「かなり幸運な当たり方」ほぼ全損状態だったMOTUL AUTECH Z、モノコック交換でカムバック

2023年8月5日(土)11時35分 AUTOSPORT web

 鈴鹿サーキットで6月最初の週末に開催された2023年スーパーGT第3戦は、決勝77周レースも残り17周となった時点で表彰台争いを演じていた23号車MOTUL AUTECH Zによる現場を凍りつかせる事故で幕を閉じた。そこから約2カ月を経て、この第4戦富士はニスモ陣営と23号車にとっても復活を期すラウンドとなる。現地金曜搬入日に、改めてニッサンの松村基宏総監督に車両リペアの状況を聞いた。


「ご存知のとおりほぼ全損状態のクラッシュで戻ってきたので、モノコックから始まり、ほとんどの部品を交換しました。モノコックも(強度測定の)テストはしましたけど、やはり“おっかない”部分もあります。危険性も考慮し、そこはGTA(GTアソシエイション)に申請を行い交換の判断をしました」と松村総監督。


 決勝59周目のシケイン手前。130R攻略から続くブレーキングゾーンに向け、GT300クラスの車両に接触する格好となった松田次生の23号車は、映像で確認できる限り車体右後方を他車に引っ掛けるようにして180度反転、進行方向にリヤを向けた時点で宙を舞い、コースイン側のキャッチフェンスにボディを預けるようにして激突、そこで一気に速度を落とし、止まった。


 車重1トンを超えるGTカーでも、同じ車速ならウイングやフロア、ディフューザーの効果が反転しただけで浮き上がる事実に。やはりダウンフォースの大きさを実感するところだが、これだけの重大事故だったにも関わらず、ドライバーにとっても車体後方からルーフに掛けてがフェンスに包まれるようなかたちで接触したことで「頚椎側が完全にシートで守られている状態」となった。


 ドライブしていた松田は精密検査の結果、一部筋肉の裂傷や右踵(カカト)にヒビが入るなどの怪我は負ったものの、松田自身もリハビリを経て第4戦への復帰が叶った。


 その“不幸中の幸い”は車両の損傷具合にも現れ、共通カーボンモノコックと一体化されている上部ロールケージ部こそ「変形があった」ものの、エンジンには奇跡的にダメージがなく、年間2基の運用に支障は出なかった。つまり今回は無交換だという。


「以前のクラッシュのときにも言いましたが、どう当たるかで必ず『そういうふうに設計しています』とか言えるわけではありません。ただいろいろなツキがあり、ドライバーの体は守られた、ということだと思います」


■「幸運に幸運が重なった」鈴鹿のクラッシュ。第4戦ではモノコック交換でペナルティ


 現代レーシングカーの基本思想として、装着が義務付けられる衝撃吸収構造、いわゆるクラッシャブルストラクチャーは前後方向とサイドインパクトを想定する。そのうえで、バスタブ構造のモノコックを採用する車両では、セーフティセルの役目を果たす目的で「モノコック自体は潰れない構造にしてある」のが基本だ。ただしルーフからの衝撃を想定したテストは当然なく、その意味でも「幸運に幸運が重なった」のが実感だという。


「当たり方、それから体に掛かる負荷がうまく分散されたのでしょう。ルーフから当たるテストはないですからね……。でも、頑丈イコール安全かというと、やはり当たり方次第で直接入力が入れば、ドライバーは骨折することもあります。それでいくと今回はかなり幸運な当たり方で、セルは完全にプロテクトされました」


 はからずもGT500規定の安全性を再度、立証するかたちとなった23号車だが、鈴鹿戦後に本拠地へと運び込まれた車両は、前述のとおりモノコックのダメージ検証を経て交換を決断。当然、その前後に繋がる共通サブフレーム類や共通アップライト、そのほかのコンポーネント類もすべて交換することとなった。


「ですので、実質もう1台の開発車を作ったようなモノです……。とはいえ、毎回レースが終わるたびにバラバラに(してクラックチェックとセットダウン)はしているので、工程としてはそれほど複雑ではないのですけど、いかんせんモノが揃わないとできません。その点、部品が来るのに1カ月くらいは待ちました」


 完成以降、チェック走行などの機会もなく8月5日(土)の第4戦公式練習を迎える23号車だが、前述のとおり車両全体を組み直して臨む点はいつもどおりだ。走り出しから確認作業を進め「キチッとレースを見据えて戦っていく」という。


 ただし、昨季の3号車(2022年第2戦富士)のモノコック交換時とは異なり、23号車はアクシデントの起因となったことからか、今回はレーススチュワードからモノコック交換したことによるペナルティを受けることになった。


「今回はペナルティがあるので優勝は簡単に狙えるところにはないです。それでも、いつもどおりのルーティンワークを重ねていきます」と松村総監督。モノコック交換でのペナルティは、今季開幕戦で8号車ARTA MUGEN NSX-GTにレース中に5秒ストップが科されている。


 ただし、日曜は天候が不安定になるとの予報もあり、展開やタイヤ選択次第ではあらゆる可能性も想定できるのが450kmレースだ。そのためにも、23号車復活の筋書きは土曜公式練習の走り出しに掛かっている。

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