あなたの便秘、実は<姿勢の悪さ>が原因かも…「考える人」ポーズで便が出やすくなる学術的な理由とは

2024年4月24日(水)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

令和4年の国民生活基礎調査によると、男性の2.5%、女性の5.1%が便秘を訴えているそう。そのようななか、「骨盤の後傾によって曲がった現代人の直腸を真っすぐに伸ばして便秘を撃退する<直腸ストレッチ>」を考案し、テレビや雑誌を通して発信しているのは、アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長の高林孝光さん。先日『スッキリ出る!直腸ストレッチ』を刊行された高林さんいわく、「民族学的にも日本人は骨盤が後傾しやすいという指摘がある」そうで——。

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「考える人」のポーズで便通がよくなる


医学の進歩は目覚ましく、日々、新たな治療法が確立されています。しかしながら、その医学といえども決して万能ではありません。

AI(人工知能)を活用した画期的な治療法が開発される一方で、昔から私たちを悩ませている不快症状の解消法がいまだに確立されていないという現状もあります。

便秘もその一つといえるでしょう。適度な運動、食物繊維の豊富な食材の摂取、そして目覚ましく進化する薬物と手術法……どれも理論的に確立された方法ばかりですが、現実には便秘に悩む人があとを絶ちません。

医療機関での治療は医師や看護師、理学療法士、栄養士などにおまかせするとして、柔道整復師で鍼灸師である自分にできることはないか—そう考えたときに、頭に浮かんだのが、私の専門である「姿勢」と「骨格」の問題でした。

きっかけとなったのは、介護の現場における便秘対策をテーマにした論文を読んだことでした。介護を必要とするお年寄りは、どうしても加齢に伴う便秘から逃れられないものです。

そこで介護士の方々は、便秘に悩むお年寄りに、トイレであるポーズをとってもらっているというのです。それは、洋式の便座に座ったときに、背すじを伸ばして上半身を前傾させる「考える人」のポーズでした。

「考える人」といえば、フランスの代表的な彫刻家、オーギュスト・ロダンが制作した、思索にふける男性の像として、知らない人はまずいないでしょう。あの像のように座って前かがみになった姿勢をとると、便通がよくなるというのです。

そのメカニズムを説明しましょう。

直腸肛門角に着目


直腸と肛門がなす角度を「直腸肛門角(かく)」といいます。ふだん、直腸は恥骨(ちこつ)直腸筋という筋肉に引っぱられているため、ほぼ直腸肛門角は直角に保たれています。

恥骨直腸筋は、恥骨の内側を始点として直腸の背後を囲んで再び恥骨に戻ってくる筋肉です。この恥骨直腸筋が収縮(しゅうしゅく)して直腸を引っぱることで、直腸は「く」の字に曲がり、便は直腸内にとどまっているわけです。

そして、「考える人」のポーズをとって、上半身を35度の角度まで前傾させると、曲がっていた直腸が真っすぐになり、同時に肛門括約筋も緩んで、便が出やすくなるのです。


『スッキリ出る!直腸ストレッチ 一日3分で「出口の詰まり」を取って便秘を解消するセルフケア』(著:高林孝光/CCCメディアハウス)

この理論は、流体力学の視点からも納得のいくものでした。みなさんは中学校の理科、あるいは高校の物理の授業で「パスカルの原理」を習ったことを覚えているでしょうか。

パスカルの原理とは、簡単にいうと、静止している流体に加わる圧力はすべての部分で等しく伝わるというものです。

たとえば、台形の形をした固い物体をスポンジのような柔らかいものに押し付けた場合、台形の大きい面を押し付けたときと、小さい面を押し付けたときでは、スポンジのへこむ度合いが違います。つまり、面積が小さければ小さいほど、そこにかかる圧力は強くなるわけです。


<『スッキリ出る!直腸ストレッチ 一日3分で「出口の詰まり」を取って便秘を解消するセルフケア』より>

直腸は、曲がっているときよりも、真っすぐになっているときのほうが、その面積が小さいのはいうまでもありません。したがって、「考える人」のポーズをとると、直腸にかかる圧力がより強くなるため、便が出やすくなるのです。

この論文を読み終えたときに、私の脳裏に便秘を解消するセルフケアのキーワードが浮かび上がりました。それは、私がふだんの治療において最も重要視している「骨盤(こつばん)」でした。

さまざまな弊害を生む骨盤の後傾


私が患者さんの治療をするときには、まず姿勢と骨格をチェックします。そのときに大きな役割を果たすのが骨盤です。

骨盤は、脊柱(せきちゅう)(背骨)と大腿骨(だいたいこつ)(太ももの骨)の間で体を支えている骨の解剖学的名称で、左右一対の寛骨(かんこつ)と仙骨(せんこつ)・尾骨(びこつ)で構成され、上半身と下半身をつなぐ働きをしています。

本来、骨盤は垂直に立っているものですが、さまざまな要因により、現代人の骨盤は前後に傾いていることがほとんどです。そのなかでも、とくに顕著(けんちょ)なのが、骨盤が後傾している人が実に多いことです。

現代人の骨盤が後傾する最大の原因は、運動不足とスマホに依存した生活です。交通網が発達し、IT環境が整った現代社会において、人が体を動かす機会は激減しました。こうした極端な運動不足の状態に、拍車をかけるように体に悪影響を及ぼしているのが、スマホの存在です。

全身の筋力が衰えた状態で、スマホを操作するために前かがみの姿勢をとり続けていると、頭が前方に傾いて肩が内側に入り込む「巻き肩」になります。

すると、背中が徐々に丸まってネコ背になります。ネコ背になると、筋力不足により固く萎縮(いしゅく)した大臀筋(だいでんきん)(お尻の筋肉)やハムストリングス(太ももの裏側の筋肉群)に引っぱられて、骨盤が後傾するのです。

骨盤が後傾すると、ひざを真っすぐに伸ばしきることができず、全身のバランスをとるために、無意識のうちに下腹を突き出すようになり、いわゆる「ポッコリおなか」にもなってしまいます。

自分の姿勢をチェック


ここで、自分の姿勢をチェックしてみてください。

下の右側の図は、耳・肩・腰・ひざ・くるぶしが一直線になった正しい姿勢です。この姿勢は骨盤が垂直に立って初めて保つことができます。一方、骨盤が後傾すると、下の左側の図のように、背中が丸まって耳や肩やひざが前方に突き出た状態になります。


<『スッキリ出る!直腸ストレッチ 一日3分で「出口の詰まり」を取って便秘を解消するセルフケア』より>

実際、私は日々の治療のなかで骨盤が後傾している人が圧倒的に多いことを実感しています。

また、日本臨床整形外科学会の姉妹組織として2013年に設立された「全国ストップ・ザ・ロコモ協議会」は、現代の子供はネコ背・あご出し・骨盤後傾がセットとなっており、そのため運動機能に異変が起こり、この30年間で骨折率が3倍になっていると報告しています。

もちろん、これは子供に限った話ではなく、日本理学療法学術研修大会など、さまざまな学会において日本人の骨盤が後傾しやすいことが研究発表されています。

興味深いのは、民族学的にも日本人は骨盤が後傾しやすいという指摘がある点です。すなわち、狩猟民族である欧米人が、移動するために骨盤を前傾させて体に軸をつくっていたのに対し、農耕民族である日本人は、定住し移動することを必要としなかったため、骨盤が後傾しやすくなったというわけです。

※本稿は、『スッキリ出る!直腸ストレッチ 一日3分で「出口の詰まり」を取って便秘を解消するセルフケア』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

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