20億円超の非日常、その先に 前澤杯を見た“実感”と“可能性”【現地記者コラム】
2025年5月1日(木)12時0分 ALBA Net
異例の新規大会「前澤杯」。男子ツアーの新たな可能性を感じさせた(撮影:福田文平)
異例の10日間にわたるプロアマ戦、ラウンドガールの帯同など、多くの話題を集めた国内男子ツアーの新規大会「前澤杯」では、数々の新たな試みが導入された。男子ツアーに新風を吹き込むべく行われた大会は、果たしてどのような盛り上がりを見せたのか。
最大10日間のプロアマ戦に一般参加枠(1日最大50組)を設け、1組100万円で販売。その収益を賞金に充てるという、前例のないスキームで開催された大会の舞台は、実業家・前澤友作氏が所有する完全非公開のプライベートコース「MZ GOLF CLUB」で行われた。筆者にとっても、取材前はすべてがベールに包まれた“未知の大会”という感覚があった。
「どんな大会になるのだろう」。そんな思いを抱え、プロアマ最終日の4月23日から現地を訪れた。まず目に飛び込んできたのは、クラブハウスに大きくラッピングされた“前澤杯”のロゴだ。そして玄関にはレッドカーペットが敷かれ、通常の大会とはまったく異なる空気に包まれていた。
クラブハウス内には立派な松の盆栽が飾られ、コースに出れば、色鮮やかなメタリックボディの車たちが並ぶ。前澤氏が所有するスーパーカー、いや“ハイパーカー”の数々だ。
総額はなんと20億円超。『エンツォフェラーリ』や、世界に1台しかない特別仕様車『ゾンダ・ゾゾ』など、めったに見られない名車がロープもなく展示され、目の前で鑑賞できる。まさに“夢のガレージ”であり、車好きにはたまらない空間。選手たちもその空間を満喫し、写真を撮ってSNSに投稿する姿が印象的だった。
こうした“非日常”の仕掛けは来場者を十分に楽しませていたが、本戦が始まると、少々さびしさも感じた。一見して、「ギャラリーが少ない」と思った。初日には片山晋呉、石川遼、そして女子プロの菅沼菜々という注目組もあったが、観客はまばら。
2日目以降も状況は大きく変わらず、発表された4日間のギャラリー総数は3641人。昨年、最多動員を記録した「三井住友VISA太平洋マスターズ」の2万7449人と比較すると、その差は歴然だった。
最終日には前澤氏への取材機会も設けられた。ギャラリーの少なさについて問われると、「本当に痛いご質問です」と苦笑いしつつ、「多くのお客さんが来たときの運営に不安があったため、チケット代をやや高めに設定しました。実際、あまりにも多く来られてしまうと困るという事情もあり、開幕を迎えたんです」という説明があった。チケット料金は各日1万円に設定されていた。想定内とはいえ、集客に課題を残した形だ。
また、プロアマチケットの売り上げも、目標の4億円に7000万円届かず、3億3000万円にとどまった。前澤氏はこの点についても「我々の力不足」と率直に語り、「来年はプロモーションや告知の強化を図り、さらなる売り上げを目指したい」と意欲を見せた。
とはいえ、数字だけでこの大会を評価するのは早計だろう。プロアマ7日間に参加した石川遼は、「(ゲストとの)出会いもあって、最後は仲良くなって終わる。非常に楽しかった」と語るなど、選手たちから好評だった。ファンと一緒にプレーするという仕組みは、これまでの男子ツアーにはなかった斬新な取り組みだった。
JGTO(日本ゴルフツアー機構)副会長の倉本昌弘も開幕前に、「観戦だけでなく『一緒にプレーできる』という体験は、ゴルフ界にとって新たな価値です。『夢のような時間だった』という声もあり、現時点で大会は大成功だったと感じています」と語っていた。選手との距離が圧倒的に近いこの仕組みが、新たなファン層を呼び込む可能性は十分にある。
前澤氏は「来年もチーム一丸となって大会を盛り上げていきたい。今年の課題を乗り越えて、より良い大会を作っていくつもりです」と語る。今年得た知見や経験をもとに、第2回前澤杯の開催へ意欲を見せた。
スーパーカーの前で笑顔を見せる子どもたち。ファンとともにラウンドを楽しむ選手たち。ゴルフという枠を超えた“体験の場”を提供することで、来場者に新たな価値を届けたこの大会。もちろん、課題もある。しかし、それ以上に“新しい男子ツアーの形”を示してくれたように思う。
選手も大会関係者も、来てくれたファンに最大限のおもてなしを届けようとしていた。そしてそれは、確かに伝わっていたように思える。国内男子ツアーの未来を大きく動かす可能性を秘めた、印象的な1週間だった。(文・齊藤啓介)
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