樋口恵子「89歳で乳がんの手術をして。当分再発はないと言われて安心しつつ、我に返って<いつまでも生きちゃったらどうしよう>と」荻原博子×樋口恵子対談
2024年3月18日(月)12時30分 婦人公論.jp
評論家の樋口恵子さん(右)と経済ジャーナリストの荻原博子さん(左)(撮影:宮崎貢司)
老後の気がかりはあれこれ尽きぬもの。そんななかで「どう機嫌よく生きるか」を説いた新刊『老いの上機嫌』が話題の樋口恵子さん。お金の不安を和らげる発信を続けている荻原博子さんと、人生後半を機嫌よく生きるコツについて語り合いました(構成:篠藤ゆり 撮影:宮崎貢司)
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ちょっとしたことでも気分が上がる
荻原 お久しぶりです。お元気そうですね。
樋口 いえいえ、足腰の〈ヨタヘロ〉も進みまして。先日も、講演の壇上で杖を使わずにヨタヨタヘロヘロ歩いて、会場の皆さんの同情を買ったばかりです(笑)。私なりに〈老い方〉の一例を披露している次第です。
荻原 ずっと現役で活躍なさっているのですから素晴らしい!
樋口 最近は、理事長を務める「高齢社会をよくする女性の会」の活動や「ここぞ」というときにはがんばって外出して、「介護保険の改悪は許さない!」などと気炎を吐いていますけど、一人で出歩くことはしなくなり、ふだんは家にこもりがちです。でも今日は荻原さんにお会いできるのがうれしくて、お化粧をしてアクセサリーなんぞもつけてみました。
荻原 おしゃれは大事ですよね。気分が上がりますから。
樋口 私は91歳ですが、長く生きていると、昔買ったアクセサリーやスカーフがそれなりに溜まるでしょう。どなたかと会うとき、あれにしようか、これをつけようかと考えると、楽しくなります。荻原さんも、鮮やかなピンクのきれ〜いなジャケットがよくお似合いだわ。
「意識して口角を上げて、日々の暮らしのなかで小さな喜びを見つけるようにしていると、自然と機嫌がよくなります。これは、最近の発見です」(樋口さん)
荻原 明るい色を身につけると、自然とウキウキしてくるんです。そういえばうちの母はいま97歳なんですけれど——。
樋口 どこにお住まいですか?
荻原 長野県の高齢者施設に入所しています。母とは毎日、時間を決めてビデオ通話を通じて話をしているんです。
樋口 それはいいことですねぇ。
荻原 そのとき、母は必ずおしゃれをしてパソコンの前に座るんですよ。「お母さん、口紅つけてる?」と聞くと、「ちょっとね」という感じで。
樋口 やっぱり「出の衣装」は大事ですね。
荻原 出の衣装! いい表現ですね。母はもともとおしゃれだったから、身だしなみを整えて口紅をつけて人と話すのが楽しみのようです。
樋口 それがお母さまの、ご機嫌の秘訣なんでしょうね。
荻原 そうだと思います。
樋口 私は89歳のとき、乳がんの手術をしまして。当分再発はないだろうと言われて安心しましたが、我に返って「いつまでも生きちゃったらどうしよう」と——。
荻原 回復されてよかったです。長生きは、いいことじゃないですか! せっかく生まれてきたのだから、私は100年といわず、いつまでも生きたいと思っています。
樋口 さすがのバイタリティですね。でも、私の老いの実感からするとヨタヘロで足元もおぼつかないし、この先のお金のことも心配。友人知人が次第に去っていくし、寂しくないといえば嘘になります。
荻原 まぁ、樋口さんらしくもない!
