ウイスキーというお酒を知る
2025年1月29日(水)12時0分 マイナビニュース
ここ数年、世界的なウイスキーブームが続いています。とりわけ日本産ウイスキーの人気はめざましく、高騰する価格と品薄状態がしばしば話題にのぼります。そんな中、ウイスキーに興味を持ち始めた人も多いでしょう。
でも、いざ意識して飲み始めてみると奥深い世界が待っていて、「どこから入ればいいか迷ってしまう」という声もよく耳にします。そこで本特集では、ウイスキーの基礎から、より深い知識まで、5回にわたって解説していきます。第1回となる今回は、ウイスキーとは何か、その基本をご紹介します。
ウイスキーの原料は大麦やトウモロコシなどの穀物
ウイスキーをひとことで言えば、「穀物を原料にして発酵・蒸留し、樽で熟成させた蒸留酒」です。ウイスキーの表記は「イ」を小さくしたウィスキーも使われますが、酒税法上はウイスキーとなっています。英語では「whisky」もしくは「whiskey」です。原料の穀物は、大麦や小麦、トウモロコシ、ライ麦などを指します。
蒸留酒とは、原材料を発酵させて作ったアルコールを含む液体を加熱し、アルコール成分を蒸発させた後に冷却して再び液体化させたものです。このプロセスによって、原料に含まれる不純物や水分が取り除かれ、アルコール度数が高く濃縮されたお酒が得られるのです。
代表的な蒸留酒には、ウイスキーのほかにウォッカやラム、ジン、テキーラなどがあります。それぞれ原料や製造過程が異なり、もちろん風味や特性も違います。蒸留酒は長期保存に適しており、熟成を経ることでさらに豊かな味わいや香りを楽しめるのが特徴です。ちなみに、ブランデーの原料はブドウなどの果実、ラムの原料はサトウキビ由来の糖蜜やジュースです。
ウイスキーは蒸留した原酒を木樽で熟成させた「蒸留酒」
ウイスキーを製造するプロセスは、国や地域、造り手によって少しずつ異なります。たとえば材料で見ると、シングルモルトウイスキーなら大麦(モルト)100%ですし、バーボンであれば原料の半分以上にトウモロコシを使います。
原材料が果実のように糖分を含んでいればそのままアルコール発酵できるのですが、穀物の場合は一度、糖化というプロセスを経る必要があります。粉砕した原料を温水と混ぜて、でんぷんを糖に分解するのです。この液体を酵母によって発酵させ、アルコールを生成します。いわばビールのような液体を蒸留し、ウイスキーの原酒を得るのです。
蒸留方法にも違いがあります。昔ながらのポットスチルを利用した単式蒸留と、連続的に大量の蒸留を行える連続式蒸留があり、用途に応じて使い分けられています。モルトウイスキーやブランデー、テキーラなどは単式蒸留で作られ、バーボンやグレーンウイスキー、ウォッカなどは連続式蒸留で作られることが多いです。
蒸留して作られた透明なお酒は木樽に入れて、長い間熟成します。熟成に使われる樽は、おもにオーク材です。樽の内側を焼き焦がすことで、原酒に甘やかさやスモーキーな風味を与えることができます。また、樽から溶け出すリグニンやタンニンなどの成分が、ウイスキーの色合いや複雑な味わいを形成します。
長期間熟成することで、アルコールの鋭さが和らぎ、複雑な風味が引き出されます。しかし、熟成期間が長すぎると、樽の風味が強く出過ぎたり、全体のバランスが崩れたりすることもあります。最適な熟成期間を見極めることが、ウイスキー造りにとって重要なのです。
ちなみに、木樽は外気温の変化に伴って呼吸しており、ウイスキーは時間とともに蒸発します。これは「天使の分け前」と呼ばれ、年間で約2〜5%もの量が失われるとされています。実際、数十年も熟成させると半分くらいになることも珍しくありません。
熟成年数もウイスキーの種類ごとに異なります。たとえばスコッチウイスキーを名乗るには3年以上の熟成が必要ですが、バーボンは2年以上で名乗ることができます。
熟成を経た原酒をマスターブレンダーが味見をして、製品化すると決めれば、樽から出し、加水してアルコール度数を調整し、瓶詰めされます。加水せず原酒のまま瓶詰めしたウイスキーは「カスク(樽)ストレングス」と呼ばれます。
ウイスキーの名称の由来と歴史
さて、ウイスキーの歴史をさかのぼると、スコットランドとアイルランドのどちらが発祥なのか、実は明確な答えがないとされています。しかし、ゲール語の「Uisge Beatha(ウィシュケ・ビャハ=命の水)」という言葉がウイスキーの由来になっている点は共通しているようです。
蒸留技術がヨーロッパに広まり始めたころ、修道士や農民が薬用酒や保存食として扱ううちに、やがて蒸留酒が「生命を保つ水」のように大切なものとして認識されていったのでしょう。中世のヨーロッパでは医療や宗教の場面でアルコールが使われることも多く、ウイスキーも薬に近い位置付けの時代があったとされています。
また、それまでもウイスキーに税金はかけられていましたが、ある程度は緩和されたものでした。しかし1707年、スコットランドがイングランドに併合されると、麦芽税などの重税が課されることになりました。そしてウイスキーの密造が広まったのです。このとき、密造業者はシェリー樽の空き樽にウイスキーを保管したのですが、結果として熟成が進み、美味しくなることが発見されたのです。
19世紀初頭、酒税法改正によって税率が下げられ、政府公認の蒸留所がたくさん誕生することになります。やがてアイルランドやスコットランドを中心にウイスキー文化が熟成し、スコットランドの人々が「Whisky」、アイルランドやアメリカの人々が「Whiskey」と、地域ごとに微妙にスペルを変えて呼ぶようになりました。アイルランド系移民が多いアメリカではアイルランド由来の“e”が入りやすい、という歴史的背景がうかがえます。
ウイスキーは誰でも楽しめる最高のお酒
以上が、ウイスキーの原料、製造工程、歴史の簡単な紹介です。ウイスキーはなんとなくハードルが高いと感じている読者の方々もいるかもしれません。もちろん、そんなことはありません。ウイスキーはとても美味しく、気軽に楽しめるお酒です。
その奥深い味わいや香り、歴史や文化の背景に触れることで、ウイスキーは単なるお酒以上の価値を持ちます。初めてのウイスキーを飲むたびに、新たな発見があり、心を豊かにする時間が広がります。本特集がその一助になれば幸いです。
柳谷智宣 やなぎや とものり 1972年12月生まれ。1998年からITライターとして活動しており、ガジェットからエンタープライズ向けのプロダクトまで幅広い領域で執筆する。近年は、メタバース、AI領域を追いかけていたが、2022年末からは生成AIに夢中になっている。 他に、2018年からNPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立し、ネット詐欺の被害をなくすために活動中。また、お酒が趣味で2012年に原価BARを共同創業。 この著者の記事一覧はこちら