自宅でもできる! ウイスキーテイスティング入門
2025年2月2日(日)16時48分 マイナビニュース
ここ数年、世界的なウイスキーブームが続いています。とりわけ日本産ウイスキーの人気はめざましく、高騰する価格と品薄状態がしばしば話題にのぼります。そんな中、ウイスキーに興味を持ち始めた人も多いでしょう。
でも、いざ意識して飲み始めてみると奥深い世界が待っていて、「どこから入ればいいか迷ってしまう」という声もよく耳にします。そこで本特集では、ウイスキーの基礎から、より深い知識まで、5回にわたって解説していきます。今回はウイスキーのテイスティングです。初心者でも自宅でも気軽にできますので、チャレンジしてみてください。
ウイスキーは世界各地で愛されており、その味わいは銘柄や産地、熟成方法によって多種多様です。そんなウイスキーの奥深さをさらに楽しむ手段のひとつがテイスティングです。見た目や香り、味わいを意識的に確かめながら、自分の感覚を言葉にしていきます。
難しそうに思えるかもしれませんが、初心者でも楽しみながら始められます。自分なりの発見を積み重ねることで、ウイスキーへの理解が深まり、その魅力を存分に味わえるようになるのです。
特別な道具や知識は何もなくて大丈夫。始めのうちはどこから手をつけたらいいのかわからなくて当然なので、ぜひこの機会に、ウイスキーのテイスティングの世界に踏み出してみましょう。こうした経験の積み重ねこそが、ウイスキー選びの幅を広げる大きなポイントなので、ぜひ気軽に!
○テイスティングで使うグラスと飲み方
ウイスキーの香りや味の感じ方は、グラスの形状によって驚くほど変化します。おすすめしたいのは「テイスティング・グラス」です。グレンケアン・グラスやブレンダーズ・グラス、スニフターなどと呼ばれることもあります。底が広く、上部に向かって徐々にすぼんでいく特徴的な形状は、ウイスキーの香りを逃がさずに集める効果があります。
ネットで検索すれば500円〜1,000円くらいで見つかります。ISO規格に対応したテイスティンググラスであれば1,500円ほどです。香りを逃がさないためのフタ付きのグラスだと2,000円〜3,000円します。
もちろん、こうした特別なグラスがなくても、ワイングラスやロックグラスで代用することは可能です。ただし、口径が広くて飲み口が直線的なタイプや、ビールジョッキのようにガラスが肉厚なもの、そして細長いシャンパングラスのような形状は避けたほうがベターです。こうしたグラスはウイスキーが持つ繊細な香りを存分に楽しみにくい傾向があります。なるべく鼻を近づけやすい形状で、香りを集めてくれるグラスを選ぶことをおすすめします。
次に、ウイスキーの飲み方です。テイスティングの基本はストレートですが、アルコール度数の高さを強く感じる場合は、水を加えて好みの濃度に調整しても問題ありません。水を数滴落とすだけでも、香りが一気に広がったり、味わいがまろやかになったりするので、ぜひ試してみてください。ウイスキーと同量の水を合わせる「トワイスアップ」は香りを楽しむのに最適で、プロのテイスターが好む方法としても知られています。
加水に使う水は、極端にクセのあるもの以外であれば特に決まりはありません。炭酸水や硬度の高いミネラルウォーターよりは、やや軟水のほうがウイスキー本来の風味を損ないにくいです。
オン・ザ・ロック(ロック)にする場合は、氷が溶けてアルコール度数が下がるにつれて、味わいが変化する点を楽しめます。一方で、冷たさによって香りが感じにくくなるという側面も。テイスティング目的ならストレートか常温の水を加水する方法が向いていますが、あくまで「楽しむ」ことが第一なので、自分が好きなスタイルで無理なく味わうのが一番です。
まずは、自分が心地よく飲めるアルコール度数や温度を探りながら、少しずつ慣れていきましょう。ウイスキーは嗜好品である以上、「おいしい」と感じられることが何より大切です。この積み重ねが、ウイスキーの奥深さをさらに楽しむカギになるでしょう。
○テイスティングのやり方
