大河原克行のNewsInsight 第297回 未踏領域へと踏み出す「プレイステーション」ビジネス、ふたりの新CEOが語った未来

2024年6月13日(木)23時39分 マイナビニュース

ソニーグループは、プレイステーションを中心としたゲーム&ネットワークサービス分野の事業戦略について説明した。2024年5月30日に行われた戦略説明会でのもので、ソニー・インタラクティブエンタテインメント SVP プラットフォームエクスペリエンスの西野秀明氏と、ソニー・インタラクティブエンタテインメントSVP PlayStation Studios統括責任者のハーマン・ハルスト氏が説明した。この中で、歴代プレイステーションのなかで、プレイステーション5(PS5)のビジネスが最も成功していることを強調している。
なお、2024年6月1日付の新体制にて、西野氏はソニー・インタラクティブエンタテインメント プラットフォームビジネスグループのCEOに、ハルスト氏はソニー・インタラクティブエンタテインメント スタジオビジネスグループのCEOにそれぞれ就任している。
「プレイステーション」は単にゲーム機ではなく、「体験」へ
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のテーマは、「コンソール、そしてコンソールの枠を超えて」とし、PS5およびPlayStation Studiosでは、コンソール(ゲーム機)だけに留まらず、リーチするオーディエンスを拡大していく方針を改めて示した。
西野氏は、「プレイステーションは、単にコンソールを指したものではない。また、単にコンテンツを指しているものでもない。プレイステーションは体験そのものであり、感動を共有するコミュニティである。コンソールとコンソールの枠を超えてつながる新たな方法を模索している。それは感動体験そのものである。プレイステーションは、ゲームプレイヤーに、提供する価値を、創造するための礎になる」と定義した。
また、「SIEの役割は、ゲームプレイヤーとゲームクリエイターをつなぐことである。最高のゲーム体験を提供することであり、それはクリエイターがプレイヤーに素晴らしい体験を届けられるようにするということでもある」とし、プレイヤーに対しては、「The Best Place to Play」をコミットし、すべてのクリエイターに対して、「The Best Place to Publish」を実現していると述べた。
「The Best Place to Playを構成しているのは、ハードウェア、コンテンツ、サブスクリプションという相互に関係する複数の要素である。コンソールによって、プレイステーション体験の第一歩を踏み出し、プレイステーションストアから入手できる膨大なコンテンツを利用でき、サブスクプションサービスと、ゲーム体験を拡張する周辺機器が、プレイヤーに提供されている。現在は、2000以上のパブリッシャーからコンテンツを提供されており、多くのプレイヤーが遊ぶことができる。これは、多くのパブリッシャーを惹きつけるポジティブなスパイラルの実現につながり、The Best Place to Publishを達成している。パートナー企業にとっても、高いエンゲージメントと収益性を備えたビジネス環境を提供できる」と位置づけた。
西野氏は、過去30年間のプレイステーションビジネスを振り返り、PS5を発売して以降、売上高と営業利益が、過去の実績よりも一段高い水準に達していることを示した。
「PS5は最初の数年で、PS4までの累計営業利益を上回ろうとしている。また、PS5のインストールベースは、PS4からの移行も含めて、引き続き拡大すると見込んでいる。さらに、PS5は収益性と利絵率の向上に注力するフェーズに入っている。これまでは、PS5世代での成功を確実にすることが目標であったが、いまは確実に利益を創出し、未来に備えることにフォーカスしている」と語った。
PS5は、月間アクティブコンソールの約半数を占め、PS5のプレイヤーは、PS4のプレイヤーに比べて、より長い時間をプレイしているという。
また、コンソール以外からの売上げがPS5のビジネスを支えていることも明かす。
同社によると、PS5の1台あたりのコンテンツ、サービス、周辺機器からの売上げは平均731ドル以上となり、PS4の580ドルを大幅に上回っているという。しかも、その多くがプレイステーションストアやプレイステーションプラスによるサービスからの継続的な売上げであり、総売上げの65%がコンテンツとサービスが占めているという。
さらに、プレイステーションストアが安定したコンテンツの供給と売上げを計上していることにも触れた。現時点で1億1800万アカウント以上のプレイヤーが、9000以上のゲームタイトルにアクセス。上位のフランチャイズタイトルが、ストア売上げの約半分を占めている。
また、プレイステーションプラスも安定的な売上げを計上しており、プレイヤーの半分以上が加入。「プレイステーションプラスは、単に加入者数を追うのではなく、高品質なサービスを提供し、収益性を高めることに力を注いでいる。上位プランとなるプレミアムとエクストラの比率は35%に達しており、プレイヤーにとって、魅力的なプランとなっている」とした。
さらに、PS5向けに用意された周辺機器が、よりよいゲーム体験を実現するとともに、ブランドへの愛着を高めることにつながっていると語った。
PlayStation Studiosが開発で掲げた「3つの柱」
一方、ハルスト氏は、PlayStation Studiosの取り組みについて説明した。
ハルスト氏は、「PlayStation Studiosは、世界水準のグローバル開発チームの集まりであり、高い技術力とクリエイティブな才能を持っている。過去4年間において、シングルプレイヤーゲーム分野において、強固なリーダーシップを築き上げ、ライブサービスゲームとマルチフォーマットゲームの制作、運営の能力を強化してきた」と、現状について報告した。
