2024年の中学入試は「弱気受験」だったというが…受験者増の人気校に見る、中受親の変化

2024年3月23日(土)21時15分 All About

2024年の中学入試は、受験者数が少し減ったものの受験率は過去最高に。もはや中学受験はブームではなく、選択肢の1つとして定着し始めているのかもしれません。そこで見えてきたのは、ゴールを何におくかという保護者の価値観の変化です。

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2024年の中学入試が終わり、合格を果たして入学式を待つだけという皆さん、おめでとうございます。中には、思うような結果が出せず、心に痛みを感じている人もいるかもしれません。しかし、中学入試は通過点に過ぎず、振り返ればその痛みも「あれがあったから今がある」と感じられる日が来ます。ぜひ前を向いてお子さんの新生活を応援してほしいと思います。
さて、塾、専門家の分析結果もほぼ出そろったところで、まず全体を振り返ってみることにしましょう。

受験者数は微減、しかし受験率は過去最高に

2024年の首都圏の受験者数は、前年より200人減らし5万2400人でした。東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県の小学6年生の人口が約5300人減少することもあり、これまで9年連続で増加を続けてきた中学入試の受験者数も、さすがに減るのではと言われてはいましたが、減少幅は予想より少なかっただけでなく、受験率は18.1%と過去最高となりました。(受験者数、受験率は首都圏模試センター調べ)
小学生の子どもの数は減っているのに、受験率は増加。もしかすると、首都圏においては、もはや中学受験はブームではなく、選択肢の1つとして定着し始めているのかもしれません。
この傾向について専門家の間で言われているのは、受験生を持つ保護者の価値観の変化と入試の多様化による裾野の広がりです。
実際、2024年の入試では、偏差値上位校よりも、偏差値中位校から下の層の学校で受験者数の増加が目立ちました。それを「弱気受験」と呼ぶ記事もありますが、筆者は必ずしもそうではないのではと思っています。その理由として、最近は中学受験のスタイルも多様化しているからです。
そのスタイルとは、主に以下の3つです。
1. 従来通り小学4年生からしっかり進学塾に通って4科受験で難関校を目指す層
2. 塾には通っているが、偏差値重視ではなくわが子にあった学校を選びたいという層
3. 公立中高一貫校との併願や新タイプ入試を活用して中学受験をする。志望校に行けなかったら公立でいいと割り切っているライトな受験をする層
首都圏模試センターの北一成 教育研究所長も、昨今の中学受験者数を押し上げているボリュームゾーンは2で、3も増えていると言います。そんな動向を反映して、中堅校と言われる学校の受験者数が増えているのではないでしょうか。
15年前のピーク時は4科入試がほとんどだったのと違い、入試自体が多様化し、2科目あるいは得意科目1科目だけでも挑戦できる入試、英語入試、作文と面接、プレゼンやワークショップ型など教科学習以外の能力を測る入試もあります。そうした動きとともに、受験生を持つ保護者の思考も変わってきているのです。

「仕方ないから偏差値下げる」は学校にも失礼

筆者の周りでも、初めから2の考え方をする人が多くなっている印象ですが、中には1でやり始めたけれど、塾の課題をこなせずに途中で個別指導塾などに転塾し、4科目から2科目に減らして、入れそうな学校を選ぶというパターンも多いです。
そういう人の中には、途中でさまざまな葛藤があったのでしょうが、「仕方なく偏差値を下げた」という言い方をする人が多いのが気になります。筆者はそういう言い方は、お子さんにも合格をくださった学校にもとても失礼なことだと思うからです。
同じ受験をするなら、お子さんがどれだけ頑張ったか、そのプロセスを見てあげてほしいし、受験する学校をリスペクトする気持ちを持ってほしいと思います。だって、入学したら6年間過ごすことになる学校なのですから。
そのためには、やはり学校選びは重要です。特に中学受験において、学校選びはほぼ親の仕事になります。(もちろん最終的にはお子さんの意向を大事にすることが大切ですが)
ですから今中学受験を考えている人は、ぜひもう一度、お子さんにどんな環境を与えたくて受験をするのかを考えてみてほしいと思います。