ウイスキーのテイスティングは、あらゆる感覚を動員してその魅力を探る行為です。最初のステップは、グラスに注いだウイスキーの色を観察すること。黄金色から深い琥珀色、あるいは濃い褐色に近いものまで、色調は熟成樽の種類や熟成年数によって大きく変わります。
続いて、軽くグラスを回す「スワリング」をしましょう。ウイスキーを激しく振る必要はありませんが、静かに揺らして香りを立ち上らせることで、次の「ノージング」で感じ取れる情報量が増えていきます。ちなみに、グラスを回す方向は、右手であれば反時計回り、左手であれば時計回りです。要は内側に回すことで、万一ウイスキーが飛び出した時にも自分側にこぼれるようにするためです。
ノージングでは、グラスに鼻を近づけてゆっくりと香りを嗅ぎ、「甘い」「フルーティー」「スモーキー」など、第一印象としてどんな香りが感じられるかを意識してみてください。プロのような専門用語を使う必要はなく、「焼き菓子っぽい」「少し焦げたような香り」など、自分の感覚で話せばOKです。本当に何を言ってもいいのです。個人的な感想でも、ネガティブなものでも大丈夫。ワインのテイスティングでは「猫のおしっこ(pipi de chat)」と表現されることもあるのです。
グラスの内壁に残る液体の跡も見てみましょう。グラスの内側を伝って液体がどのように流れ落ちるかを観察すると、ウイスキーの特性を把握できます。脚がゆっくりと落ちる場合は、アルコール度数が高かったり、オイリーで重厚な特徴を持つ可能性が高くなります。すぐに落ちる場合は、さらっとした印象であることが多いです。
実際に口に含む段階では、少量を舌全体に転がすようにして味わいを確かめます。甘み、苦み、渋みなど、どの部分が強く感じられるかも面白いポイントです。ここでは、鼻から抜ける香りにも注目してみましょう。ノージングで受けたイメージとは異なる印象を感じることもあり、思わぬギャップがテイスティングの醍醐味にもなります。
最後に、飲み込んだ後に残る「余韻(フィニッシュ)」を堪能しましょう。後味に残る甘さや苦み、スモーキーさがどれくらい続くのか、あるいは一瞬で消えるのかなど、人によって感じ方はさまざまです。余韻が長いと複雑で奥深いウイスキーだという印象を持つ人が多い一方で、すっきりとしたキレの良さを好む人もいるため、一概にどれが優れているとは言えません。自分にとって心地よい後味を見つけるのも楽しみのひとつです。
慣れないうちは専門用語に縛られず、感じたままを表現することが上達の近道です。「フルーツのジャムみたい」「ほんのり薬草っぽい」など、ピンときた言葉でいいのです。テイスティングノートをつけると銘柄ごとの特徴を比較でき、回を重ねるうちに「これは前に飲んだあのウイスキーに似ているかも」といった発見もしやすくなります。備忘録的にSNSに投稿するのもいいですし、メモアプリにマイデータベースを作るのもいいでしょう。
大切なのは、五感をフルに使ってウイスキーを楽しむこと。難しく考えずに、自分が得た印象を素直に受け止めることで、ウイスキーの世界をより深く味わう一歩となるでしょう。
○公式テイスティングコメントから定番表現を学ぶ
ウイスキーの公式テイスティングコメントには、しばしばプロならではの独特な言い回しや専門用語が登場します。たとえば、バニラやキャラメルの甘みとか、熟したトロピカルフルーツの香り、トフィーやナッツのニュアンスといった、具体的で多彩なフレーバーの描写が盛り込まれています。
こうした表現は、一見すると専門用語ばかりに思えますが、基本的には実際に感じた味や香りを、比喩や具体例を用いて表現することがベースになっています。経験を積んだテイスターであれば、熟成に使われた樽の種類や産地を把握することで、より的確なフレーバーをイメージしやすいのは確かです。しかし、「これってレーズンやプラムみたい」「焚き火のような香りがする」と感じるなら、そのまま素直に表現すればいいのです。ウイスキーに正解や不正解はなく、自分がどう感じ取ったかこそが重要だからです。
公式テイスティングコメントでは、時間経過による味わいの変化やフレーバーの移り変わりも細かく記載されることが少なくありません。たとえば最初の口当たりは甘く、途中で酸味が顔を出し、最後にウッディな苦みが残る——といった具合です。こうした時系列での表現は、ウイスキーをこれから飲む人に味や香りがどのように展開していくかをイメージさせる手がかりとなります。
