理研など、スパンコン「富岳」と量子コンピュータ「叡」の連携に成功

2024年5月13日(月)15時42分 マイナビニュース

理化学研究所(理研)と大阪大学(阪大)は5月10日、最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)構想の一環として進める計算可能領域の拡張に向け、スーパーコンピュータ(スパコン)「富岳」と量子コンピュータ「叡(えい)」の連携利用を実証し、原理の異なるコンピュータ間の連携利用によって計算可能領域が拡大する可能性を示したことを発表した。
同成果は、理研 計算科学研究センター(R-CCS) 量子HPC連携プラットフォーム部門の佐藤三久部門長、R-CCS 量子HPCソフトウェア環境開発ユニットの辻美和子ユニットリーダー、理研 量子コンピュータ研究センター(RQC)の中村泰信センター長、同・萬伸一副センター長、阪大 量子情報・量子生命研究センターの北川勝浩センター長、同・藤井啓祐副センター長、同・根来誠副センター長らの研究チームによるもの。その概要は、5月12〜16日に独・ハンブルクにて開催される国際会議「ISC High Performance 2024」のフォーカスセッションにて発表される予定。
理研で現在進められているのが、同研究機関の最先端の研究プラットフォーム群(富岳、叡、大型放射光施設「SPring-8」、X線自由電子レーザー施設「SACLA」など)を有機的に連携させ、研究分野を超えた、革新的な研究プラットフォームを創り出す挑戦的なプロジェクトのTRIP。その中の研究開発課題の1つとして、R-CCSとRQCが取り組んでいるのが、HPCと量子コンピュータのハイブリッド化により計算可能領域の拡張を可能とするシステムを目指した、富岳と叡を連携させるハイブリッドプラットフォーム基盤(量子HPC連携プラットフォーム)の構築である。
量子コンピュータは、すべてにおいてHPCに代表される既存のコンピュータを上回るイメージがあるが、実はそうではない。量子コンピュータは、組み合わせ最適化問題のような、HPCでは解を得るまでに膨大な時間を要してしまう計算には強い一方で、HPCが得意とする厳密な解が要求されるような問題や、同じアルゴリズムを繰り返した場合に、まったく同一の解を出力する必要のある再現性が求められる問題などには向いていない。つまり、HPCと量子コンピュータはそれぞれ得手不得手が異なるのである。
HPCにおける重要な技術の1つに、異なる種類のプロセッサを組み合わせて構築したコンピュータシステム上で演算を行う「ヘテロジニアス・コンピューティング」がある。代表的なものに、汎用CPUと特定の計算に能力を発揮する演算加速機構であるGPUの組み合わせが知られている。CPUから計算の一部をGPUに送って実行させることを「オフロード」というが、量子HPC連携計算においては、HPCでは解くのが困難であったり、時間の要する計算を量子コンピュータにオフロードすることで、プログラム全体の実行時間の短縮が期待されている。
ただし、同じ電子回路基板上で動作するCPUとGPUの場合とは異なり、HPCと量子コンピュータは動作条件が異なる。超伝導型量子コンピュータは絶対零度に近い温度まで冷却が必要となるため、HPCと連携させるには、ネットワークによる通信を介する。そこで研究チームは今回、叡のクラウドサービスを管理するサーバに、富岳から計算をリクエストするためのソフトウェアを作成・導入し、それを富岳で動いているプログラムから呼び出すことで、量子HPC連携計算を実現することにしたという。
量子HPC連携計算の性能を確かめるため、まず、量子回路のクラスタリングを行うためのサンプルのうち、25回路を量子コンピュータ側にオフロードする実験が行われた。これらの回路は互いに独立に実行できるため、富岳側のプログラムを並列化し、叡への量子回路実行のリクエストを、前のリクエストの終了を待たずに同時に複数行うようにしたとする。それにより、富岳におけるリクエスト処理、富岳と叡の通信、叡側のリクエストの受付などに伴う遅延の影響が最小化され、叡を効率的に活用できることが確認されたとした。並列数が1(並列化されてない時)と比較して、並列数を5にすることで30%程度の高速化が達成された。ただ、並列に行うのは量子コンピュータへのジョブのリクエストのみで、ジョブの中身自体は並列化していないため、並列数が5倍になれば実行時間が5分の1になるというわけではないという。
今回の成果を活かし、富岳と叡の連携による最先端の計算環境の実現に寄与し、今後の科学技術・イノベーション・産業の発展の鍵となる、量子HPC連携計算による新たな計算可能領域の開拓への貢献が期待されるとしている。

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