ジェンソン・バトンもカップの猛者らも寄せ付けず。RSC王者SVGが圧巻のデビューウイン/NASCAR第18戦

2023年7月4日(火)17時43分 AUTOSPORT web

 史上初、シカゴ市街地でのストリート戦となった2023年NASCARカップシリーズ第18戦『グラントパーク220』は、誰もが歴史の目撃者となった。


 豪州大陸を代表するRSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップで3冠に輝く“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が、1963年のジョニー・ラザフォード以来、約60年ぶりとなるカップシリーズでのデビューウインを達成。


 現地では記録的なレベルの豪雨が襲い、スタートディレイから日没考慮による25周短縮と波乱続発のレース展開となるなか、レイトコーションからの延長戦で抜け出したSVGが、同じくゲスト参戦となったジェンソン・バトンや、カップ戦レギュラーの猛者たちを撃破する偉業を成し遂げた。


 シリーズの歴史上初の試みとして、ウォールに囲まれたストリートでの1戦が組み込まれた今季第18戦に向け、シカゴのダウンタウンでは着々とサーキット敷設の準備が進むなか、レースウイーク最初のニュースは暗澹たる内容の一報に。


 今季パートタイムでカップに復帰参戦している“7冠”ジミー・ジョンソン(レガシー・モータークラブ/シボレー・カマロ)の家族3名が、不幸な銃撃事件で亡くなったことを受け、チームは急遽“JJ”の84号車を撤退させる決断を下した。


 妻チャンドラの地元オクラホマ州で発生した事件では、ジョンソンの義理両親にあたるテリーとジャック、そして彼らの孫であるダルトンが息を引き取り「チャンドラ・ジョンソン家族の悲劇的な死に、私たちも悲しみに暮れています」とNASCARも声明を発表した。


「NASCARファミリー全体は、この困難な時期にチャンドラ、ジミー、そしてジョンソンとジャンウェイの家族全員に深い支援と哀悼の意を表します」


 そして自身が運営に携わるレガシー・モータークラブの声明では「ジョンソン一家は現時点でプライバシーを求めており、これ以上の発表は行わない」とも記された。


 一方、今季のル・マン24時間ではヘンドリック・モータースポーツが歴史的一歩を刻んだ『ガレージ56』の参戦枠で、そのジョンソンと共闘した元F1王者ジェンソン・バトン(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)も、昨季のCOTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)以来となる自身2戦目のカップシリーズに挑む。


「今回はシートをフィットさせただけで、現状は見た目も含めすべて良好だ」と、約3カ月ぶりのNASCAR参戦となったバトン。


「昨季のテキサスでは熱中症に悩まされたが、今は問題ない。僕らはそれをずっと楽にするちょっとした解決策を考え出したんだ。ル・マンではトラクションコントロールを使ってクルマをドライブしてきたから、この週末最初の数周は自分の足の感覚を掴むところからになるだろうね」


 それでも事前に2日間の日程で実施した市街地向けのシミュレーター訓練と、夜通し走り続けた24時間の経験が「クルマの理解を助けるだろう」と前向きな見解を示す。


「カップカーへの理解度が大幅に向上し、ドライブがはるかに簡単になった。でも事前の予測では、こういう市街地こそカップカーらしい鷹揚なスライドと柔らかいライドコントロールが楽しめると思っていたが、現実はまったくその逆だ」と、少々残念そうな顔を見せたバトン。


「デトロイトでのインディカーを見てもわかるとおり、リヤのディフュザーを最大限に活かすべくどれだけ低い車高を維持できるか。そのためコンプライアンスやストロークは大幅に規制され、滑り出したら一瞬のエッジなクルマになる。慣れるまで数周は掛かるだろうが、みんなが(初めての)トラックを学んでいる間は、それもまったく悪いことではないと思うよ」

