, U., Bocquet, A., Gautier, R. et al. Quantum control of a cat qubit with bit-flip times exceeding ten seconds. Nature(2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07294-3
 ※2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

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