角野栄子「魔女の宅急便」から40年。元日に90歳を迎え「これからどう生きるか」かしこまって考えた。できないことも増えたけど、カラフルな装いで気分も明るく
2025年4月16日(水)12時30分 婦人公論.jp
「今年は、『魔女の宅急便』の1巻が出版されてちょうど40年になる節目の年。だから、やっぱり家で静かになんて無理ね」(撮影:村山玄子)
250を超える作品を生み出し、90歳になった今も児童文学作家として活躍する角野栄子さん。いつも明るい笑顔でハッピーオーラ満開の秘密を聞きました(構成:篠藤ゆり 撮影:村山玄子)
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足の爪がうまく切れなくて
今年1月1日に90歳の誕生日を迎えました。ふと頭に浮かんだのは、「私、やっぱり年寄りになったのかしら?」ということ。これまで年齢を意識したことなんて、まったくなかったのに。(笑)
元日ですから、「これからどう生きようかな」と、ちょっとかしこまって考えてみました。「そろそろ家にこもって、静かに創作の日々を送りたい」などと思ったけれど、こんなふうにお仕事の依頼がくると、「なんかおもしろそう」って、つい引き受けてしまうの(笑)。
今年は、『魔女の宅急便』の1巻が出版されてちょうど40年になる節目の年。だから、やっぱり家で静かになんて無理ね。
年齢の自覚がないと言っても、やっぱり体は変わってきています。80代後半から、できないことがいっぱい増えました。
なにしろ、足の爪がうまく切れない。体が曲げにくくて手がなかなか届かないし、老眼で焦点が合わないから、どこに爪切りの刃を当てたらいいかわからないの。
それで電動の爪やすりを使ってみたら、指の肉まで削っちゃって……。本当に不便。ロボットがやってくれたらいいのに、なんてね。
服の脱ぎ着にも時間がかかります。着替えるだけで一苦労。お若い方は無意識にやっていると思うけど、トレーナーやセーターを脱ぐときって、腕をクロスさせて裾をめくりあげるでしょ。その「クロスして、裾をめくりあげて、頭を抜く」という動作がなかなか苦しい。じゃあどうするかというと、片方ずつ袖口を引っ張って肩を抜いていくことになるわけです。
体の大きさは変わっていないけれど着脱のしやすさを優先して、もともとMサイズのところをXLサイズにしたりして工夫しています。できなくなったことを嘆いていてもしょうがないですからね。
そもそも私は洋服の締めつけが苦手。それで15年ほど前から、近所の布地屋さんでお気に入りの布を選んでは、裁縫が得意な娘の友だちに、私のこだわりを詰め込んだ同じ形のワンピースを何枚も縫ってもらっているんです。
襟ぐりが広いと、年齢による首元の貧相さが目立ってしまうから、首まわりは小さめにして、腕を動かしやすいように、アームホールは大きめにゆったりとさせて。軽さを重視して、裏地は付けないといった具合です。
それと大事なのは、明るい色であること。白い髪の毛に似合うし、顔色も明るくなって元気に見える。それに、気分が明るくなるでしょう? そこにカラフルなアクセサリーや眼鏡、スカーフなどを娘のりお(アートディレクターのくぼしまりおさん)にコーディネートしてもらいながら、今の自分に合うおしゃれを楽しんでいます。
眼鏡は老眼対策でもあるけれど、カラフルでかわいいものをかけていると、不思議と顔や目元のシワにみんなの目が向かないのもいいところね。
ルーティンが崩れると、体や気持ちがチグハグに
私の場合、心地よく過ごすためにはルーティンを守るのがいいみたい。朝は8時くらいに起きて朝ごはんを食べ、仕事を始めるのは10時半。14時頃にちょっと何か食べて、16時に仕事を切り上げ、買い物や散歩に出かけて、行きつけのお店でコーヒーを飲んで帰ります。
ただ最近は、重い荷物を持って歩くのが難しくなってきたから、食材や日用品は家に届けてくれる生協に頼ることに。だから街に出ても、持てるだけの量をちょっと買ったりするくらいです。
あとは、買ったものを、スーパー近くのお店で働いている友人が帰宅するときに自転車で届けてくれるので、とっても助かっているの。
そうして帰宅したら、晩ごはんを作って、いただいて。夜は膝の上にノートを載せて、音楽を聴いたり、テレビをつけながら絵を描くことが多いわね。といっても、いたずら描きですけれど。寝る前は本を読みます。
こうしたルーティンが崩れると、自分の体や気持ちがなんだかチグハグになっちゃう。だから、それほど厳密ではないけれど、なるべく生活のリズムを崩さないように意識しているわね。
食事は、朝ごはんに小豆の煮たものをよくいただきます。砂糖を入れずにたくさん煮ておいて冷蔵庫に保存して、食べる分だけハチミツをかけてね。それとパン、トマト、卵とコーヒーくらいかしら。昼は冷凍のおうどんを食べてみたり、お餅を焼いたり。
ものぐさな私の夕食は、メインになるお肉や魚を焼いて、あとはお野菜。フライパンにオリーブオイルを引いて、レンコンやニンジンの輪切り、玉ねぎを焼いて、冷めるのが嫌だからフライパンごとテーブルへ。味噌やマヨネーズ、ナッツを入れた自家製ディップをつけて食べます。年齢の割に、私はよく食べるみたい。(笑)
実は昨年、20日間ほど入院することになってしまったのです。入院したのは、31歳で娘を産んだとき以来。病院の食事って、あんまりおいしくないのよね(笑)。
塩分を控えめにとか理由があるのはわかるのだけれど、せめてごはんが炊きたてだったらいいのに。自分の味が恋しくて退院が待ち遠しかったわ。
<後編につづく>
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