「とりあえずビール」は一流の飲み方ではない…肝臓専門医が勧める「二日酔いを回避する1杯目とおつまみ」
2025年5月16日(金)17時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332
■二日酔い知らずの「一流」になるには
「飲みニケーションは死語」と言われるようになって久しいが、それでも社会人にとって、飲み会は避けられないシーンの一つである。しかし、飲み会の代償として、翌日ひどい二日酔いに苦しんだ経験を持つ人は少なくないはずだ。
二日酔いの体調不良による仕事への支障は、自身の信用をも損なうリスクをはらむ。だからこそ賢く、二日酔いにならないよう“計画的に飲むスキル”が現代の酒好きには求められている。
今こそ、真の意味でのスマートな酒とのつきあい方を知り、二日酔い知らずの“一流の飲み方”をマスターしておきたい。そこで今回は肝臓専門医で、酒をこよなく愛す浅部伸一さんにお話をうかがった。
本題に入る前に、ここで改めて二日酔いの定義について浅部さんに聞いておこう。
「二日酔いは飲み過ぎて、肝臓でのアルコールの代謝が追いつかず、翌日まで体に残っている状態を指します。アルコールはアセトアルデヒドを経由して、最終的には無害な酢酸に分解されます。分解のスピードには個人差・性差がありますが、一般的に言われているのは、体重50キロの人で1時間あたり純アルコール量に換算して5g程度。日本酒で言うなら、42ml程度、おちょこ2杯分くらいですね」(浅部さん)
厚生労働省「主な酒類の換算の目安」より編集部作成
■犯人はアセトアルデヒドだけではない
酒好きからすれば、おちょこ2杯なんて朝飯前。かなり酒を飲む人なら、「一晩で50〜60gは通常運転」ではないだろうか。もし夜12時まで飲んでいたとしたら、朝の時点でまだ酒が体内に残っているということになる。
やはり二日酔いの原因は毒性の強いアセトアルデヒドなのだろうか? 浅部さんは「厳密にはわかっていない」と前置きした上で、いくつかの原因を教えてくれた。
「二日酔いの主な原因は3つあります。1つ目はアルコールが体内で分解される過程で生じる有害物質・アセトアルデヒドです。アセトアルデヒドの分解が追いつかず体内に残ると、吐き気・倦怠感・頭痛などの不快症状を引き起こします。
2つ目はアルコールの利尿作用による脱水。飲酒によって尿量が増えたところに、さらに塩分過多のおつまみを食べると体は塩分を排出するため、さらに尿を出そうとします。これによって脱水が進み、口喝・だるさといった症状が表れるのです。
そして3つ目はアルコールやアセトアルデヒドによる炎症反応と言われています。お酒を飲むと体内にさまざまな炎症が起こります。胃のむかむかや頭痛、全身の倦怠感は炎症によるものと考えられています」(浅部さん)
■おつまみを“ちょい食べ”しておく
これら3つの主因に加え、「酒に含まれるメタノールなどの不純物(コンジナー)もまた、二日酔いに関係しているのではないかと言われている」という。実際、不純物が多いとされる「赤ワインが苦手」という声を良く耳にする。比較的、「不純物の少ない焼酎やウイスキーなどの蒸留酒の方が体に合う」という人も多い。
では二日酔いについての知見を新たにしたところで、いよいよ実践編へと話を移そう。最初に浅部さんも行っているという、飲む前の準備から教えていただいた。
「まず避けたいのが、空腹状態での飲酒です。すきっ腹でお酒を飲むと、胃を通過してあっという間に小腸から吸収され、血中アルコール濃度が一気に上昇してしまいます。結果、早い段階で酔いが回り、悪酔いや飲みすぎにつながるのです。それを防ぐためにも、少量の食べ物を摂っておいてほしいですね」(浅部さん)
なかでも浅部さんがすすめるのが、チーズを代表格とする脂質やタンパク質を含んだ固形物。枝豆や豆腐などの大豆製品などもいい。これらを飲み会前や飲み会の序盤に食べておくことで、胃における酒の滞留時間が長くなり、小腸へいくスピードが遅くなる。飲む前の“ちょい食べ”によって、急激な血中アルコール濃度の上昇も抑えられるというわけだ。
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock
■ヘパリーゼは二日酔い対策になる?
胃の準備が万端になったところで、お次は肝機能をサポートするサプリメントの出番である。
「アルコールをお酢に分解する酢酸菌の成分を含んだサプリメントを飲んでおくと、翌日の目覚めが違います。酒好きの間ではヘパリーゼといったコンビニで買える肝臓加水分解物入りドリンクも人気ですが、あれは栄養ドリンクだと思ったほうがいいでしょう。アミノ酸が豊富なので肝臓にいいことは間違いないですが、アルコールの分解を促進するかといったら微妙なところです」(浅部さん)
なるほど。サプリメントを選ぶ際は「アルコールの分解を促進する効果が期待できる」とうたったものを選んだほうがいいようだ。
では昔から信者が多いウコンはどうなのだろう?
