6年前の死闘は「もう一発殴られたら終わり」 井上尚弥を苦しめた名手ドネアが語った“モンスター”「戦うのは本当に勇気がいる」
2025年1月13日(月)6時0分 ココカラネクスト

井上とドネアが見せた2019年の激闘は両者が流血する凄まじい攻防となった。(C)Getty Images
時間が止まったダウンの衝撃
言葉の端々に、“モンスター”と恐れられる偉才の異次元さに対する敬意、そして羨望の想いが滲み出た。
「本当に勇気がいるよ」
【動画】これが“モンスター”だ!渾身の左フックでドネアを沈めた衝撃KOシーンをチェック!
ボクシング4団体統一スーパーバンタム級王者井上尚弥(大橋)との勝負をそう語ったのは、世界5階級制覇王者のノニト・ドネア(フィリピン)だ。現地時間1月10日にWBCのインタビューに応じた百戦錬磨の名手は、6年前の初対戦を振り返りながら、「モンスター」の凄みを語った。
両雄が初めて対峙したのは、2019年11月のWBSS決勝だった。多くの猛者が参戦したトーナメントにおいてジェイミー・マクドネル(英国)、ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を立て続けにKO(TKOを含む)で撃破していた当時の井上だったが、この時のドネア戦はまさしく死闘となった。
最終的に3-0の判定勝ちで井上が制したものの、フルラウンドに及んだ攻防の中で右眼窩(がんか)底を骨折。一方のドネアも11回に左ボディでダウンを奪われるなど、互いに小さくないダメージを受ける熱き試合となった。
3年後に実現した2度目の対戦ではドネアが2回TKOで敗戦。その際に井上が口にした「ドネアだったからこそ自分はここまで燃えることができた」との言葉にあるように、両雄の間に生まれたライバル関係はファンを大いに沸かせた。
井上のキャリアを振り返る上でもトップクラスにドラマチックな激闘。その色褪せない2019年の対戦を振り返ったドネアは、「あの時のイノウエは、私が築いたのと同じように評判を築き始めていた。多くのファイターは欠点を見ようとしていなかったが、私は彼の動きと手の位置をしっかりと見定めてから試合に臨んだ」と回顧。スターダムをのし上がる過程にあった当時の井上を侮ることなく試合に臨んでいた舞台裏を明かしている。
さらに「いつも後手に回っていては、リングに上がる意味がないと思っていた」と当時の心境を告白した42歳になったベテランは、11回に崩れ落ちた自らのダウンシーンの衝撃も語っている。
「あの一撃を受けた瞬間、時間がとてもゆっくり流れるような感覚になった。自分が立ち上がれることはわかっていたけど、もう一発殴られたら、試合が終わるかもしれないと思えた。だから、(回復のために)時間をかけた。まだイノウエをノックアウトするつもりだったし、それができるパワーがあると信じていた。結局、あの試合で私は自分自身に賭けたんだ」
ボクシング大国であるフィリピンに生まれ、数多の名手と激闘を繰り広げてきた。そんなドネアをして「もう一発殴られたら、試合が終わるかも」と言わしめるのは、流石と言うほかにない。当時から井上のポテンシャルがどれだけ洗練されていたかを物語る言葉とも言えよう。
井上を対峙するための「心得」とは
2019年のドネア1から瞬く間にスターダムをのしがあった井上は、キャリア成績を28戦無敗(25KO)として今や「世界最強」の称号を欲しいままにしている。彼に集まる国際的な評価は、これまで軽量級の選手たちに集まっていたそれではない。日本人であるという贔屓目を抜きにしても、彼は間違いなくボクシング史を変えた一人と言える。
そんな井上を「いつだって彼は本当に礼儀正しい。彼はいつも私たちに親切だった。だから、彼の尊敬を得ることができたのは、とても光栄だ」と評したドネア。彼は、多くのライバルから対戦要求が突き付けられている日本の傑物と対峙する際の“心得”も示している。
「イノウエのような選手と戦うには本当に勇気が必要になる。そして、絶えずフェイントをかけながら、ジャブを打たなければいけない。なぜなら、あれほど強力なファイターに打ち勝つ力はないからね。技術的に何とかして上回り、そして本当に優れた動きとタイミングを駆使する必要がある」
ボクシングに限らず、スポーツにおいて「絶対」は存在しない。それでも「絶対に倒せない」と思わせる次元の違いが今の井上にはある。日進月歩で進化を続けていたモンスターを苦しめたドネアの言葉は、その考えをより強くさせるものであった。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]