史上初、シカゴ市街地でのストリート戦となった2023年NASCARカップシリーズ第18戦『グラントパーク220』。リッキー・ステンハウスJr.(JTGドアティ・レーシング/シボレー・カマロ)らはシカゴ・カブスにゲストとして招かれた
元F1王者ジェンソン・バトン(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)も、昨季のCOTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)以来となる自身2戦目のカップシリーズ参戦となった
誰にとっても最初の市街地となるFPでは、シェーン-ヴァン・ギズバーゲン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が挨拶代わりにトップタイムを奪う


■予選でも速さを維持するSVGにトヨタ陣営が立ちはだかる


 そして、こちらも元F1王者キミ・ライコネン起用で注目を集めたトラックハウス・レーシングの国際ゲスト招聘枠『プロジェクト91』からは、オーストラリアの現役ツーリングカーチャンピオンが初参戦。そのSVGは、各車がストリートサーキットで初めて周回を重ねた公式練習から、いきなり挨拶がわりのドライブを披露すると、カップ公式セッション初参加で鮮やかにトップの座を奪った。


「吸収すべきことがたくさんあった。本当にプラクティスから激しいね」と、50分間のセッション序盤からトップオーダーを維持したSVGは、終盤20分からフィールド全体のタイムアップ後も首位の座を譲ることなく、カップの面々にインパクトを与えるスピードを見せつけた。


「クルマは良かったし、クルーたちも素晴らしい仕事をしてくれたし、僕自身の準備も順調だった。僕らは(スーパーカーで)ストリートコースをたくさん走るし、当たり前にある舗装の亀裂やブレーキマーカーによる暴力(笑)など、これほど素晴らしいものはないと思っている。条件は誰にとっても同じで、紙一重の境界線を見つけなければならない。予選、決勝に向けてトラックも良くなるだろうしね」


 そう語ったSVGは予選でも速さを維持し、セッション残り2分の時点まで最速の座を堅持。しかし、そこに立ちはだかったのがトヨタ陣営で、最後のフライングラップを決めたデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が11号車をポールポジションに導くと、タイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)の45号車もラストアタックでタイムを伸ばし、ハムリンの熱烈ラブコールで23XIに加入した男が、カムリ独占によるフロントロウを固める構図に。


 これで2列目3番手からの決勝レースデビューとなったSVGの隣には、クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が並び、トヨタ陣営vsオーストラリア王者の図式が完成した。


 この予選終了時点から雨模様に祟られたシカゴは、併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第16戦『ザ・ループ121』も雷の脅威が続いてレース折り返しを前に中断され、再開予定も虚しく日曜午前へと延期されることに。


 しかし、明けた日曜も早朝から激しく降り続く雨量でコース周辺に水が溜まり、広範囲でジェットドライヤーの作業が続けられたものの、市街地開催を考慮して月曜順延の手段も採用せず「レーストラックと市内全域で水の滞留と洪水が重大な問題となっているため」敢えなく中止に。この結果、ポールスタートから前半戦でレースを牽引したコール・カスター(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が勝者と認定された。


 こうして始まったカップ初の市街地100周は、暴れるマシンをねじ伏せるウエット路面から、レコードラインのみ、さらにトラック全体とドライアップの進む“変数要素”も加わった難しい展開となり、オープニングでレディックの先行を許したハムリンは、続くラップで早くもSAFERバリアの餌食となる。


 そんなトップ10の集団内で唯一、ワイパーを作動させることを“忘れていなかった”SVGは、名手カイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)らを含め各車がウエットタイヤと水量ある路面のブレーキングで続々と判断を見誤るなか、自身の習熟やコンディション変化の見極めも兼ねて、先頭集団でノーミスのラップを重ねていく。


 一方、トヨタのベルとレディックがワン・ツーを決めたステージ1をトップ10で進めていたバトンも、続くステージ2の最終コーナーで後続にヒットされスピン。そのままレーン入り口側へ弾かれたこともあり、アクセルターンを決めピットへ向かうと、ここでエントリーに飛び込んで来た王者ジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)とあわや接触の一幕も。お互いヒットせずダメージは避けられたものの、ここでバトンは大きなタイムロスを喫してしまう。

