山形・長井市で自動運転バスの実証実験を実施「雪に対する課題などを解決し本導入に向けて努めたい」 - 長井市・公共交通担当にインタビュー

2025年3月4日(火)10時0分 マイナビニュース


山形県南西部に位置し、飯豊朝日連峰の雄大な山々や最上川をはじめとする豊かな水など、自然豊かな長井市。市街地のある市東部は盆地となっており、雪も多い地域となっている。
そんな長井市で、自治体とNTT東日本などによる自動運転バスの実証実験が実施された。市内にある「遊びと学びの交流施設 くるんと」「長井駅」「道の駅川のみなと長井」「長井市民文化会館」を巡回するルートで2024年12月から翌年1月にかけて一般運行を行い、実際に市街地で自動運転が可能かどうか、遠隔監視が可能か、降雪への対応はできるのかなど、さまざまな検証が行われた。
そこで今回は、長井市地域づくり推進課 公共交通ネットワーク推進室 佐藤孝一朗 係長に、実証実験の手ごたえや今後の課題などについて、話を聞いた。
○■循環線の導入で市内公共交通を使いやすく
——佐藤さんは、具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか。
佐藤さん:「地域づくり推進課の公共交通ネットワーク推進室で、公共交通を7年ほど担当しています。長井市の公共交通は大きく3つに分けられまして、幹線となる山形鉄道フラワー長井線と山形市から繋がっている山交バス、加えて市営バスとなっています。当初は鉄道の担当だったのですが、ここ2年ほどはバスを担当するようにもなりました。利用者の方の意見を聞いてバスの時刻表や路線を改正したり、長井線ではさまざまなイベントを企画したりしています」
——先日、長井市では自動運転バスの実証実験が行われたとお聞きしました。どのような経緯で実験をすることになったのでしょうか。
佐藤さん:「長井市は70年ほど前に、1町5村が合併してできた市です。そのため、市街の構成としても旧町村の中心街ごとにブロックが分かれているような形になっています。市バスは旧町村の周辺部から市の中心部にアクセスできるようなルートを取っていますが、各周辺部から中心街をぐるっと巡回して、また周辺部へと戻るルート構成になっているため、どうしても走行距離が長くなってしまうんです。行きたい場所はすぐそこなのに、遠回りして長く乗車しなければならなかったんですね。
そこで、中心街にひとつ循環線をつくり、その循環線に5つの周辺部からアクセスできるような大規模な路線改正をイメージしていたところ、自動運転というトピックが上がってきました。
近年はバス運転手の人手不足という問題もありますし、増便になるような大規模な改正には、なかなか着手できないというところもありました。自動運転はそういった課題の解決につながるのではないかと考え、実証実験に参加することを決めました」
——市バスはどのような方が利用されているのでしょうか。
佐藤さん:「高校生などの学生が通学で使ってくださっているところはありますが、メインとなるのはやはり、車を運転しなくなった高齢者の方。免許を返納されている方は市内でも年間100人ほどはいらっしゃるので、今後どんどん需要は高まってくるものと考えています」
○■自動運転で得られるメリット
——自動運転を含めた循環線を導入することで、利便性としてどのくらい改善が見込めると考えていらっしゃるのでしょうか。
佐藤さん:「周辺部から中心街へ向かう市バスは現在、2時間から1時間半に1本程度ですが、バスの本数も増やしつつ、定量的な最終目標としては、30分に1本ぐらいにできればと考えています」
——自動運転の導入にあたって、長井市に得られるメリットはどのようなものだと考えましたか。
佐藤さん:「令和5年8月、長井駅・市役所のすぐ近くに遊び場や広場、図書館、カフェなどを備えた遊びと学びの交流施設「くるんと」が完成しておりまして、この一帯を市の中心エリアとして活性化していきたいと思っています。自動運転は、その活性化の起爆剤のひとつになるのではないかと考えています」
○■長井市ならではの課題も
——逆に、事前に考えていた懸念点などはありましたか。
佐藤さん:「やはり長井市は雪が多い地域ですので、雪に対して自動運転でどこまで対応できるのかは気になりましたね。
また山形鉄道フラワー長井線は第三セクター事業で、市役所は長井駅に併設される形で令和3年に新しくなっています。市の基軸となるフラワー長井線との関わりも重要な点だと考えました。ただ市としてもフラワー長井線とはこれまでいろいろな支援などをしてきた関係性がありますので、特徴的な取り組みができる可能性も感じています。
正直なところ、まだ全国的な事例もない状態でしたので、今回の実証実験をやってみて、ディスカッションしたうえで次年度以降の検討事項を出していきたいという部分はありましたね」
——実際に実証実験を行ってみていかがでしたか。
佐藤さん:「自動運転についてごく簡単に説明すると、人工衛星からの信号を受信して自車両の位置を確認しながら道路の決められたルートを走行します。障害物があった場合にはライダーセンサーという特殊なセンサーやカメラなどを活用して停車するような仕組みになっていまして、これ以外にもさまざまな技術を活用して安全性を高めています。
