車両“大破”で幕開けのチャスティンが大逆転勝利。ダブル挑戦ラーソンは悲運に散る/NASCAR第13戦
2025年5月27日(火)17時9分 AUTOSPORT web

カレンダー折り返しの『NASCARオールスター・レース』を挟み、後半戦幕開けの一戦となった2025年NASCARカップシリーズ第13戦『コカ・コーラ600』は、チームが徹夜で準備したバックアップカーで後方からスタートしたロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が、劇的な今季初優勝を達成。シャーロット・モーター・スピードウェイでの400周中283周をリードし、シーズン最長レースで最初の2ステージを制覇したウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)を逆転して、最後の6周で大仕事を成し遂げたチャスティンが0.673秒差でフィニッシュラインに先着し、同地初、キャリア通算6度目の勝利を手にしている。
前週ノースウィルクスボロでのオールスターを終え、2026年度NASCAR殿堂入りメンバーとしてカート・ブッシュが選出され、バイロンとヘンドリック・モータースポーツ(HMS)は4年間の契約延長に合意。さらにカートの弟であるカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)も来季の契約オプションを行使して残留を表明するなど、過去と未来が交錯する1週間となった。
「まるでレースモードのようだったよ」と殿堂入りセレモニーのモダン・イラ(現役世代)投票で61%の得票率を集め、資格取得1年目で“Hall of Fame(ホール・オブ・フェイム)”にその名を刻んだカート・ブッシュ。
「感情を抑え込まなければならなかったが、過去の映像を見ながら現在と未来を同時に考えていた。投票用紙に載っている人は皆、このスポーツに与えた影響によって殿堂入りできた人物だ。ラスベガス出身のブルーカラーの子供だった自分には、こんなことは想像もできなかった。家族にとってレースは単なる趣味のようなもので、父と息子でサーキットに通うのは楽しい時間だった。僕の成功の大部分は、まさに『正しいときに、正しい場所にいた』ことだった。そして宇宙が僕に微笑みかけてくれたんだ」
そんななか迎えたシャーロットでの週末は、土曜唯一のフリープラクティスで今季好調カーソン・ホセヴァー(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が最速タイムを刻むなか、チャスティンが平均タイム最速の20周を走行した後、ターン3と4の間で左後輪のパンクによりクラッシュ。抜群の仕上がりを見せていたカマロZL1の1号車が大破する事態となった。
「バックストレッチで前兆なく一気にエアが抜けた。ラインをキープしようと直線でフルブレーキをかけようとしたけど、手遅れだったよ。バンクするまでは大丈夫だったんだけど、その後はマシン全体が地面に接地し、スピンモードに陥ったんだ」
これで急遽ファクトリーに舞い戻ったトラックハウス・レーシングのクルーたちが夜通しでバックアップカーを仕立てるなか、土曜午後の予選ではチェイス・ブリスコ(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)がポールウイナーを射止める。
「正直言って、かなりスゴいことだ!」と伝統の開幕戦『デイトナ500』に続き、戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)のビッグイベントで今季2度目のポールポジションを得たブリスコ。
「こんな重要なふたつのイベントでトップを走れるなんて、本当に特別な気持ちだよ。デイトナも素晴らしかったが、あの日曜は(移籍初戦で)大混乱だったし、あの瞬間を充分に味わえたかどうかは分からない。でも明日は本当に特別な日になるだろうね」
そのブリスコの隣でフロントロウを得たのは、この週末に2年連続の“インディ/シャーロット・ダブル”に挑戦中のカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)で、前週ノースウィルクスボロのオールスターから北米最高峰シングルシーター、NTTインディカー・シリーズの祭典『インディアナポリス500』の練習走行や予選カーブデイなどと並走してきた2021年カップ王者が、昨年の初挑戦で天候に翻弄された“忘れ物”を獲り返す、最高のお膳立てを整えた。