予選ではトヨタ陣営が逆襲に転じ、意地を見せたデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が11号車をポールポジションに導く
現地シカゴの豪雨であおりを受けたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第16戦『ザ・ループ121』は、コール・カスター(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が勝者と認定された
決勝を前に、3番手スタートながら「勝利を狙えるだけの速さはないだろう」と、SVGも控えめな見通しを語っていた


■残り2周のリスタートを制したSVGが歴史的偉業


 そしてSVGに転機が訪れたのは42周目のコーションで、パック全体がレースの短縮や早期終了を見据えて早めのピットを選択。先頭集団が後方へ下がる展開となり、その直後にレースコントロールは「25周の短縮」を発表。結果的に上位勢はそのまま後方へ埋もれる格好となり、なんとFPのクラッシュで予選を欠場し、最後尾スタートだったジャスティン・ヘイリー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)が首位に浮上し、その背後からチェイス・エリオットやカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)ら、本来の“ストリートファイター”たちが追走する展開となる。


 その後、集団内ではバリアにスタックしたウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)を避けようと、ケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)がバランスを失いスピン。後続が“駐車場”と化しファンからは大歓声が湧き起こるなど、市街地戦らしい見せ場もありつつ。変更された75周チェッカーまで残り10周の時点で、5番手を走行していたSVGが最後の勝負を仕掛ける。


 すでに両ステージを制覇したベルもターン1でスピンアウト。同じく45号車レディックも後方集団に飲み込まれた後にターン6でパンクを喫するなど、トヨタ陣営の脅威は去りし後に。67周目にエリオットを仕留めたSVGが3番手に浮上し、周囲よりラップ当たり0.5秒以上速いペースで首位ヘイリーに迫るも、ここでマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が、コースの反対側でバリアの餌食となりコーションに。ターン7で見せたヘイリーへのオーバーテイクは幻となってしまう。


 残り5周。ふたたびヘイリーを先頭に再開した勝負は、滑りやすいコンディションによりレース全体を通じて一列縦隊リスタートが義務付けられたことで、後続のドライバーはリスク覚悟の勝負を強いられる。しかしターン2であっさりブレーキングを制したSVGは、ターン3からターン4へのクロスラインも読み切り、ここでついに正真正銘の首位浮上を果たす。


 直後にはターン1で無謀な飛び込みを見せたダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)が、リッキー・ステンハウスJr.(JTGドアティ・レーシング/シボレー・カマロ)を撃墜して最後のコーションが発生するも、残り2周の延長レイトリスタートも難なく制したSVGが、NASCAR史上に残る歴史的偉業を達成してみせた。


「いつだって、こんな瞬間やこんな物語を夢見てきた!」と喜びを爆発させた豪州RSC王者。


「なんと素晴らしい経験だろう。本当にとてもとてもクールだし、NASCARは最高にカッコ良かった! 夢見た世界でもっとレースができるようになるといいし、勝負は本当に素晴らしかったね。誰もが敬意を持っていたし、大変だったけど本当に楽しかったよ」


 惜敗となった2位ヘイリーと、3位エリオットに続いて4位に入ったラーソンは、勝者SVGにオーバーテイクされた後「彼の後ろを走ることができたのは勉強になった」と、初開催の市街地戦を制した南半球の王者に賛辞を贈った。


「僕のシートから見るのは最高に楽しかった。彼が僕のバックバンパーに来たとき、僕自身も本当に良いセクタータイムをつなぎ合わせたように感じた。だから確信してミラーを見て『これでクルマ2台分かそこらのマージンを稼いだだろう』と思っていたんだ」と続けたラーソン。


「でも彼は僕のバンパーに釘付けになっていた。そこで初めて『なんてこった、この男は飛ぶように速いぞ』と思ったよ」

クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が今季初のステージ勝利から連続で勝利ポイントを奪う
カイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)も序盤ターン6でバリアに沈むが、最後は5位まで挽回を見せた
「彼は16周ほど良いタイヤを履いていた。まさにワールドクラスのレーサー。とても正確で、とてもスムーズだった」と2位惜敗も相手を賞賛のジャスティン・ヘイリー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)


