【サーキットのお仕事紹介】スーパーフォーミュラ開催の大黒柱、JRP。プロモーターの使命は「シリーズの価値を高めること」

2019年10月23日(水)19時9分 AUTOSPORT web

 ドライバーやメカニック、チーム関係者をはじめ、さまざまな職種の人たちが携わっているモータースポーツの世界。ドライバーなど、目につきやすい職種以外にも、陽の目を浴びない裏方としてモータースポーツを支えている人たちが大勢いる。そこで、この連載ではレース界の仕事にスポットを当て、その業務内容や、やりがいを紹介していく。


 過去の連載ではチームマネージャーやエンジニアなど、レースに参加する『エントラント』側で働く方々を取り上げてきたが、今回は各カテゴリーを運営する側の『プロモーター』に着目。全日本スーパーフォーミュラ選手権のプロモーターである株式会社日本レースプロモーション(JRP)の上野禎久取締役に話を聞いた。


──────────


 スーパーフォーミュラをはじめとする様々なモータースポーツを見ていると、レースの開催契約などに関する報道で目にするのが『プロモーター』だ。レースを開催するサーキット側とは、どのような違いがあるのだろうか。JRPのSF事業本部長でもある上野取締役に、まずはプロモーターとはどのような仕事なのかを説明してもらった。


「プロモーターというのは、そのカテゴリーの開催権を所有して、その権利によってレースをプロモートするのが仕事です。我々JRPはスーパーフォーミュラの開催権を所有していて、『オーガナイザー』(=各サーキット側)との開催契約によって、スーパーフォーミュラのレースが開催されます」


「簡単に説明すると、『プロモーターはスーパーフォーミュラという商品を作り、オーガナイザーがその商品を仕入れてお客様に売る』という仕組みです。開催権料をいただく立場であり、それが主な収入源となっています」


「他のカテゴリーで言えば、F1におけるFOM(フォーミュラ・ワン・マネージメント)、MotoGPであればドルナスポーツがそのカテゴリーのプロモーターです」

2019年全日本スーパーフォーミュラ選手権 開幕戦鈴鹿サーキット


 レースの開催契約を含め、様々な契約の締結に向けた調整をすることがオフィスでの主な仕事だという上野取締役。スーパーフォーミュラにシャシーやエンジンを安定的に供給するのも、重要な仕事のひとつだ。


「スーパーフォーミュラでは2019年からダラーラ社製の新シャシー『SF19』を導入しました。このシャシーを導入するにあたり、スーパーフォーミュラというカテゴリーをより良いものにしていくためにはどういう車両が必要なのか、ということを考えてメーカーやエントラント側と協議し、それをもとに車両の構想を練ってダラーラと交渉を行いました」


 ではレースの週末にサーキットへ来てからの仕事はというと、木曜日にサーキットへ入る上野取締役は、シリーズが一貫したルールに則って運営されるように、ここでもやはり調整作業を行っているという。


「JRPはスーパーフォーミュラの全レースに帯同しています。私は事業担当とともに競技運営も担当しているので、サーキット側の競技運営スタッフと様々な情報を共有しながら、このシリーズがすべてのサーキットで同じように運用されるようにしています」


「そのために、協議団のサポート役として今ではシリーズ全戦を通してレースディレクターを起用しています。ほかの国内レースを例に挙げると、スーパーGTでは服部尚貴さん、全日本F3選手権では飯田章さんがレースディレクターを務めていますよね。技術も同じで、シリーズのテクニカルディレクターが車両規則の運用をサポートしています」


「各サーキットによって競技団が変わるたびに運用が変わったらチームも混乱しますし、公平公正なレース運用のために欠かせない存在です」


■オーガナイザー時代の経験を活かして、商品価値を上げられるか


 上野取締役は、JRPで働く前に、鈴鹿サーキットやツインリンクもてぎを運営する株式会社モビリティランドに所属していた。モビリティランドでは広報の責任者として、スーパーフォーミュラの魅力を伝え、ファンをサーキットに呼び込む立場だったのだ。


 オーガナイザー側からプロモーター側へと立場が変わったということは、オーガナイザーがレースを開催するにあたり、プロモーターに対して何を求めているのかを知っているということだ。この点は、プロモーターとして働くうえで大きな利点になるという。


「先ほどスーパーフォーミュラを“商品”とたとえましたが、この商品の価値が非常に重要になります。この商品はお客様を1万人呼べるのか、2万人呼べるのか、あるいは10万人呼べるのか。商品の価値を上げて欲しいと思っていた立場から、上げなければならない立場に変わりました」


「お客様やスポンサーに直接“商品”を売るのはオーガナイザーであり、チームです。そのために、より良いマシンの提供やテレビ放送の拡充を中心に認知度を高め、それぞれがビジネスを展開しやすい環境を作ることが重要ですね」


■情報開示の重要性


 とはいえスーパーフォーミュラという商品の価値を上げていくなかで、予期せぬ出来事によってその努力が水の泡となることもある。


 その例となったのが、今年の第2戦オートポリスと第3戦スポーツランドSUGOでの予選だ。オートポリスでは、悪天候のなか計時セッションで行われた予選が3度の赤旗中断の末、一切の説明がなされずに終了。SUGOでも予選Q3が1分24秒を残して赤旗のまま終了となり、大きな混乱を招いた。

