橋本真和氏のパッティングサポートに感じた日本男子ツアー界の“大きな可能性”【現地記者コラム】

2025年4月19日(土)12時30分 ALBA Net

パターのデータを取りながら練習に励むパッティングのツアーコーチ・橋本真和氏と河本力(撮影:米山聡明)

<東建ホームメイトカップ 最終日◇13日◇東建多度カントリークラブ・名古屋 (三重県)◇7069ヤード・パー71>

先週の「東建ホームメイトカップ」で国内男子ツアーの2025年シーズンが開幕した。その練習日のこと。パッティンググリーンで昨年は見ることがなかった光景が目に入ってきた。それは河本力や、その姉の結、金子駆大らをサポートし、今年からオデッセイと契約したパッティングコーチのツアーコーチ・橋本真和氏の取り組みだ。


「パットに型なし」という言葉がある。実際にツアープロを見ても、パターの種類、握り方、打ち方は多種多様で、パターは“感覚重視”という考えもよく聞く。しかし最近はスイングコーチとは別に。河本らのようにパッティングのコーチと契約する選手が増えている。ショット同様、パットもデータ解析が進み、「型なし」の時代から移行しているタイミングなのかもしれない。橋本コーチはそんなパッティングの“進化”を発信しているひとりだ。

橋本コーチは練習グリーン上に計測器などを置き、同メーカーのパターを使用する選手たちのパッティングデータを取っていた。その測定器はボールの打ち出し角のトップスピン、バックスピン、サイドスピンを測ることに加え、「ボールの“ロール”(球の転がり)」を表す映像なども確認できる。こうやって打ち出し角やスピン量を測り、それを適切な数値にするために、パターのロフト角やライ角の調整をレップと呼ばれるオデッセイのクラブ担当者が行う、というのが一連の流れになる。

著者が見学しているとき、木下稜介、今平周吾、河本、篠優希らが計測していた。特に重要視していたのはパッティングしたときのボールの「打ち出し角度」。そもそも、パターとショットのボール回転は違う。ショットではダウンブローにあてて、バックスピンがかかるが、パターはアッパーブローに打ちトップスピン(進行方向に向けてかかるスピン)をかけて“順回転”させる。ショットでは打ち出し角度があることは理解されやすい。

『地面を転がすパターに打ち出し角度が存在するの?』と、思われる方もいるかもしれない。それは本当に微妙な角度で、1〜1.5度(いい転がりにつながる理想の打ち出し角度)の世界。上から打ち込むとボールが地面に押し付けられバックスピンがかかるが、少しアッパーに打つことでボールが少し浮き、インパクトの瞬間からトップスピンになりやすい。「そうすることで摩擦の抵抗を抑えることができる」。打ち出し角度を意識する理由は “順回転”にするためだ。

橋本コーチは、トーナメントのグリーンに対して、適正な打ち出し角度を「1.5度」と定義している。ただ、それも会場によって異なる。例えば先週の会場になった東建多度カントリークラブ・名古屋は「(芝が)モサモサしているので、2度は欲しい」。芽がきつく、やや芝が長めのため、打ち出し角度を0.5度上げることによって芝の抵抗を受けにくいのだ。このようにツアー会場の実際のグリーンを確認し、適切な数値を選手たちに伝え、パフォーマンスアップにつながるというイメージだ。

さて話を戻すと、こういった取り組みについて、「ツアー会場では初めてですね」と話すのが、今季を初めてシード選手として迎えた28歳の篠だ。診断を受けたると、「アッパーに当たりすぎて、打ち出し角度が高くなっていました」という結果が。それにより、ボールが跳ねてしまい、加速に遅れがでてしまう。これでは「打ちたい距離に対してショートにつながる」ことになりやすく、それを嫌がるとストロークで「パンチが入るような」動きへと悪化。“順回転”から離れてしまう。
 
「もともと、打ち込みすぎることが悩みで、アッパーに打つようにしたら、そうなりすぎてしまって…」(篠)。スイングでも、調整しているうちに崩れることはあるが、パターも同じ。こうしてデータを取り、ちょっとした“ズレ”に気づけるのは大きい。そこで篠は「ロフト角が4度なんです。ロフトを立てたほうがいいですかね」と橋本コーチに相談した。


基本的なパターのロフト角は2〜3度で、篠のパターは少し寝ている。「そのほうがいいね」(橋本氏)と、微妙な“数度”の差だが調整した。つまり、アッパーになりすぎていたストロークに手を加えるのではなく、それをふまえてクラブの方に手を加えたわけだ。クセを抜くのは時間がかかるが、クラブ自体はすぐに調整ができる。実際、「試合前にこういったことに気づけるのはとてもうれしい」と篠も話していた。

このように橋本コーチが選手のサポートを行う理由は、ただその週の試合でパフォーマンスが上がればいいという理由だけではない。「グリーンによってデータが変わります。東建のベントグリーンではどのような数値の選手が勝っているのか、成績が上がるのかなど統計を取っていくことで、来年以降の選手へのサポートが変わってくる。それを今は目標にやっています」と明かす。


この取り組みに、大きな可能性を感じた。パットをデータでひも解くということが、今よりもさらに当たり前になれば、より自分のパットの強み、弱点を把握しやすくもなる。トラックマンなどを使用してショットを分析することは、今では普通に目にする光景になった。パッティングでも、今回見た景色が当たり前になれば、さらに日本のゴルフ界の底上げにもつながる、そんな予感がした。橋本コーチは、まさに今、その下準備を進めている。

著者は幼いころから競技ゴルフでプレーし、プロを目指した時期もあったのだが、やはりパターの転がりの弱さに泣かされてきたことが何度もある。そんな時、転がりをよくしたくて、ストロークの大きさではなく、もともとのロフト角よりもハンドファーストに構え、さらにインパクトを強くすることを意識してしまいフォロースルーが小さくなってしまった、という経験もある。そんな話を橋本コーチにすると、「まさにそのように悪い方向にいってしまう人は多いですよね」と慰められることになってしまった。あの時、こんな解析があれば…。そんなことを考えた男子ツアーの開幕戦だった。(文・高木彩音)


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