《じょうずに頼る介護》自分で介護申請を出せますか?「こんなに大変だとは…」急に動けなくなってからでは遅い。お試し介護で他人に頼る
2025年4月15日(火)12時30分 婦人公論.jp
夫婦で急に介護が必要になることも(写真提供:stock.adobe.com)
これからは〈自分介護〉の時代へ。2040年には、単独世帯が900万世帯に達するという予測があります。特に、65歳以上の単独世帯数の増加が推測されています。日本の家族構造は大きく変容して、これまで頼りにしていた家族相互助け合いシステムが崩壊しています。高齢者を包括的に支援/実践している団体「リボーンプロジェクト」が、介護の事例と、専門家のアドバイスを編集した『じょうずに頼る介護 54のリアルと21のアドバイス』より一部を抜粋して紹介します。
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夫婦二人が倒れたら
介護申請:腰痛で歩けない中、自分で介護申請
純子さん(65歳)は、1年ほど前に腰痛と膝の関節痛を発症。激痛に加えてしびれがあり、足に力が入らなくなった。
「当初は、痛みで椅子に座れず、ベッドで寝返りも打てませんでした。歩けないのでトイレにも這っていく始末。家事ができないどころか、整形外科への通院も一人では無理で、寝たきりに近い状態でした」
純子さんには社会人の子どもがいるが、いまは独立しており、東京都内で夫との二人暮らし。発症してからは、夫が家事一切を引き受け、通院にも付き添った。
ところが、ある日、夫が腹痛を訴え、救急搬送される。
「かかりつけ医を受診したら、緊急手術が必要かもしれないと、そのまま救急車で病院に運ばれてしまったんです。当時、私の病状は一進一退。自分のことさえままならないのに、病院から『すぐに来てください』と言われて、慌てました」
その日は都内に住む長女に連絡を取って一緒に病院に行ってもらい、手術の立ち会いは長男に頼んだ。が、子どもたちは働き盛り。残業や出張で忙しく、頻繁に仕事を休んでくれとは言えない。
入院着や歯ブラシなどは病院に依頼すればよいが、スマホの充電器や老眼鏡など家から届けなければならないものもあり、そのうえ、入院同意書を翌日の昼間に受付に提出しろとのこと。
リュックを背負い、旅行用バッグを斜めがけにして、杖をつきながら病院にたどりついたら、受付の人が慌てて院内用のショッピングカートを持ってきてくれた。
これから入院する患者だと勘違いされたようだ。
ちょっと助けてほしいだけなのに、とても煩雑な手続き
その頃は、さすがにトイレに這っていくことまではなくなっていたものの、日常の家事がままならなかった純子さん。
スーパーマーケットではレジ待ちで立っていることがつらく、重い荷物も持てない。杖をついているので、ゴミ出しもできない。
夫が入院前に注文した米が宅配便で届き、玄関前に置かれたが、一人で中に取り込むこともできなかった。
ちょうど65歳になったばかりだったので、買い物やゴミ出しをヘルパーさんに頼めないかなあ、と考え、自治体の地域包括支援センターに問い合わせてみた。
「たった一人で、毎食、どうしようと途方に暮れました。冷静に考えれば、食事はフードデリバリー、買い物はネットスーパーだっていいはずなんです。でも、夫の入院で気が動転していたのでしょうね」
ところが、まずは1週間後に、自治体の相談員が自宅に来て状況の聞き取りをするという。
ヘルパー派遣はおよそ1カ月後と言うので、いったんはあきらめたものの、介護に詳しい知人に相談すると、「緊急性があればもっと早く来てもらえるかもしれないから事情を詳しく伝えたほうがいいわよ」とアドバイスされた。
「整形外科系の病気なら介護申請が早く通るかもしれない」とも……。
そうして、地域包括支援センターに電話すること3度。自分の病状、夫の入院を詳しく伝えたところ、ようやく緊急性があると判断されたのか、相談員が翌々日に来ることになった。
こんなに大変だとは思わなかった
やれやれ、これでヘルパーさんが来てくれる……と安堵したのは大間違い。
相談員が来た翌日、自治体から介護認定の調査員が自宅を訪れ、どの程度歩行ができるのか足はあがるか、家族の支援はどうか、認知症がないか、などを調査。
さらに次の日、「見切りで介護認定をすることになったので、仮のケアプランを作ります」とケアマネジャーがやってくる。またまた次の日は、介護事業所の責任者が来て、契約書の作成。
そうして、さらにその翌日、ようやくヘルパーがやってきて、ゴミ出しと洗濯をしてくれたのだった。
「ヘルパーさんの依頼だけで、こんなに大変だとは思いませんでした。ちょっと家事を手伝ってほしかっただけなのに。毎日次々と違う担当者が来て、あれこれ説明して書類に押印やサインを求めてきます。訪問時間も先方の指定で、こちらの都合はほとんど聞いてもらえませんでした。
ケアマネさんからは、廊下に手すりを設置したらとか、介護用ベッドに入れ替えたらとか言われ……。こちらは、その間に夫の手術で病院からの呼び出しがあったり、差し入れが必要になったりしていたので対応だけで疲れ果てました」と、純子さん。
公的な介護サービスは、すぐに受けられるのか?(写真提供:Photo AC)
「いま大変」なことに即応するようにはできていない
専門家のアドバイス:早めの介護申請とお試し介護で、「上手に他人に頼ること」に慣れておく
病気やケガで動けなくなったら、誰に助けてもらうのか──。
まず頭に浮かぶのが、介護保険制度による公的な介護サービスだろう。でも、毎月介護保険料を払っているからといって、「誰でも、すぐに」公的な介護サービスが受けられるわけではない。
自治体に申請し、認定された人のみが利用できる仕組みになっている。
公的な介護保険サービスを申請できるのは、65歳以上の人、もしくは40〜64歳で、脳梗塞や脳出血、認知症、膝や股関節の変形性関節症、関節リウマチ、がん末期など16の特定疾病の人だ。
かつ、申請からサービスを受けるまで、通常では1カ月以上かかり、制度自体、たったいま大変なことに即応するようにはできていない。
緊急性があると判断されると、純子さんのように早くサービスを受けられることもあるが、あくまで行政の判断次第。急に動けなくなったとしても、すぐの対応は難しいと思ったほうがよさそうだ。
一方、病気やケガ、筋力低下などで徐々に弱ってきた場合、または療養が長期にわたりそうで定期的に介護や家事を依頼したい場合は、介護保険制度による介護サービスの利用を積極的に考えよう。
すぐにサービスを利用するかどうかわからなくても、備えとして介護認定だけでも受けていれば、必要なときに即サービスの利用開始ができるので、切羽詰まる前に、まずは気軽に申請してみてほしい。
※本稿は『じょうずに頼る介護 54のリアルと21のアドバイス』(太田出版)の一部を再編集したものです。
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