ネリが番狂わせを起こすとすれば――東京D決戦で断然優位の井上尚弥に潜む“危険性”を米記者に訊く【現地発】

2024年4月28日(日)12時0分 ココカラネクスト

井上という強大なライバルに挑むネリ。彼が番狂わせを起こす可能性は現時点では考えにくいが……。(C)Getty Images、(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

「ネリが勝つ」と答えたものは1人もいない

 日本人がメインを飾るボクシング興行としては史上最大級だが、結果予測はかなり一方的なものになっている。バンタム級に続き、スーパーバンタム級でも4冠を制した井上尚弥(大橋)に、元世界2階級制覇王者のルイス・ネリ(メキシコ)が挑む、5月6日の一戦だ。

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 東京ドームという舞台、そしてネリと日本ボクシングの間に深い因縁があることは海外でも知られており、“本場”アメリカでの注目度も高い。それほど話題豊富な一方で、井上が敗れると考える関係者はほとんど存在しない。筆者は3月から複数のメディアにこの試合について尋ねてきたが、「ネリが勝つ」と答えたものは1人もいない。他ならぬ筆者も、もちろん井上が断然優位と考えている。

 ネリの日本における知名度の高さ、この期に及んでもなお挑発的な言葉を繰り返しているという背景もあり、今、井上のモチベーションが最高潮のはず。心身ともにベストのコンディションを作ってくるだろう。だとすれば、今やパウンド・フォー・パウンドでも最高クラスと目されるようになった31歳のモンスターが、29歳のメキシカンに付け入る隙を与えるとは考え難い。

 開始のゴングが鳴らされた直後から高速ジャブといきなりの右で機先を制し、ネリに自由を許さない流れが容易に想像できる。相手が強引に中間距離に入ろうとしたところに、井上の左ボディ一閃。2021年5月のブランドン・フィゲロア(アメリカ)戦でボディに強打を浴びて倒されたネリが、東京ドームでもボディを打たれてのたうちまわることになると筆者は予想している。現在の井上の充実度を考慮しても、このシミュレーションに同意するファン、関係者は少なくないのではないだろうか。

 一定のパワー、スピードを備えたネリは油断できない相手ではある。35勝中27KOとこの階級の選手としてはKO率も高く、バンタム級時代には山中慎介(帝拳)を2度にわたってKOした強打は印象的だった。もちろん禁止薬物使用、体重超過があった試合での攻撃力を鵜呑みにはできないが、過去3戦もすべてKO勝ちとスーパーバンタム級に昇級以降もパワーを保っている。

 そんなネリが大番狂わせを起こす可能性があるとすれば、何が必要なのか。米専門誌『Ring Magazine』のシニアエディターであるジェイク・ドノバン記者はこう語る。

「ネリはフットワークと角度を変えたパンチで相手を打ちのめすバンタム級自体の野獣に戻る必要がある。そのバージョンがまだ存在するのかは定かではないが、イノウエを初めて倒す選手になるにはあの頃のネリに戻らなければいけない。イノウエは格の落ちる選手相手では瞬間的に集中力を途切らす傾向があるだけに、強打を当てることは絶対に不可能ではない。そのためにネリは規律の取れたパフォーマンスを見せなければならない」

ホバシニアン戦でも果敢に打ちに出て、競り勝ったネリ。(C)Getty Images

「ネリが番狂わせを起こそうと思えば、攻め抜くしかない」

 実際、2019年まで戦ったバンタム級時代のネリは、今より躍動感があり、ダイナミックな攻めを見せていた印象があった。前述通り、スーパーバンタム級に上げて以降もKO率は高いものの、動きはややもっさりとしており、以前のようにパンチが縦横無尽に伸びてくるイメージはない。よって井上が圧倒的に優位なわけだが、逆に言えば、今戦に向けて体重調整も順調だという29歳がよりシャープな状態に仕上げてきた場合、怖さが出てくるのかもしれない。

 また、ネリが中間距離で振り回すフックの連打は独特の軌道を描いて飛んでくる。ディフェンス力にも秀でる井上が頻繁に被弾する姿は想像できないとしても、撃ち合いの中で1発でも良い角度で浴びたら危険なのも確かである。

 いずれにしても、ネリは打ち合いに挑むしかない。もともと好戦的なタイプだけに、ほぼ間違いなくそうしてくる。米紙『Los Angeles Times』のディラン・ヘルナンデス記者は、こう述べていた。

「ネリが番狂わせを起こそうと思えば、攻め抜くしかない。強引に入っていって、パンチを当てる。理想的なのは耳の上か何かにパンチを当て、イノウエのバランスを崩させるような展開。そういう形で攻め続ければ、チャンスはなくはないと思う」

 こうしてみると、歴史的なアップセットを可能にする条件はいくつか見えてくる。まずはネリが可能な限りのコンディションを整え、バンタム級で連戦を重ねていた最盛期の迫力と切れ味をスーパーバンタム級でも得ること。そして、序盤から積極的に攻め、井上にダメージを与えるか、リズムを崩すだけのパンチをヒットすること。その2つが揃った時、試合は予想外の方向に進む危険性が出てくる。

 繰り返すが、正直、その可能性が高いとはとても思えない。ドノバン記者が示唆していた通り、スーパーバンタム転級後のネリがバンタム級時代の勢いを取り戻せるかにはかなり疑問符がつく。さらに冒頭で述べた通り、今戦での井上はかなりの集中力を高めてくると予想され、展開に影響を与えるような一撃を不用意にもらうとは考え難い。

 それゆえに、“番狂わせのチャンス”を探してくれたドノバン、ヘルナンデス両記者も最終的には「やはりイノウエのKO勝ちだ」と断言していたことは、ハッキリと記しておきたい。ただ、どんなに可能性が低く感じられても、ネリには井上の前戦の相手だったマーロン・タパレス(フィリピン)にはなかったいわゆる“パンチャーズチャンス”がある。

 それだけに、最後まで目の離せないタイトル戦にはなるのだろう。だからこそ、この試合は世界中の多くのファン、関係者に期待感を抱かせているのである。

[取材・文:杉浦大介]

ココカラネクスト

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