■ウコンやサプリはあくまで“サポート役”
「ウコンに含まれるクルクミンには抗炎症作用があり、アルコールやアセトアルデヒドによる不快な症状を和らげる効果が期待できます。飲むタイミングは特に飲む前にこだわらずとも、一定の効果が得られると考えられます。ただし、肝臓の解毒機能そのものを高めるエビデンスは乏しく、過信は禁物。あくまで“サポート役”と捉えてください」(浅部さん)
浅部さんはさらに、「シジミの成分オルニチンを含んだサプリメントや、アルコール分解時に多く消費するビタミンCやビタミンBについても同様に“サポート役”と考えたほうがいい」と付け加えた。
「注意したいのは漢方薬です。防風通聖散や五苓散を愛飲している方を見かけますが、人によっては副作用や肝機能への負担となるケースもあります。“自然由来だから安心”と過信せず、飲酒との相性をあらかじめ専門医に確認しておきましょう」(浅部さん)
効くと言われるサプリメントが自分にも合うとは限らない。あれこれ試しつつ、“切り札”となるサプリメントを見つけたいものだ。
■「あっという間にビールを飲み干す」は危険
さて、これで飲む前の準備は整った。いよいよ酒宴のはじまりだ。「まずはビール」といきたいところだが……。
「1杯目にぜひ選んでほしいのが、微アルコールやノンアルコール飲料です。アルコール度数をあえて下げることで、酔いの立ち上がりを緩やかにし、その後の飲酒量も抑えやすくなります。最近のノンアルや微アルはおいしくなっていますし、十分満足感が得られると思いますよ」(浅部さん)
カラッカラに乾いた喉にビールを流し込む爽快感は魅力的だが、あえて微アルコールやノンアルコールで“ウォーミングアップ飲み”するというわけか。しかし酒好きとしては、1杯目から酒を飲みたくなってしまう。
「最初からお酒を飲む場合は、最初の1杯を20〜30分かけてゆっくり飲むようにしましょう。喉越しが命のラガービールだと厳しいかもしれませんが、香りを楽しむクラフトビールや日本酒、ワインならゆっくり飲めますよね。
わが家は日本酒1合を計ってグラスに入れ、それ以上は飲まないようにしています。飲んでいる最中は、脱水にならないよう、お酒と同量の水を飲むことも心がけましょう」(浅部さん)
写真=iStock.com/LauriPatterson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LauriPatterson
■「締めのラーメン」を回避する方法
また、「いいお酒を少量楽しむという発想も効果的」と浅部さん。例えば『山崎』のような高級ウイスキーでハイボールを作れば、自然と「もったいないからゆっくり飲もう」となる。香りの豊かさも手伝ってか、薄めに作っても満足度が高いのも利点だ。
逆に飲み放題のような「たくさん飲んで元を取る」のが前提の環境は、飲み過ぎを助長しやすく、節度ある飲酒には不向きと言える。
続いて、おつまみについて聞いていこう。
「先に述べたよう、たんぱく質や脂質を含むものを最初に食べておくと、アルコールの吸収をゆるやかになり、悪酔いを防げます。鶏のから揚げ、揚げ出し豆腐、えのきの豚肉巻きなどがおすすめです。お酒が進む珍味系は脱水を助長しますので、少量にとどめておきましょう。
また、飲み進めた後の“締め”にも工夫にも余地があります。アルコールは血糖値を下げる作用があるため、空腹を感じやすく、暴食してしまいがちです。小さなおにぎりや少量の蕎麦などを早めに口にしておくことで、ラーメンやお好み焼き、焼きそばといった高カロリーな締めの誘惑に打ち勝てます」(浅部さん)
写真=iStock.com/karinsasaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/karinsasaki
酔った勢いでの“やらかし”を防ぐためにも、糖質を少量食べておく。これによって、体重増加はもちろん、翌朝のだるさや低血糖による倦怠感を抑える効果も期待できる。
■いくら汗をかいてもお酒は抜けない
これだけ気をつけていれば、そうそう二日酔いになることはないと思うのだが、万が一、二日酔いになった時の対策を聞いておきたい。
「とにかく水分をたくさん摂って、安静にしていることです。水の他、OS-1やポカリスエットなどの経口補水液が有効です。水すら吐いてしまう場合は、医療機関を頼るべきレベルと言ってもいいでしょう。重度の場合、医療機関で吐き気止めやビタミンなどを含んだ点滴や、医療用の吐き気止めで症状がだいぶ改善します。
絶対に避けてほしいのは、“汗をかけば酒が抜ける”と運動したり、サウナに入ったりすること。これらの行為は脱水を助長し、症状が悪化することが多々あります。汗をかいてもお酒は抜けません。無理をせず、体と肝臓を休めることを優先しましょう」(浅部さん)
こうした知見のおかげで、「飲みたい、でも二日酔いは避けたい」という矛盾を何とか解決できそうだ。健康を損なわず、楽しみながら酒とつきあうためにも、自らの意志で酒量をコントロールする力を養う。それこそが真の“一流の飲み方”なのだ。
----------
浅部 伸一(あさべ・しんいち)
肝臓専門医
東京大学医学部卒業、東大病院・虎の門病院・国立がんセンター等での勤務後アメリカに留学。帰国後は、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科講師・准教授。その後、製薬会社に転じ、新薬開発等に携わっている。実地医療に従事するとともに、肝臓やお酒に関する記事・書籍等の監修・執筆やがんの予防・最新治療についての講演も行っている。医学博士、消化器病専門医、肝臓専門医。著書に『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』など。お酒が好きで、日本酒・ワイン・ビールなど幅広く楽しんでいる。アシュラスメディカル株式会社所属。
----------
(肝臓専門医 浅部 伸一)