2024年の人気動向その1. 国際系・探究重視 

ここからは今年受験生を増やした学校の中からいくつかピックアップして、人気の理由を探ってみたいと思います。
まずここ数年の傾向として国際系と言われる学校に受験生が集まっています。国際系とは、単に英語教育が充実しているということだけではなく、グローバルな視点で物事を見て考える力を養う教育をうたっている学校です。
特徴としては、英語で授業が行われていたり、留学制度が充実していたり、海外大学進学への道が開かれていたり、国際バカロレア教育を行っていたり、インターナショナルスクールを併設していたり……、取り組みはさまざまです。
国際系の学校は、その多くが生徒募集が困難になっていた伝統女子校を共学化し、校名を変更し、時流を先取りした教育を行う学校に生まれ変わって人気校となるというパターン。広尾学園は、そのはしりですが、インターナショナルコースの他に医進サイエンスコースもあり、今では御三家に合格していても、広尾学園に合格したらこちらを選択するという例も出るくらいになっています。
2021年に開校した広尾学園小石川は、教員が広尾学園から移動し、そのノウハウを生かす教育を行うということから、初年度から受験者が殺到しました。3年目は落ち着いてきた印象ですが、すでに難関校の仲間入りをしています。どちらも都心の一等地にあり、恵まれた環境と決め細かい指導が、難関大学進学を志向する教育熱心な層に受けているのです。
三田国際学園も同じような経緯を踏んで開校した学校ですが、今はインターナショナルを全てのコースの前提におき、英語による授業や留学制度の充実など、3校の中では最もグローバル教育に重きを置いている学校です。
以前、大橋清貫校長にインタビューをした際、「当初は有名大学に進学させることが生徒のためと思っていたが、今は社会で活躍するための根幹となる力を育てるのが、中等教育の役割だと考えるようになった」という言葉が印象的でした。こちらも偏差値は広尾学園小石川と同じくらいで、なかなかの難関校になっていますが、英語入試や、算数と理科だけの入試もあるので、いずれかが得意なお子さんにはチャンスがあります。
母体を同じくするカトリック校から共学化したサレジアン国際学園とサレジアン国際学園世田谷は、初年度から受験者を集めており、2024年も人気でした。別学→共学化→国際系学校への転身は、これからの時代を見据えて私学を選びたいと考える保護者のニーズを捉えた動きと言えるでしょう。
国際系とはうたっていませんが、探究教育にも力を入れ、思考力を育むさまざまな環境を整えて、グローバルな視野とマインド、スキルを育成しようとしている学校は他にもあります。
帰国生も多く、グローバル教育と探究教育を重視するかえつ有明はその1つ。高校には探究に振り切った高校新クラスもあり、探究教育の実践を積み重ねている学校として人気です。こちらは一般入試の他に、思考力入試、AL(アクティブラーニング)思考力入試など新タイプ入試も実施していて、多面的な力を持った生徒を集めようという意思が感じられます。
また、元麹町中学校で教育改革を行った工藤勇一氏が校長を務める横浜創英や自由教育の流れをくむドルトン東京学園は、出口を大学進学だけにおかず、変化する社会を見据え、主体的に生きる力を育む教育を行う学校として注目を集めています。
この3校は、新しい教育を試行している学校で、今の大学進学をゴールにした中等教育に疑問を持つ層から支持されており、これからの動向が注目されます。

2024年の人気動向その2. 理系進学・中堅別学校

一方、芝浦工業大学附属、東京電機大学、東京都市大学付属は、理系進学に強い学校として受験生を増やしています。理系の勉強が好きというお子さんなら、実験室の設備やその使われ方、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関する姿勢なども注目するといいでしょう。
一方、別学の伝統校の中にも受験生を集めた学校があります。偏差値的にも中堅と言われる学校群の中では、女子校の普連土学園、三輪田学園、山脇学園、実践女子学園、男子校では佼成学園、足立学園などが受験生を集めました。
これらの学校は、共学校人気に押された時期もありましたが、その後学校改革を進めたり、入試回数を増やしたり、高大連携を図ったり、きめ細かい指導を行ったりと、さまざまな工夫を地道に重ねてきた結果、認知が高まり受験生を集めている印象です。
ダイバーシティやジェンダーの流れの中で、別学教育の意味を問う声もありますが、思春期に異性を気にせず自分を表現できる環境はある意味貴重です。別学を選べるのは、中学入試の大きな特徴でもあるので、共学と決めている人も、一度ご覧になってはいかがでしょう。

自分軸を作るためには、自分の目で確かめるしかない

さて、2024年の入試を振り返りどんな学校に人が集まっているかをさっとみてきましたが、首都圏には300校近い学校があり、それぞれが目指す教育を行っています。それだけに、その中からお子さんに合う学校を見つけるのは簡単ではないかもしれません。
入試方法も、4教科だけでなく、2教科、1教科、英語入試、面接と作文、グループワークなどの新タイプ入試など、多様になってきています。ひと口に中学受験と言っても、山の登り方もさまざまです。それだけに、どんな受験にしていくのかを考えながら進まないと、情報の海の中で溺れてしまいます。
今回紹介した動向も、来年はまた変化していきます。親御さんの中には自分も中学受験経験者という人がいると思いますが、当時とは状況も様変わりしているので、自分の経験はいったん脇におき、できるだけ早いうちに通学圏内にあるさまざまなタイプの学校を見に行き、違いを感じてみてください。そうすることで、徐々にわが家ではどのような教育を受けさせたいのか、子どもにはどんな学校が合いそうか、少しずつ分かってくるはずです。
偏差値は、合格の可能性を測る数値であり、学校の価値を表す数値ではありません。また、世の中の情勢や学校の広報などさまざまな要因の影響を受けて上下します。何のために受験をするのかを考え、その上で偏差値だけにとらわれない学校選びをする目を養い、わが家にとって最高の受験を目指してくださいね。
今回の記事では、文字数の制限もあり、少ししか学校を紹介できませんでしたが、今本を執筆中なので、そちらではさらに詳しく学校選びの軸の作り方を紹介していきます。どうぞお楽しみに!
この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。(文:中曽根 陽子)

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