横浜FM、アジア制覇に王手。敵将クレスポ戦術に対するACL最終戦の課題

2024年5月13日(月)14時0分 FOOTBALL TRIBE

モハンメド・アルバルーシ(左)渡辺皓太(右)写真:Getty Images

AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24決勝の第1戦が、5月11日に横浜国際総合競技場にて行われた。この試合でアル・アイン(アラブ首長国連邦)を本拠地に迎えた横浜F・マリノスが、最終スコア2-1で勝利。現地時間5月25日に開催予定の、敵地での第2戦を前に優位に立っている。


ここではアル・アインの戦術を解説しながら、今回の第1戦を振り返る。現地取材で得たアル・アインのエルナン・クレスポ監督や横浜FMのFW植中朝日の試合後コメントも紹介したうえで、アウェイチームの特長やホームチームの第2戦に向けた課題に言及したい。




エルナン・クレスポ監督(左) ハリー・キューウェル監督(右)写真:Getty Images

19年ぶりに再会のクレスポとキューウェル


アル・アインをACL決勝の舞台へ導いたクレスポ監督は、かつてアルゼンチン代表やイタリア・セリエAの名門パルマ、ラツィオ、インテル、ミランのFWとして活躍。ミランに在籍した2004/05シーズンには欧州最強クラブを決めるUEFAチャンピオンズリーグ決勝に出場しており、このときの対戦相手リバプールの選手として同じピッチに立っていたのが、現在横浜FMを率いるハリー・キューウェル監督だ。


そのUEFAチャンピオンズリーグ決勝では、ミランがクレスポの2ゴールを含め前半に3点のリードを確保したものの、リバプールも後半に3ゴールを挙げるという怒涛の展開に。スコア3-3のまま延長戦でも決着せず、PK戦の末リバプールがこの激闘を制している。


3点ビハインドからビッグイヤー(※)を手に。このリバプールの偉業は決勝の開催地にちなみ、「イスタンブールの奇跡」として世界中のサッカーファンに語り継がれている。19年前に名勝負を繰り広げたクレスポとキューウェルが、横浜の地で監督として再会した。


(※)UEFAチャンピオンズリーグのトロフィー。取っ手の形が人間の耳(イヤー)に似ており、この異名がついた。




横浜F・マリノスvsアル・アイン、先発メンバー

クレスポ戦術が威力を発揮


お馴染みの[4-1-2-3]の基本布陣でこの大一番に臨んだ横浜FMに対し、アル・アインのクレスポ監督は[4-4-2]や[4-2-3-1]の守備隊形で応戦。横浜FMの中盤の底、MF喜田拓也のマーク役をFWアレハンドロ・ロメロ(2トップの一角やトップ下)に担わせた。


これに加え、パク・ヨンウとヤヒア・ナデルの両MF(2ボランチ)が、横浜FMの2インサイドハーフ植中とMFナム・テヒを捕捉。「相手の身体能力の高さをこの試合で痛感しました。普段であれば、自分の特長であるボールを収めるプレーができる場面でも、相手の(足の)リーチが長くてボールを失いました」と植中が試合後の会見で明かした通り、ほぼマンマークの守備にホームチームの2インサイドハーフは手を焼いていた。


また、パクとナデルの2ボランチは適宜味方センターバックとサイドバック間へ降り、自軍の守備を引き締め。4バックの泣きどころであるこのスペースを埋められたことで、横浜FMは攻めあぐねた。




モハンメド・アルバルーシ 写真:Getty Images

アル・アインの速攻が結実


[4-4-2]や[4-2-3-1]の布陣での撤退守備、なおかつ横浜FMの2インサイドハーフをほぼマンツーマンで捕捉。これに加え奪ったボールを素早く前線へ送り、高く保たれた横浜FMの最終ライン背後を突くというクレスポ監督のゲームプランが、アル・アインの選手たちに浸透していた。


迎えた前半12分、アル・アインは自陣でスローインを獲得すると、このこぼれ球が横浜FMのDFエドゥアルド(センターバック)の背後に落ちる。エドゥアルドとの走り合いを制したMFソフィアン・ラヒミが横浜FMのGKポープ・ウィリアムと1対1の状況となり、同選手のシュートはポープに防がれたものの、セカンドボールをMFモハンメド・アルバルーシが横浜FMが守るゴールへ押し込んだ。


幸先良く先制したアル・アインは、前半29分にも自陣からのロングパスが前線で収まり、ここからの速攻でMFマティアス・パラシオスが横浜FMの最終ライン背後を突く。パラシオスのシュートはGKポープの股下を抜け、ゴールマウスに吸い込まれた。


このゴールはオフサイド判定により取り消されたものの、アル・アイン陣営の狙い通りの攻撃だったと言える。「我々はこのやり方(速攻)でACLを戦ってきましたし、決勝の舞台にたどり着きました。このやり方にはクオリティーが伴っていて、我々はこれに自信を持っています。今日に関してはなかなか得点機会がありませんでしたが(追加点には至りませんでしたが)、効果的な機会は作れたと思います」。このクレスポ監督の試合後会見コメントの通りに、試合は推移していた。


植中朝日 写真:Getty Images

持ちこたえられなかったアル・アイン


アル・アイン陣営にとって悔やまれるのは、特に中盤の選手の試合終盤における疲労度が高く、タイムアップの瞬間まで守備の強度を維持できなかったこと。クレスポ監督が初めて選手交代を行ったのは、後半アディショナルタイム。この時点でアル・アインは試合をひっくり返されていた。


試合後会見で、ある記者から交代カードを切るタイミングについて問われたクレスポ監督。「交代する必要が無いと判断し、試合を進めました。危険な場面も特に無かったと思います」と説明している。確かに後半途中までは目論見通りに試合を進めていたため、この同監督のコメントに概ね同調できたが、中盤の守備の強度を上げるための選手交代はすべきだったと筆者は考える。ゲームを締めくくるための策の乏しさが勿体なく感じた。


第2戦でクレスポ監督が違った采配を振るえるか。この点が見どころのひとつであり、両軍の運命を左右するポイントでもあるだろう。




渡辺皓太 写真:Getty Images

横浜FMを救った植中と渡辺皓太


アル・アインの守備戦術と速攻に手を焼き、ほぼクレスポ監督の術中にはまっていた横浜FMを救ったのは、植中とMF渡辺皓太だった。


1点ビハインドで迎えた後半27分、FWヤン・マテウスの右サイドからのクロスに植中がヘディングで合わせ、同点ゴールをゲット。「クロスボールに対して、(ゴール前へ)入れていないシーンが多かった」と植中は試合後の囲み取材で述懐していたが、ここでは相手DFハリド・アルハシェミの死角(背後)でクロスボールを待ったのが功を奏した。


後半39分には、この試合途中出場の渡辺がコーナーキックの2次攻撃からゴールネットを揺らす。一度はオフサイドの判定が下されたが、ビデオアシスタントレフェリー(※)の介入によりゴールが認められる。この瞬間、横浜国際総合競技場が歓喜の声に包まれた。


横浜FMは本拠地で奇跡を起こしたものの、アル・アインの守備戦術を攻略できない時間が長かったのは確か。植中をはじめとする横浜FMのインサイドハーフがマンマークを振り切り、チャンスメークを担えるか。この点も第2戦の見どころであり、同クラブが悲願のアジア制覇に向け解決すべき最大の課題だ。


(※)フィールドとは別の場所で試合映像をチェックし、主審をサポートする審判員

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