認知症専門医でケアマネジャーの先生がアドバイス「デイサービスは早めに通うべし。夫婦で行くなら、施設や曜日は別々に」
2025年4月28日(月)12時40分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が発表した「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計(令和4年度調査)」によると、65歳以上の高齢者の中で、認知症の人の割合は約12%となっています。認知症の人の介護をする家族も増えるなか、「認知症とは、患者家族に『決断』を強いる病気」と話すのは、認知症専門医の長谷川嘉哉先生です。今回は長谷川先生の著書『認知症は決断が10割』から、先生と、本の編集者である編集Tさんとの対談を一部抜粋しお届けします。
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要介護(要支援)認定されたら、デイサービスに行ってもらう!
長谷川先生(以下、先生) それにしても、感慨深いですねぇ。まさか「デイサービス」という言葉が、世の中にこれほど広く認知される日が来ようとは……。
編集T どうしたんですか、いきなり。
先生 介護保険制度ができる2000年前後は、デイサービスなんて市町村にひとつしかありませんでした。でも、今やデイサービスはものすごい勢いで増えていて、たとえば、私のクリニックがある土岐市のお隣、多治見市って人口10万人なんですが、そこにはデイが60ヵ所ぐらいあります。……まぁ、団塊の世代の方が減ってきていたり、人手不足で職員がいなかったりして、どんどん潰れてもいるんですけども。
編集T や、闇ですねぇ。
要介護認定されたら、早めにデイサービスに
編集T それはそれとして、デイサービスって、要介護認定を受けた方が日帰りで通えて、いろんなサービスを受けられるところですよね。栄養バランスのとれた食事を出してもらえたり、介助しながらお風呂に入れてもらえたり、リハビリをやったり、体操したり、クイズやったり、歌ったり、ゲームしたり……。
先生 そうです。通う方の社交の場であり、身体機能が低下しないようにするリハビリの場であり、日ごろ患者さんに付きっ切りの家族の負担を減らしてくれるところでもあります。で、患者さんが要介護認定されたら、ぜひデイサービスに通ってもらってください。
編集T ん? たとえば、まだ身体がそこそこ動く「要支援」とか、「要介護1」とかでも、行ってもらったほうがいいんですか?
先生 ですね。やっぱり「要支援」「要介護」になったということは、お世話する人が必要になるってことで、常日頃、誰かしらそばについていなきゃいけません。
ついているほうからすると、それってやっぱり大変です。一緒にいる間は、家事や仕事を中断せざるをえなかったり、買い物にもなかなか行けなかったり。その状態がずっと続くとなると、家族全員の生活にどうしたって支障が出ますからね。
デイサービスに行かないと、患者さんの施設入所が早くなる
編集T 確かに、行ってもらえれば、家族はラクだと思いますけど……。
でも、患者さんに「デイサービスに行って」って言うのって、ちょっと抵抗がありますよね。なんか、少し邪険にしているような感じもあるし。
先生 そうおっしゃるご家族が多いんですけど、ここでデイサービスに行ってもらわないと、患者さんの介護施設への入所が早くなるんですよ。
編集T なんでですか?
先生 デイサービスに行ってくれないと、介護者さんのストレスがどんどん溜まって、早い段階で「もう無理。これ以上、うちでは看られないから、施設へ」ということになるんです。でも、デイサービスに行ってもらえば、その間、介護者は息抜きできますから、患者さんが家にいられる時間が延びるんですね。
介護する家族がどれだけ息抜きできるか、自由に使える時間を確保できるか。それが、患者さんが長く家にいられるコツです。だからこそ、要介護認定されたら、患者さんにはぜひデイに行ってもらいたいんですね。
一日でも長く自宅にいてもらうために、患者さんにはデイサービスに行ってもらうのだ……と考えましょう。
ご夫婦でデイサービスに通うなら、施設、曜日を同じにしない!
先生 それでですね、親御さんが歳を取ってくると、お父さんもお母さんもともに要介護認定されて、夫婦でデイサービスに通う……ということもあります。
このとき、周りがぜひ意識してほしいのが、「お父さんと、お母さんを、同じデイサービスに通わせないほうがいいかも」ということです。
編集T どうしてですか? 夫婦は2人一緒のほうが、安心するんじゃないですか?
先生 いや、そうとも言えんのですよ。
先日、ご夫婦で同じデイサービスを利用しているお宅の奥さんのほうが、こっそり私に教えてくれたんですけども。「先生、やっぱり主人と一緒だと気を遣うから、どうせなら別々のところのほうが気楽でいいんやけど……」と。
まぁ、それはそうですよね。
家でもずっと一緒にいるのに、デイサービスでも一緒ってねぇ。
それなりに仲が良くても、そりゃ息が詰まるでしょう。
編集T なるほど。言われてみれば、そうかもしれませんね。
2人を別々にしたほうが、社交的になれる
先生 特に女性はおしゃべりが好きな方が多いから、そういう場所に行ったら、気が合う方と楽しくやりたいわけです。でも、人見知りなご主人がその場にいて、つまんなそうな顔でブスッとしているなどすると、やっぱりどうしたって気を遣いますよね。
さらに男性の中には、いつも家でしているみたいに、「お茶くれ」「新聞持ってこい」と奥さんに指図する人もいるわけで……。
(写真提供:Photo AC)
編集T それは奥さん、気が休まりませんねぇ。
先生 そうなんですよ。
奥さんにとってはうまくすればデイサービスがいい気晴らしの場になるかもしれないのに、ご主人と一緒だと全然ならない、みたいな。
逆に、家では口数の少ないご主人が、奥さん以外の女性の前だとサービス精神旺盛で、ものすごく社交的になったり……ってこともあるわけです。
編集T となると、2人を別々にしたほうが、社交的になっていいのかもしれないですね。
先生 そうそう。コミュニケーションは、脳にすごくいいですしね。
夫婦一緒にならないようにしてあげるといい
先生 夫婦でデイサービスに……となった場合、特に息子さんあたりが気を遣って、「おやじは、お袋と一緒のところがいいんじゃないか」なんてやりがちなんだけども。
でも、当のお袋さんに聞くと、「いや、せっかくだから、デイサービスの間ぐらいは別々にいて、息抜きしたいんやけど」ということも多いわけです。
編集T だとすれば、もし夫婦でデイサービスに通うことになったら、お子さんは、お父さんとお母さんのそれぞれに、「一緒のところがいい? それとも、せっかくだから別々にする?」と聞いてみるといいかもしれませんね。
先生 そうそう。それぞれに個別のタイミングで聞いて、どっちかが「別々がいい」と言うなら、ぜひそうしてあげてください。
もし別々のデイサービスを使うのが難しいようなら、「月・水はお父さん」「火・木はお母さん」みたいに、通う曜日を別々にして、2人が一緒にならないようにしてあげるといいと思いますよ。
せっかく通ってもらうなら、楽しめるように心配りしましょう!
※本稿は、『認知症は決断が10割』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
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