寝たきりや認知症を予防したければ鍛えるべきは「顎」と「舌」?40歳代でも既に約4割の人の口腔機能が低下していて…歯科医が教える<セルフチェックとトレーニング>

2025年2月25日(火)14時2分 婦人公論.jp


(イラスト:stock.adobe.com)

加齢により心身が衰えた状況を指す「フレイル」。24年8月の筑波大学による報道発表では、フレイル対策として有効な運動として「登山・ハイキング」「散歩・ウォーキング」「テニス」「グラウンド・ゴルフ」「筋トレ」などが挙げられています。しかし、項目として入っていないながら、「これから迎える高齢化社会では<顎トレ><舌トレ>こそ全ての年配の方に行ってもらいたい」と幸町歯科口腔外科医院・宮本日出医院長は主張します。なぜ顎や舌を鍛えなければならないのでしょうか? 宮本院長に解説いただきました。

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40歳以降から始まる心身の衰え


体力が著しく衰える時期には2段階あり、20歳以降と50歳以降とされています。

20歳以降は体力が少しずつ衰えはするものの筋肉量は40歳付近まで維持できます。

しかし40歳以降になると動作や視力の身体的機能が衰え、さらに50歳以降は体力と筋力の両方が急激に低下します。60歳以降になると明らかな老化現象が始まり、生活に支障が出るように…。

このように心身が衰え、健康な状態から介護状態になるまでの期間を「フレイル」と言い、超高齢社会で健康長寿を目指す我が国では注目のキーワードです。

体力・筋力を維持して自立した生活を長期間過ごせる社会をめざし、国策としてフレイル対策に取り組んでいます。

「顎の衰え」がなぜ命に関わるのか


実は、全身が衰えるフレイルの前兆は口周りに現れることが多いとされており、これを「オーラルフレイル」と言います。

お口の機能(口腔機能)には「食べる(咀嚼)」「飲み込む(嚥下)」「話す(会話)」などがあり、中でも嚥下機能が衰えると口の中のものが誤って肺に入る「誤嚥」の原因に。誤嚥は、高齢者死因第3位の「誤嚥性肺炎」につながります。

誤嚥の原因は、喉にある弁を操作する筋肉が衰えることです。

通常、弁は空いたままなので鼻から吸った空気は喉を通過し肺へと流れ込みます。そして口に食べ物・飲み物を入れて飲み込む際には弁が働き肺への経路を塞ぐことで、飲み込んだ物は胃へと流れていきます。

この弁をコントロールしている筋肉を「舌骨上筋群」と言い、舌の奥から喉の骨(舌骨)付近、要するに下顎から喉にかけてあります。つまり顎にある筋肉が衰えると弁が作動しなくなり、誤嚥→肺炎となり、命が危険にさらされる結果となるのです。

「顎」「舌」を鍛えることで、寝たきりや認知症を予防できる?


嚥下の要となる「舌骨上筋群」は、顎の内側の片側4種類の細い筋肉で構成されています。そしてこれらの筋肉を鍛える、ということは、つまり「舌」や「顎」を使うことになります。

オーラルフレイルは口腔機能の衰えと書きましたが、その状態により「口腔機能低下症」という病名で扱われます。2018年に厚労省により疾患指定された比較的新しい病気なので、聞き慣れない人が多いかもしれません。

ただ、病気ですから治療は必要ですし、治療しなければ悪化します。口腔機能低下症が発症し、治療をしなかった場合、発症していない場合と比べ、2年後に全身が衰えるフレイルになるリスクが2.4倍に。更に進行した場合、要介護状態になるリスクも2.4倍と、寝たきりのリスクがグッと上がることが分かっています。

そして4年後には死亡リスクが2.1倍にもなるので、命を危険にさらす可能性のある病気だと言えるでしょう。

口腔機能が低下しても、対策を行い治療すれば口腔機能は正常に戻ります。つまり進行してフレイルや寝たきり状態になる危険性を減らすことができるということです。その対策として挙げられるのが「顎トレ」「舌トレ」なのです。

