すり足が命を脅かす…「日本固有の気候や文化が関連している」

2025年4月20日(日)10時49分 読売新聞

[危ない骨卒中]<中>

 日本の昔ながらの木造家屋は段差が多く、「骨卒中」につながる転倒のリスクがあちこちに潜んでいる。

 その理由について、東洋大教授(建築学)の水村容子さんは「日本固有の気候や文化が関連しているため」と説明する。

 湿気対策として設けられた床下の空間や靴を脱ぎはきする慣習から、屋内外の境界には大きな段差が生まれる。屋内は、障子や押し入れのふすまなど、引き戸が多くあり、敷居には戸を滑らせるための小さな溝が設けられている。床下の高さが同じでも、畳と板敷きでは厚みが異なるため、和室と廊下の境なども段差が生じやすい。

 「昭和期以前に建てられた家屋によくある特徴。シニア世代の居住者が多いとみられ、転倒対策が欠かせない」と、水村さんは注意を呼びかける。

 日本転倒予防学会は、転倒に気をつける場所として、「ぬかづけ」を挙げている。「ぬかづけ」とは、「ぬ」れている場所、「か」いだんなどの段差、かた「づけ」られていない場所だ。

 「ぬ」にあたるのは、浴室や雨の日の玄関など。特に浴室は浴槽や蛇口など硬いものがあり危険だ。入り口の段差を下りる時、浴槽をまたぐ時も事故が起きやすい。手すりや滑り止めマットを設置したり、床にすのこを敷いて段差を解消したりしたい。

 階段は一段ずつ足元を確認しながらゆっくり上り下りする。最後の数段を下りる際の事故が多い。夜間は必ず明かりをつける。自分の影で足元が見えにくくなることがあるため、足元灯を設置したり、滑り止め付きの蛍光テープを階段のへりに貼ったりするのも効果的だ。

 小さな段差も危ない。厚生労働省の2023年の調査によると、「転倒・転落・墜落」で亡くなった高齢者の87%は、「同一平面上でのスリップ、つまずき、よろめき」が原因だった。

 帝京科学大教授(予防理学療法学)の藤田博暁さんは「筋力が衰えた高齢者は思うように足が上がらず、すり足になりやすい」と指摘。「数ミリの段差が命を脅かす。敷居などには小型のスロープを設置して、わずかな段差でもなくすのが理想」と言う。

 段差のない部屋の中でも、つまずくリスクはある。整理整頓を心がけ、ポリ袋やリモコンなど、床にはなるべくものを置かない。電気ポットは、やけどの恐れもある。

 注意したいのは、家電製品の電源コードだ。立ち上がりや歩行がおっくうになると、手の届く範囲に複数の家電を置きがちだが、動線上に何本もコードがはっている状態は好ましくない。輪ゴムなどでコードをまとめ、動線を避けて配置する。

 薄いカーペットやマットは、端がめくれやすい。敷物の下に滑り止めを敷き、めくれるのを防ぐ。 藤田さんは「年齢とともに筋力やバランス感覚は衰えていき、転びやすくなる。できるところから転ばない家づくりを進めて、骨卒中を予防しましょう」と話している。

転ばぬ体へ…おすすめトレーニング

 転倒リスクを減らすための1日のトレーニングを藤田さんに教えてもらった。

 バランス能力を維持するための「片足立ち」から。直立した状態で片方の足を地面から浮かせ、その状態を1分間維持する。左右交互に3セット。重心移動がスムーズになる。

 次は「スクワット」だ。足を肩幅に広げ、お尻を後ろに引くようにしながら、5〜6秒かけて膝を曲げ、同じ秒数をかけて元に戻す。5回を1セットとして3セット。大腿だいたい骨に負荷がかかるため、骨密度の上昇も期待できるという。

 最後は、「かかと上げ」と「つま先上げ」。足を肩幅に広げ、かかとの上げ下ろしを繰り返す。つま先も同様。10〜20回を1セットとして、それぞれ3セット。足が上がりやすくなり、段差などにつまずきにくくなるという。

 藤田さんは「転ばない体、骨折しても再び歩ける体を目指して、毎日のトレーニングを心がけましょう」と話した。

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