すると日曜のインディアナポリス(IMS)も霧雨の影響でディレイが発生するなど、ラーソンにとってふたたび緊迫感が漂う状況のなかスタートが切られると、7列目19番手から上位進出を目指していた92周目に佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)の後ろで姿勢を乱し、レース中盤でリタイヤを喫することに。
幸か不幸か。このクラッシュでIMSを早期に離脱したラーソンは、シャーロットでの日曜決勝9周目にバイロンを抜いてトップに立ち、そこから33周にわたってリードラップを刻んでいく。
しかし首位走行中の42周目にアウトサイドのウォールに激突してターン4でスピンし、トライオーバルのグラスエリアを滑走。その後も5号車の状況は改善せず、246周目にはライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)や、ダニエル・スアレス(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)ら5台と絡むマルチの犠牲となり、失意の“ダブル”挑戦が幕を閉じた。
「序盤からトー角がズレているような気がしていた。それで序盤にリードしていた際にルーズになり、ウォールに接触して後退した。今夜は自分のミスが多すぎて残念だ。明日からリセットしてもう一度トライできればいいんだけどね」
その決勝最初の2ステージで圧倒的な強さを披露したのが僚友バイロンで、最終ステージでもデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)と9度の首位交代を記録しつつ、291周目にはトップの座を取り戻す。
直後、307周を走ったところでホセヴァーがエンジントラブルに見舞われ戦列を去ると、348周目には最後の“アンダーグリーン”ストップでハムリンの11号車クルーはふたつ目の燃料缶をタンクに充填できず。ハムリンは388周目に予定外のピットストップを余儀なくされ、ここでレースから脱落となった。
これで盤石の首位を得たかに見えたバイロンだが、最終盤でその行く手に立ち塞がったのが、最後尾40番手スタートからジリジリとポジションを回復してきたチャスティンで、最初のピットストップでタイヤ違反に見舞われながらも、優勝戦線に舞い戻ってきた3位ブリスコや“犬猿の仲”ハムリンらに混じり、レース中盤には先頭集団に加わってくる。
さらに395周目のターン1進入で24号車バイロンのボトムに飛び込むと、ターン2で前に出る華麗なオーバーテイクに成功。急遽の仕立てとなる突貫工事のバックアップカーで、ここから最後の6周を支配する大逆転劇を演じてみせた。
「昨晩ショップを出たこのマシンに、今朝初めて座ったんだ」とチームの仕事ぶりにただただ感謝を述べ続けた勝者チャスティン。
「10時頃だった。彼らは夜中2時半まで作業し、今朝5時半には戻ってきた。ほとんどのクルーは30分から45分かけてクルマで帰宅する。少しシャワーを浴びただけだと思うし、寝たかどうかも分からない。まさにトラックハウスの献身的な仕事ぶりだ。昨日の土曜日は休みだったという人もいて、それでも彼らはそこにやって来たんだ」
「最後のアタックで、一晩中ずっと調子が良かった2台を追い抜くなんて……(クルーチーフの)フィル・サージェンは、最終ステージで2周早くピットインするように言ってくれたんだ。でも少し混乱したから2周長く(350周目まで)走ったんだ。でも、それが最終的に功を奏した。タイヤが少しだけフレッシュだったから、より長く持ち堪えた。マジか……600で優勝したぞ!」
併催されたNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第11戦『ノースカロライナ・エデュケーション・ロテリー200』は、コーリー・ハイム(トリコン・ガレージ/トヨタ・タンドラTRDプロ)が圧倒的な強さでレースを支配し今季4勝目。決勝の134周中98周をリードし、2位チャスティンに6.229秒差で勝利を収めることに。
同じく併催のNASCARエクスフィニティ・シリーズ第13戦『ベットMGM 300』では、スピード違反のペナルティから巻き返した17号車のバイロンが、オーバータイムでシリーズチャンピオンのシャスティン・オルゲイアー(JRモータースポーツ/シボレー・カマロ)を仕留めて逆転勝利を飾っている。