大雨に見舞われた第2戦オートポリス大会


「(オートポリスとSUGOで)あのような混乱を招いてしまった原因のひとつは、我々が決断に至った経緯を伝えられなかったこと。なぜオートポリスでは予選を終了したのか、どうしてSUGOではセッションを延長しなかったのかということをきちんと説明せず、コントロールタワーのなかだけで完結してしまったことに課題がありました」


「今ではSNSなどを含めてお客様に情報をお伝えする方法はありますし、様々なツールを駆使してしっかりと経緯を説明するべきであったと考えています。このような情報の開示も、シリーズの価値を上げるためには重要な時代かもしれません」


 SUGO大会の予選後には、JRPからメディア向けに予選終了の経緯を記したプレスリリースが発表された。上野取締役によれば、このリリースの発表はオートポリス大会の反省を踏まえたものでもあったという。スーパーフォーミュラにとっても、大きな一歩となったことだろう。


■JRPが求める人物像と、スーパーフォーミュラの将来


 シリーズを運営する立場として難しい場面に直面することも多い上野取締役だが、昨年の最終戦にまつわるこんなエピソードを話してくれた。


「レース中、私はプロモーターの代表としてコントロールタワーにいます。昨年の最終戦が終わった後、普通なら『お疲れ様でした』と声をかけ合うところ、スタッフのみなさんが『おめでとう』と言ってくれました」


「というのも、我々が進めてきたレースフォーマットがドラマを生み、素晴らしいチャンピオン決定の瞬間だったということで、みなさんがそれを祝って言ってくれたんです。うれしくて、初めて仕事で泣きました(笑)」


「レースでドライバーがきちんと実力を発揮できて、お客様も喜んでくださった時は、プロモーター冥利に尽きますね」


さて、モータースポーツ業界での就職を夢見る人のなかには、上野取締役のようにプロモーターという立場で働きたいと考える人もいるだろう。JRPで働くには、どのような人物が求められるのだろうか。


「今JRPにいるスタッフは、過去にチームなどでモータースポーツに関わる仕事をしていて、転職してきた人がほとんどです。現在は新卒を採用していません。将来的には新卒の方を採用したいと考えていますが、現状ではレース業界で経験を積んで即戦力として入っていただきたいです」


「(今のJRPが求めているのは)それほどモータースポーツに詳しくなくても、いろいろな視点でモータースポーツを見ることができて、好奇心や探究心の旺盛な人ですかね。あと、打たれ強いところも重要です(笑)」

(左から)JRP取締役 上野禎久氏、JRP 倉下明社長、全日本F3協会 水野雅男会長、全日本F3協会事務局長 田口朋典氏


 ちなみに上野取締役のお給料事情はというと、「取締役なんて大層な肩書きがついていますが、ごく一般的です。家族がなんとか暮らしていけるお給料はいただいています。高い給料を目指す人にはオススメしないかなあ、この業界は(笑)。でもやりがいはありますよ」とのことだ。


 近年では海外からスーパーフォーミュラに参戦するドライバーも増えており、その価値が認められてきているということだろう。それでも上野取締役は、今後のスーパーフォーミュラの発展のためにも、さらにシリーズの価値を上げていくことが必要だと述べた。


「スーパーフォーミュラの価値を上げるためのひとつのきっかけとして、海外の人にこのシリーズのことを知ってもらいたいです。『グランツーリスモSPORT』(プレイステーション4用ソフト)にスーパーフォーミュラが収録されているのは、700万人とも言われているこのゲームのユーザーの大半がヨーロッパの方なので、そういった人たちにスーパーフォーミュラを知ってもらいたかったというのもあります」


 最後にファンの方々にお伝えしたいこととして、上野取締役は「一度サーキットに足を運んで、生でレースを見てほしいです」と語った。


「やはり現場に来ていただいて、生の迫力に触れてほしいですね。初めてこの音やスピードを経験した人は、本当に驚きますから。フォーミュラカーはレース専用のクルマですし、速さを競うことに特化したクルマなので、モータースポーツの原点だと思います。モータースポーツのなかでも一番大切なカテゴリーではないでしょうか」


「もうひとつは、地方に行けばその先々で、地域のグルメや観光地などがありますよね。そこで旅のひとつのアイテムとしてモータースポーツを楽しんでもらうことで、楽しみ方が広がるとも思います。ぜひそうやって地域性も楽しんでいただきたいですね」


 スーパーフォーミュラの開催には欠かせないプロモーターだが、JRPについて詳しく知っている方はあまり多くないかもしれない。しかしながらどのカテゴリーであれ、プロモーターというのは、こういった組織がなければレースが開催できないほどに重要な立場なのだ。


もちろんレースを開催するにはプロモーター、オーガナイザー、そしてエントラント(参加者)による協力が不可欠だが、すべてのサーキットで一貫性を持ってレースを運営できるようにJRP関係者は陰ながらレースを支えている。


AUTOSPORT web

「プロモーター」をもっと詳しく

「プロモーター」のニュース

「プロモーター」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