漢方薬を用いる医者は増えたが【とりあえず】での処方も…専門医「それが<漢方薬なんて効かない>との声を増やしている」
2025年4月25日(金)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
漢方薬に対して「飲んでみたが効かなかった」「エビデンスがないしあやしい」というイメージをお持ちの方もいらっしゃることでしょう。しかし「漢方薬にはエビデンスが数多く存在し、漢方薬の効き方が一定でない背景には、腸内環境の乱れが深く関わっている可能性がある」と指摘するのは、サイエンス漢方処方研究会の理事長で医師の井齋偉矢先生。そこで今回は井齋先生の著書『漢方で腸から体を整える』から一部抜粋・再編集してお届けします。
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漢方薬にもエビデンスはある
医療者の中にも、漢方薬の現状をよく知らない人が「漢方薬にはエビデンスがない」と断言されているのを耳にすることがありますが、実際のところ漢方薬にはエビデンスが数多く存在します。
最もわかりやすいサイトとして、日本東洋医学会のホームページに「漢方治療エビデンスレポート(http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/index.html)」というページがあり、ここに多くの二重盲検ランダム化比較試験(DB-RCT)が掲載されています。
二重盲検ランダム化比較試験というのは、最も厳格で信ぴょう性の高い結果が得られる試験として知られています。
試験に参加する人(被験者)を無作為に二つのグループに分け、一方には本当の試験薬を投与し、もう一方のグループには本物と区別のつかない偽薬を投与して、両者の結果を比較する試験法です。被験者も研究者も、どちらのグループが本物の試験薬を投与しているのかわからない状態で行うことから、薬物や治療法などの効果を評価するうえで最も信頼できる方法の一つとされています。
そうした二重盲検ランダム化比較試験で行った漢方薬の研究データが、前記のページに数多く載っています。一般の方でも入ることができ、自由にプリントアウトできます。ぜひ多くの人に見ていただけるとうれしく思います。
日常診療で漢方薬を用いる医者は増えているが……
漢方薬を日常診療で用いる医者の割合は増えています。正確な数字は調査の時期や対象によって異なりますが、複数の調査で8割から9割の医者が漢方薬を処方しているという結果が出ています。
漢方処方の普及に尽力している私としては、高い処方率に対して本来は喜ぶべきところですが、実際どこまで一人ひとりの患者さんに対し、その人に適した漢方薬が処方されているのかについては正直疑問があります。
例えば、新薬の咳止め薬の供給が不足して手に入りにくくなったときに、咳に使える漢方薬が出荷制限になるほど使われました。しかし、漢方薬には新薬のような定番の「咳止め薬」というものは存在しません。
患者さんの咳の症状に応じた薬を処方することになり、効かないときは次々に変えていくのが原則です。
確実な効果を得るためには……
ですから、漢方薬についての知識があまりない医者が、新薬の咳止めを処方するような感覚で漢方薬を処方しても、患者さんがまったく反応しない場面がしばしばあったのではないかと懸念しています。
咳止め薬に限らず、新薬でなかなか効果が見られない場合や、新薬で有効なものが存在しない症状の患者さんに対して、「とりあえず漢方薬を」といった感じで処方する医者が少なくないのが実情だからです。
(写真提供:Photo AC)
そうした状況が、結果的に「漢方薬なんて効かない」という声を増やしてしまっていることをとても残念に思います。
漢方薬は正しく処方すれば、確実に効果を発揮します。確実な効果を得るためには、漢方の専門医を受診することが原則です。
自分の住んでいる地域に漢方に詳しい医者がいるかどうかを探す場合は、『漢方のお医者さん探し』(https://www.gokinjo.co.jp/kampo/)というウェブサイトを利用するのがおすすめです。
インターネットを使えない場合は、かかりつけ医に相談したり、各自治体の医療に関する相談窓口に問い合わせたりしてみるといいでしょう。
※本稿は、『漢方で腸から体を整える』(青春出版社)の一部を再編集したものです。