■カップシリーズの面々に対する危機感を示すラーソン


 同じく、レース序盤のターン6ではカマロZL1の車体前半部をタイヤバリアに潜り込ませながら、最終的に5位までカムバックしたブッシュも、SVGの脅威を「充分に認識し予想していた」と語った。


「明らかな成長も感じたし、これこそ彼が生涯を通じてやってきたことなんだ。彼にとって幸運なことに、キャリアを通じて軽量なIMSAのプロトタイプやダウンフォースのあるGT3なんかでなく、より大きくて重いストックカー(スーパーカー)でそれを成し遂げてきたんだ」と、かつてのデイトナ24時間ではエイム・バッサー・サリバンのチームメイトとして、ともにレクサスRC F GT3をドライブした経験も持つブッシュ。


「彼がこの種のクルマ……つまりスーパーカーで成し遂げてきたことは、おそらく我々より4〜5、いや8年は先を行っている。以前、デイトナ24時間でレクサス・プログラムのチームメイトとして彼と一緒に仕事をしたことがあるが、現地にいる間ずっと、彼はおそらくチーム最速のタイムをキープし続けていた。彼は怠け者ではない。ここ(NASCAR)に来たら、きっと人気者になるだろうと思っていたよ」


 さらに前出のラーソンは、勝利を決めたオーバーテイクの瞬間を描写しつつ、自身を含めたカップシリーズの面々に対する危機感も露わにした。


「彼が僕を抜いて行った後、ショーを見ることができた。首位争い(SVGとヘイリー)は素晴らしかったね。彼はうまくターン2のインを刺したが、ジャスティンは出口でトラクションを掛け、しばらくは戦えそうだったんだ」


「でも彼(SVG)はまさに“スーパーゴール”を決めた。とんでもなくアグレッシブなレーンチェンジで右側に戻り、クロスラインの攻防から刺し返したんだ。それはもう……異常だよ(笑)。本当に素晴らしかった」とラーソン。


「だからこそ、あのような選手が入ってきて、相手の“ホームゲーム”で自分たちを蹴飛ばすことができるということは、ここにいる全員に改善の余地があることを示していると思う。彼が僕らのことをどう思っているのか気になるね。彼は明らかに僕らをたくさん追い抜いたし、彼がカップの全員を最低だと思っているのか。それとも僕らがそれほど悪くなく、実際に競争する相手だと思うのか。とても興味があるよ」


 そんな元カップ王者の熱烈な賞賛に対し、即座に応じたSVGは「これがオーバルなら、まさに真逆のことが起こるはず」だと答えた。


「これが僕の生業である、ストリートサーキットだからと思う。僕の(スーパーカー)レースのほぼ半分はストリートサーキットで争われるから、壁に慣れているんだ。ただステアリングが“間違った側”にあるから(笑)、ウォールへ接近する感覚を学ぶのに少し時間を要した。左コーナーのエイペックスを逃したり、右コーナーでどこまで寄せていいかの距離感を掴むのにね」とSVG。


「もちろん、カップシリーズは精鋭揃いだ。ウエットタイヤは僕の知るモノとはまったく違ったが、彼らは即座にタイムを出した。スリックに戻したときは僕が臆病になりすぎて、みんな前に行ってしまった」


「全員が上手でパスも献身的だった。ドライバーによってはちょっと“優しすぎた”かもしれないけど、そういうこと。交差点の出口で壁の隙間を残しているクルマもあったが、僕はそこに近づくことを恐れないし、取り分もあった。でも(2回目の開催となる)来季は彼らの多くがもっと速いはずさ」

ウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)やケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)を起因に、集団”パーキングロット”発生でファンは大歓声
残り2周の延長レイトリスタートも難なく制したSVGが、NASCAR史上に残る歴史的偉業を達成してみせた
前戦勝者ロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)がSVGを祝福。チームにとっても連勝の結果となった

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