樋口 やっぱり、実際にその年齢にならないとわからないことがあるものだ、と最近は謙虚になりました。でも、だからこそみなさんに、「楽しげに生きよう」と発破をかけているんです。意識して口角を上げて、日々の暮らしのなかで小さな喜びを見つけるようにしていると、自然と機嫌がよくなります。これは、最近の発見です。
荻原 「楽しげに生きる」。素敵な言葉ですね。
老後の不安対策!節約もゲーム感覚で
樋口 いつになっても老後のご機嫌を損なう2大不安は、やはりお金と健康の問題でしょう。私は以前から女性の就労や年金問題に着目し、将来「貧乏ばあさん」にならないように備えようと提唱してきましたが、現実は厳しい。
「老後は不安、楽しくない」という方もいらっしゃいます。今日は、経済に明るい荻原さんに、この物価高時代にご機嫌でいるコツをぜひおうかがいしたいのです。
荻原 物価や税金は上がり、給料や年金は減らされている。家計は本当に疲弊していて、「節約疲れ」は当然です。そこで私は、節約も楽しく感じるように工夫しています。たとえば食材を買うとき。冬はダイコンが旬だから、必ず葉っぱつきを選びます。そうすれば、ほうれん草などの菜っ葉類を買う分のお金が浮きますから。
樋口 ダイコンの葉は、すごく栄養があるそうですね。
荻原 そうなんです。さっと茹でて刻み、ご飯に混ぜて菜飯にするととってもおいしいし、炒めて鰹節を入れて炒り菜にしたり。私は食べることが好きなので、ダイコンの上のほうは鶏肉と煮ようかな、この部分は何にしようとか、いろいろ考えると楽しくなってくるんです。
樋口 私も最近は料理をしなくなりましたが、以前は節約メニューを考えつくと、「やったぁ!」と得意満面でした。
荻原 1回のお買い物の予算を、たとえば1000円と決め、どうすれば安く買えるか考える。もし156円浮いたら、それを広口の瓶に入れるんです。チャリンと入れたコインが貯まってくると、「おぉ、けっこう努力してるな」とうれしくなります。
樋口 なるほど。瓶に入れて「見える化」するのが大事なのね。
荻原 そうそう。小銭で瓶がいっぱいになったら自分へのご褒美としておいしいものを食べに行く、とか。ゲーム感覚ですると節約が楽しくなりますよ。
「猫はいいですよ〜。ヨタヘロ期になると、犬の散歩は難しいけれど、猫は散歩の必要がないので」(樋口さん)
樋口 なんでも、荻原さんは節約と健康を両立させているとか。
荻原 今でも太りぎみですが、一時期すごく体重が増えてしまい、右足がズーンと痛くなって。血圧も高く、検査するとあれこれ数値がよろしくない。病院に行ったら坐骨神経痛との診断で、「あなたの場合は太りすぎ。5キロ痩せたら1年寿命が延びる」とアドバイスされたんです。
樋口 ほぉ。
荻原 私は今69歳で、国民年金を少し遅らせて70歳から受給する予定です。私の年額は約100万円。死んだら支給は終わりですが、1年寿命が延びればその1年分の100万円がもらえるということ。不健康だと医療費や介護費用が高額になりがちだし、寿命次第でもらえる年金が減ってしまうならば、よし、ダイエットをがんばろうと。
樋口 それはいいアイデア。目の前にニンジンをぶら下げるわけね。5キロで100万とは!
荻原 それ以上の価値があると思いますよ。痩せたおかげで医療費も抑えられ、サイズが合わなくなった服が着られるように(笑)。私、毎日晩酌していましたが、お酒好きの女友達が「お酒をやめたら背中に羽が生えてきた」と言うんです。「嘘だろう」と思ったけれど、試しに禁酒してみたら本当に身体が軽くなった。
今でも会食ではちょっと飲みますけど、晩酌はやめました。人間ドックを受けたら、あらゆる数値がよくなっていたんです。
樋口 お酒をやめるだけで、5キロ痩せられたの?
荻原 飲むとついいろいろつまんでしまうので、それをやめるだけで効果がありましたね。さらに、酒とつまみで1日500円として、1ヵ月で1万5000円、1年で18万円が節約できる。これは大きい。「体重を減らせば貯金が増える」と気づいたんです。心身も若返り、確実に家計の助けになります。健康維持も、楽しい老後の秘訣ですよ。
樋口 一石二鳥どころか一石三鳥ね。運動は何かしてらっしゃる?
荻原 犬を2匹飼っているので、朝と晩、必ず散歩に連れていかなくちゃいけない。それも、健康維持に役立っているみたいです。
樋口 うちは猫が4匹います。猫はいいですよ〜。ヨタヘロ期になると、犬の散歩は難しいけれど、猫は散歩の必要がないので。夜寝る時も必ずそばに来てくれるし、「猫なで声」で話しかけてなでているだけで、自然と口角が上がります。甘えて甘噛みなんてされると、ウヒョヒョッ、てなもんで。(笑)
荻原 家に生き物がいると、自然と笑顔になりますよね。
<後編につづく>
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