PlayStation Studiosでは、3つの戦略的な柱を重視しているという。
ひとつめは強力なIPホルダーとしてのポジションを強化すること、2つめはシングルプレイヤーゲームに留まらず、ライブサービスゲームへとモデルを拡大し、Z世代やα世代などの新たな層に訴求し、新たな収益源を確保すること、3つめに、PCやモバイルといったデバイスにコンテンツを提供し、ビジネスチャンスを広げることである。
ハルスト氏は、「多くの人たちにコンテンツを利用してもらうために、開発および配信プロセスの効率向上を目指している。また、IPを創出し、ゲームだけでなく、映画やテレビ、グッズ、ロケーションベースエンタテインメントなどを通じて、ゲームとゲームを超えたオーディエンスに訴求していくことに力を注いでいる」と述べた。
2023年10月に発売した「Marvel’s Spider-Man 2」は、約1100万本を販売し、大きな成功を収めたほか、2024年初めに、PS5とPC向けに同時発売した「HELLDIVERS 2」は、ライブサービス領域での強みを生かすとともに、プレイステーション以外のプレイヤーにもゲームを提供したことで、より高いリターンと、リーチの拡大を実現できたという。「ライブサービスやコンソールの枠を超えたコンテンツに投資し、期待する成功を収めた好例である」と位置づけた。
また、「Ghost of Tsushima」もPC向けに展開し、リーチを拡大。コンソールでしか提供されていなかったネットワークの体験をPCにも拡大することで、プレイステーションの魅力をPCにも広げているという。
ライブサービスゲームでは、「Destiny」や「MLB The Show」、「FAIRGAME$」、「Concord」、「Marathon」などを制作し、この領域での事業拡大を目指す。
西野氏は、「コンソールはハードウェアのすべてを自分たちが開発できるため、研ぎ澄まされた体験が提供できる。コンソールの価値を磨き続ける姿勢は変わらない。一方で、PCユーザーが増加することは、成長のオポチュニティだと理解している。SIEは、プラットフォーム全体で顧客拡大を目指す」とした。
なお、モバイル向けゲームタイトルについては、強力な開発チームを編成しているとしながら、「PC向けのアグレッシブなアプローチとは異なり、慎重なアプローチを取っている。だが、新たなオーディエンスをこの分野でも獲得したい」(ハルスト氏)と述べた。
また、徹底した作品、ポートフォリオ管理を行っていることに言及。「どのタイトルを制作するかを適切に判断し、計画通りに、予算内に、期待される品質で、ゲームタイトルがリリースできるように管理している。さらに、開発プロセスの短縮を支援するために、機械学習などの新技術も導入している。高品質で愛されるゲーム体験を継続的に提供していく」と語った。
年末商戦期には、高い収益性があるテントポールシングルプレイヤータイトルを1本以上発売することも明らかにした。
「ここで得た収益をライブサービスゲームなどの新たな成長機会に投資できる。才能あるチームを発掘し、ポートフォリオの一部を実験的なタイトルにあて、新しいプレイヤー層や新たなジャンルを開拓していくことになる。ただし、これらの実験的な取り組みは、タイトル数や規模、予算には制限を設けて行うことになる」と述べた。
ゲーム制作の現場では、最新の技術を取り入れていることにも触れた。
ハルスト氏は、「AIと機械学習に関する研究と実験は、重要なテーマとして取り組んでおり、効果的な導入ができると考えている。すでに、アセット制作の効率化、コーディングの高速化、翻訳やローカライズプロセスの最適化などでAIを活用している。AIがゲームの未来において大きな可能性を秘めているのは間違いない。新たな技術の導入と実装において、ゲーム業界を牽引していく」と述べた。ここでは、責任あるAIとして、倫理的アプローチを徹底していることも明らかにした。
一方、西野氏も、プレイステーション事業全体で、最新技術の導入を積極化していることに言及。「生産の自動化を含んだハードウェアエンジニアリングに加えて、チップセットからクラウドサービスに至るまで、様々なゲームに関する技術を活用し、技術革新を継続している。ハイブリッドクラウドソリューションなど、ネットワークサービスを活用する機会の拡大、業務効率の向上、プレイヤーの体験向上という観点で、AI関連技術に可能性を見出している。エンジニアリング能力の向上が、プレイステーション体験を支えている」と語った。
「Play」の将来、プレイステーションは歴代最高を更新できるか
ゲーム&ネットワークサービス分野の2023年度の売上高は前年比17%増の4兆2677億円となり、営業利益は16%増の2902億円となった。また、2024年度は売上高が前年比2%減の4兆2000億円、営業利益は7%増の3100億円を見込んでいる。2024年度の減収はハードウェアの販売台数の減少を織り込んでいる。PS5の2024年度の販売目標は1800万台であり、2023年度実績の2080万台から縮小する計画だ。
西野氏は、「PS5では、新規顧客の獲得に留まらず、PS4からの移行にも注力する。1800万台の目標はインストールベースの拡大と、収益性のバランスを意識した計画である。サプライチェーン全体でのコストの最適化、適切な水準の販売プロモーションを実施していく」と語った。
また、西野氏は、「プラットフォーム事業の効率化とPlayStation Studios事業の持続的な成長を推進し、勢いを加速する。『遊び(Play)』の将来に向けて、強力なポジションを確立するために段階的な投資を進めていく。プレイヤー、クリエイター、パートナーを刺激しつづけ、想像力を駆使して様々な可能性を広げていく」と述べた。

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