初心者が公式コメントを読むと、こんなに複雑な香りを自分には感じ取れないと思うかもしれませんが、香りや味覚は経験によって少しずつ研ぎ澄まされていくもの。最初からコメントと同じように感じられなくても、まったく問題はありません。むしろ、公式コメントをヒントにしながら自分の感覚との違いを知ることで、新たな発見も多いのです。
「オフィシャルには青リンゴと書いてあるけど、自分には洋ナシのように感じる」という場合、そこにこそ自分ならではの感覚が宿っています。ほかの人と飲み比べながら意見を交わすのもおすすめです。お互いの印象を照らし合わせると、思いもよらない発見や新しい視点を得ることができるでしょう。こうした試行錯誤を積み重ねるうちに、自分ならではの味覚表現が身につき、テイスティングがますます楽しくなるはずです。
○ウイスキーは気分や状況に合わせて色々なスタイルで楽しめる
ここまでテイスティングの基本を中心にご紹介してきましたが、ウイスキーの楽しみ方はそれだけではありません。気分やシチュエーションに応じて、さまざまなスタイルで堪能できます。普段の食事やリラックスタイムに取り入れやすいのは、ロックやハイボール、水割りといった飲み方です。
「ロック」は、大きめの氷をグラスに入れ、その上からウイスキーを注ぐだけのシンプルなスタイル。氷が溶けるにつれ、少しずつアルコール度数が下がり、香りや味わいの変化を段階的に楽しむことができます。冷たさによる喉ごしの良さも手伝って、ストレートでは強く感じられがちなアルコール感を和らげてくれます。
水を加える「水割り」は、日本独自の文化として定着している面もあります。ウイスキーと水を混ぜ合わせることで、アルコールの刺激がやわらぎ、香りがほどよく広がるのが魅力です。食事と一緒に楽しむときも、マイルドな風味が料理とケンカしにくいため、和食のみならず洋食や中華と合わせるケースも珍しくありません。
ウイスキーを炭酸で割った「ハイボール」は、近年大きな人気を集めています。ソーダの爽快感がウイスキーに加わることで、のど越しが一段と軽やかになり、食事の席でも気軽に楽しめることが大きな利点です。
さらに、ハイボールにほんの少しだけストレートのウイスキーをフロートさせると、上層と下層で異なる香りや味わいが楽しめるという面白いアレンジも。誰でも簡単に試せるため、ちょっとしたパーティーや宅飲みでも盛り上がること間違いありません。
これらの飲み方は、テイスティングのように香りや味を丹念に分析するというより、気軽にウイスキーを楽しむスタンス。どのスタイルを取ってもウイスキーの個性が損なわれることはなく、ロックで甘みが際立つ銘柄もあれば、水割りでフルーティーな印象が強まるもの、ハイボールでスモーキーさがアクセントになるタイプなど、飲み方によって表情が変わることもウイスキーの面白さなのです。
ここまでご紹介してきたように、ウイスキーはテイスティングによって香りや味をじっくり探る楽しみがある一方、ロックや水割り、ハイボールなど多彩なスタイルで気軽に楽しめる懐の深いお酒です。ぜひ多種多様な銘柄や飲み方を試して、自分なりのペースでウイスキーの世界を広げてみてください。時間をかけてゆっくりと深めていけば、きっとお気に入りの一杯に出会えるはず。気負わずカジュアルに楽しむ姿勢こそが、ウイスキーをより豊かに味わう秘訣なのです。
柳谷智宣 やなぎや とものり 1972年12月生まれ。1998年からITライターとして活動しており、ガジェットからエンタープライズ向けのプロダクトまで幅広い領域で執筆する。近年は、メタバース、AI領域を追いかけていたが、2022年末からは生成AIに夢中になっている。 他に、2018年からNPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立し、ネット詐欺の被害をなくすために活動中。また、お酒が趣味で2012年に原価BARを共同創業。 この著者の記事一覧はこちら