実は、雪が降っている中での実証はあまりデータが無かったので、大雪になったら中止しましょう、といったことは事前に話していたんですが、都会の方の”大雪”と私たちにとっての”大雪”の感覚が結構違っていまして……。雪で走れなくなってしまう理由のひとつが、ライダーセンサーです。雪を障害物だと認識してしまって、動いてはすぐ止まる、を繰り返してしまって運行できなくなってしまう。結構な急ブレーキになってしまうので、乗車している方も危険なんです。この辺りは実証実験をしてみて実感した課題ですね」
○■自動と手動のハイブリッド運転も視野に
——降雪の多い地域では、非常に大きな課題かと思います。実験の中で何か解決策はみつけられたのでしょうか。
佐藤さん:「降雪を障害物と誤認してしまうのは、走り出しなどの低速で走行しているときに起こりやすいんです。ある程度のスピードを出すと、降雪に対しては感知するまえに通過しなくなります。時速20㎞以上になってくると誤認がなくなるので、走り始めだけは手動介入して、運転手がアクセルを踏むようにしました。
全ルートのうちの自動運転化率は下がってしまうんですが、やはり利用してくださる方の満足度を高めていかないと、なかなか社会に受け入れていただけないだろうと考えていたので、難しいところではありましたが、安全への配慮をしながら進めていきました」
——実証実験を終えてみて、どのような手ごたえを持たれていますか。
佐藤さん:「現時点では、やっとレベル2といった感触です。
雪に関しては降雪の誤認以外にもまだ課題があります。今回、実証実験で走行したルートは地下水をくみ上げて流す消雪を行っている道路でした。一部、消雪していない道路があって、そういう場所は除雪しているところを走行します。しかしながら、除雪してあっても一部に雪の塊が残ってしまうんですね。そうした場合には、やはり手動介入が必要でした。
道の駅もルートに組み込んだんですが、そこも駐車場の除雪の関係で、除雪した雪の山がちょうどルートになってしまっていて、そこも運転手の介入が必要になりました。除雪した雪の場所までは私も調整しきれていなかったところだったので、今後はそういった部分も考えていかなければならないですね」
——自動運転にはターゲットラインペイント(走行ルートの道路に特殊塗料で舗装し、ペイントを認識して自動走行を行う仕組み)も採用されていますが、こちらも雪の影響は少なくないように思いますがいかがでしたか。
佐藤さん:「自動運転車両は、ターゲットラインペイント以外にも人工衛星やマップマッチング(あらかじめ作成した3D地図データとの誤差を参照しながら最適な走行を図る仕組み)など、いろいろな技術を複合して走行しています。そのため、ターゲットラインペイントが使えなくなった場合も、他の系統の技術で補完して安全な走行ができるようになっています。今回は消雪道路にマーカーを引いたので、積雪でペイントが見えなくなるようなことはありませんでした」
○■長井で見えてきた課題を共有し自動運転の普及に努めたい
——利用された方の反響はいかがでしたか。
佐藤さん:「まだ市民のみなさまのお声をまとめている途中ではあるのですが、手触りとしては9割くらいの方は『安心して利用できた』と感じていらっしゃる印象です。実際に乗る前は不安を感じていたところもあったようですが、乗ってみたらスムーズだし、安心に変わったというお声をいただいています。
市民のみなさんの理解、特に運転者の方にご理解いただくことは非常に重要です。やはり自動運転バスは、人が運転するバスよりも運行速度はゆっくりになりますし、カーブなども慎重に曲がります。そういった特性を運転者の方にご理解いただく必要があるんですね。街中で教習車を見かけると、ちょっと温かい目で見守るような感覚ってあると思うんですけど、それに近い形で自動運転バスを見守っていただけるように認知を広めていきたいです。
一緒に道路を共有して走るわけですから、自動運転について広く知っていただけるようにしていかなければと考えています。
また、県内でも実証実験を行っているところは無かったので、自治体関係者の方にもたくさん来ていただきました。まずは長井市での導入を成功させて、ゆくゆくは私たちの事例で浮かんで来た課題や新たな技術を共有して、周辺自治体などへの横展開ができればいいですね。運転手不足や高齢化といった課題は県内で共通しているところなので、私たちが実験台として、包み隠さずに情報発信を行って、雪国ならではの課題解決に繋げていきたいです」
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今回の自動運転だけでなく、地方の公共交通の利便性も向上させていきたいと話す佐藤さん。降雪という、地域特有の課題もありながら市民の生活の質を第一に考えている姿が印象的だった。
宮崎新之 宮崎 新之(みやざき よしゆき) 大学卒業後に勤めていた某職から転職し、編集プロダクションへ。ライブや演劇などを中心としたフリーのチケット情報誌の編集者となる。その後、編集プロダクションを辞めて大手出版社の隔週情報誌編集部に所属、映画ページを担当。2010年よりフリーランスに。映画をメインにエンタメ系の編集ライターとして、インタビューや作品レビューなどで活動中。 著者webサイト ◆これまでの仕事歴 LAWSONTICKET with Loppi(ローソンチケット) / TOKYO★1週間、KANSAI★1週間(講談社) / ケーブルテレビマガジン(JCN) / web★1週間(講談社) / マイナビニュース(マイナビ) / SPA!(扶桑社) / TVぴあ(ウィルメディア) など この著者の記事一覧はこちら

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