「ドヤ街」から観光客が集まる街へ 西成の景色を変えた、簡易宿泊所の「奮闘」
2019年4月7日(日)12時0分 Jタウンネット
<連載>20代女子、西成に住んでみた第13回 文・写真 イカ子
みなさま、ごきげんイカが?大阪・西成を拠点に活動している26歳、イカ子です。現在は自身のウェブメディア、YouTubeなどで女性目線での西成情報を紹介しています。今回は、西成で簡易宿泊所を経営する「ジュノングループ」についてご紹介いたします。
西成の宿泊施設といえば、やはり驚くほど安価で宿泊ができる「ドヤ」のイメージが強いはず。衛生面やサービスなど、「安かろう悪かろう」という印象を抱いている人も多そうですが、その現在はどうなっているのでしょうか。
2000円前後で泊まれる簡易宿泊所
50年の歴史をもつジュノングループは、多い時には9つのドヤを西成で展開してきました。
昔のジュノングループの「ドヤ」は、料金は1300円〜1800円ほどの日雇い労働者の日払いアパートが中心で、宿泊者のほぼ全員が長期滞在の客だったそうです。
10年前のリーマンショック以降、建築関係の仕事が減少し、日雇い労働者が激減したことや、外国人観光客や出張などで利用する日本人客へのニーズが増えたことから、5年前から一般客やビジネスのお客様にも対応する設備の改修を始め、最低限の宿泊機能を備えた「簡易宿泊所」として、今の業務形態となりました。
現在、ジュノングループは、新今宮駅前で4つの施設を展開しています。

どの施設も新今宮駅から歩いて1分ほどの好立地にあって、USJや大阪城などの主要観光地への電車でのアクセスも優れています。実は、筆者がまだ西成に住む前、大阪に来た際に宿泊施設としてよくお世話になっていたのも、このジュノングループのホテルでした。
ジュノングループのホテルのシングルルームでの1泊の料金は、だいたい平均すると2000円ほどです(繁忙期などは除く)。
大阪ミナミのネットカフェや、付近のホステルと価格帯はそこまで変わりませんが、接客のサービスや部屋の清潔感は、一般的なホテルに引けを取ることはありません。

トイレやお風呂などが共同な点や、部屋の広さは3畳ほどで通常のホテルよりはシンプルな作りになっているなど、この価格帯なりの価値が提供されています。
レディースプランを用意している施設も。「西成×女性→怖い」といったイメージを抱きがちですが、そこには工夫があります。女性限定のフロアを用意したり、内装も可愛いハート柄にしたりするなど趣向を凝らしています。
多様な宿泊プランも用意
ジュノングループでは、お客様に喜んでいただけそうな企画やプランを常に考え実行していくことを意識していると、広報担当者は話していました。
日雇い労働者が長期滞在していた時代は、その人たちがより生活しやすい設備や対応に注力していましたが、新たに観光客やビジネスのお客様に支持されるようになり、これらのお客様に満足して頂けるような新しい設備やデザイン、サービスを追求することが必要だと考えたからだそうです。
各ホテルでは季節に合わせたおもてなしを提供しています。例えば、冬であればカイロをプレゼントしたり、夏はかき氷のサービスがあったり、ハロウィンの時期はお菓子つかみどりの企画を行ったり——などです。このような季節感のあるちょっとした気遣い、宿泊者側にとってほっこり嬉しい気持ちになります。
宿泊プランもさまざまで、例えば裏に線路がある施設では、鉄道が至近距離で観れるという立地を生かして、鉄道ファン向けに「トレインビュープラン」を提供したことがありました。これがなかなか好評だったそうです。
人型ロボット「Pepper」がお出迎えしてくれる施設も。ロビーにちょこんといるだけで旅の疲れが癒され和んでしまいそう。

なぜ、このように次々と「ドヤ」がこのようにホテル化しているのでしょうか。
今まではホテル(簡易宿泊所)のライバルは、あいりん地区内のホテルでした。2022年に完成予定の星野リゾートを始め、これからあいりん地区のホテルはより良い施設に変わって行くことが予想されます。
逆に今のタイミングでニーズに合わせて業務転換出来ない宿泊施設は、今後の生存競争で生き残るのが厳しいといえるかもしれません。
3月末であいりん労働福祉センターの今の施設が閉鎖、西成の開発が新たに進む中、観光地として発展を遂げるこの街を支える企業の創意工夫から今後も目が離せません。