噛むことは脳への刺激にもなり、認知症の予防になることが知られています。ところが口腔機能が低下すると噛む力(咀嚼力)も弱まってしまいます。つまり口腔機能を正常化して咀嚼力を回復させれば、しっかり噛めるようになって認知症対策にもなるということです。

また、口腔機能が低下している人は、口の中の環境も悪くなるため、歯周病を併発していることが多い。そして最近の研究で、歯周病菌はアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβを誘導することがわかっています。

あなたの顎・舌は大丈夫?セルフチェックのススメ


口腔機能が低下しているかどうか、その状態を確認する方法として、「オーラルフレイル・セルフチェック法」(例:埼玉県歯科医師会HP:https://www.saitamada.or.jp/go8020/tool_senior/)を用いるのが一般的です。

なおこのチェック方法は簡便なのですが、本人の主観的な要因が多く入るために、診断精度は必ずしも高いとは言い切れません。

たとえば「むせ」に関する質問事項がありますが、以前からむせる体質であったとしても、本人は「以前と同じだから」との理由でチェックしない可能性があります。ですので、歯科医院に行って専門的に検査を行う方が診断精度は高いと言えるでしょう。

なお歯科医院での検査項目は、おおよそ以下になります。

(1)お口の衛生状態
(2)お口の乾燥状態
(3)咀嚼力
(4)お口の運動機能
(5)舌の力
(6)咀嚼状況
(7)嚥下状況

これら7項目のうち、3項目以上引っかかると「口腔機能低下症」と診断されます。

経験的には「(5)舌の力」に該当するか否かが診断の分かれ目になることが多く、舌の力を測定して基準値未満の場合はほぼ低下症に該当します。

そしてこの舌の力こそが、嚥下機能のバロメーターになり、基準値より低いと嚥下障害の可能性が高くなります。

口腔機能の衰えを自覚するのは難しい


日本老年歯科医学会によると、口腔機能が低下している割合は年代別で、40歳代36%、50歳代48%、60歳代62%、70歳代83%となっています。

つまり、筋力が衰え始める40歳代では既に約4割の人の口腔機能が低下しており、50歳代では2人に1人、70歳代になると既に8割以上の人が低下していることになります。

しかし、そのほとんどの方は、ご自身の口腔機能の低下に自覚がありません。

全国に先駆けて口腔機能対策事業に取り組んでいる志木市(埼玉県)では、口腔機能が低下した市民を対象に口腔機能測定会・指導会・講演会を行なってきました。著者がその測定会で行った「口腔機能(特に飲み込み)に悩みがありますか?」の質問には、実に93%の人が「ない」と回答していました。

この数字だけを見ても、「口腔機能の低下を自覚するのはとても難しい」ということがわかるでしょう。


(イラスト:stock.adobe.com)

だからこそ、顎や舌のトレーニングを習慣化し、継続することは、健康作りの基礎となります。以下に簡単なトレーニング方法をご紹介します。

家庭でできる「顎と舌」のトレーニング


ーー顎トレ<ゴムボール・筋トレ>ーー

●手順

(1) 直径10cm程度の段力のあるゴムボール(無ければタオルを顎に挟める大きさに丸める)を顎と鎖骨の間に挟む 
(2)息を吐きながらボールを押し5秒間キープ

●ポイント

(1) 1セット10回を1日3セット行うと効果的。
(2) 息を吐く時は鼻から息を吐いたほうが効果的(鼻呼吸できない場合は口から息を吐いても良いです)。

●注意事項

(1) 息を止めて行うとふらつきの原因になるので、必ず息を吐きながら行う。
(2) 首に痛みを感じる時は行わない。

ーー舌トレ<舌回し>ーー

●手順

(1)舌を唇の裏に入れる
(2) 時計回り・反時計回りに舌を回す

●ポイント

(1) 1セット5周×2方向を1日3セット行う。
(2)ゆっくり・大きく舌を回す。
(3)舌先で唇や頬を押すようにする。

以上となります。

口腔機能は日常生活を送っているだけでは機能が向上しません。だからこそ、積極的に「顎トレ」「舌トレ」を習慣化して続けていきたいですね。

婦人公論.jp

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