NPB未経験の18歳はメジャー昇格の狭き門を突破できるか? 森井翔太郎に提示された最大3億円の“好条件”が示す可能性
2025年2月9日(日)11時0分 ココカラネクスト
![](https://news.biglobe.ne.jp/sports/0209/7117147489/ckn_7117147489_1_thum800.jpg)
高校生にして目標をメジャー挑戦に据えていた森井。写真:西尾典文
非凡な才能は高2から発揮
いよいよ球春が到来。プロ野球12球団のキャンプも始まる中でルーキーたちに関する話題も少なくないが、そんな彼ら以上に“好条件”で海を渡ったのが桐朋の森井翔太郎だ。
今年1月にマイナー契約を結んだアスレチックスとの契約金は151万500ドル。当時のレートで約2億3600万円となり、NPBのドラフト指名選手の上限である1億円を遥かに上回る。また、引退後に使用する学業補助金としても契約金とは別に25万ドルが払われると言われており、契約金と合わせた総額は3億円近くになる。
【画像】「二刀流」森井翔太郎がアスレティックスとマイナー契約 球団が投稿した実際の写真
高校時代の森井は甲子園や関東大会など大きな舞台に出場することはなかった。だが、NPBのスカウト陣からは早くから名前が挙げられていた選手でもあった。2年夏の西東京大会では、東海大菅生で注目を集めていた日当直喜(現・楽天)からヒットを放つなど非凡な才能を発揮していた。
筆者は2年秋のブロック予選、対新宿戦で初めて森井のプレーを現地で見たが、軽々とセンターの頭を超える打球を2本放ち、その長打力は間違いなく高校生ではトップクラスという印象を受けた。また、投手としても150キロに迫るスピードを誇り、抜群の運動能力の高さも大きな魅力と感じられた。
3年夏の西東京大会でもチームは初戦で富士森に敗れたものの、スタンドにはNPB全12球団を含む日米14球団、42人のスカウトが集結して話題となった。ゆえにNPB入りを希望していれば、上位指名を受けていたという声も多い。
ただ、過去の例を見ると、アマチュアから直接アメリカに渡り、メジャーを目指すという挑戦が決して簡単でないのは火を見るよりも明らかではある。アマチュア時代を主に日本で過ごし、NPBでのプレー経験がないまま渡米している選手は少なくないが、そこからメジャーデビューを果たした選手はマック鈴木(元・マリナーズなど)、多田野数人(元・インディアンスなど)、田沢純一(元・レッドソックスなど)のわずか3人しかいない。しかも、3人はいずれも投手であり、多田野と田沢に関してはドラフト1位でのプロ入りの可能性も極めて高かった選手である。
森井も投手としては球速こそあるものの、NPBのスカウトからの評価は、「将来性は圧倒的に野手だ」という声が多かった。つまりNPBを経験せずに森井が野手としてメジャー昇格を果たせば、「史上初」という見方もできる。
メジャー昇格への道はかなり険しい。しかし——。
また、アマチュアからのメジャー挑戦が容易ではないと言える理由としては、メジャーの裾野の広さも挙げられる。
日本では、毎年1球団がドラフトで指名する人数は支配下で6人前後であるケースが多く、育成を含めて10人を超えるのはソフトバンク、巨人の2球団くらいである。一方でメジャーは各球団20人が上限となっているが、多くの球団がそれに近い人数を指名。さらに海外からも多くのアマチュア選手を獲得している。
マイナーリーグまで含めた選手の数は日本の10倍近くになると言われている。そもそもメジャーは球団数も30とNPBの12と比べても多く、競争もし烈だ。その中でプロの実績がない選手が勝ち上がっていくのは簡単ではない。
ただアスレチックスの提示した契約条件が良さからも分かるように、森井の高い将来性は確かなものがある。
まず、大きいのが持ち味は打撃だけでなく、あらゆるポジションで高いポテンシャルを見せているという点だ。下級生の頃はサードを守る機会が多かったが、2年秋からはショートに転向。線の細さは気になる点も多かったが、守備範囲の広さとスローイングの強さは高校生離れしたものがあった。その高い運動能力を考えれば、内野だけでなく外野としてプレーできる可能性も高い。
そして、何よりも大きく評価されたのは、早くからメジャーでプレーすることを目標にしてきたという意識の高さではないだろうか。
近年、高校生や大学生でも将来はメジャーでプレーしたいということを口にする選手も増えているが、現実的な目標としてとらえている選手はまだまだ少ない印象が否めない。一方で学力の高い進学校に所属していた森井は有名大学からの誘いも多くありながら、あくまで目標はメジャーと全く関心を示さなかったというのだ。高校生の時点でここまで確固たる意志を持てる選手はそうそういるものではない。
前述したように、メジャー昇格への道はかなり険しいことが予想される。しかし、だからこそ挑戦する価値もあると言えるのではないだろうか。数年後にメジャーの大舞台でさらなるスケールアップを果たしたプレーを見せてくれることを期待したい。
[文:西尾典文]
【著者プロフィール】
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。