首都圏から秩父を走るレストラン列車・西武鉄道「52席の至福」の魅力、客席はまさに豪華レストランそのもの

2024年4月25日(木)8時0分 JBpress

文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)


一流シェフの料理で特別感を堪能

 近年は観光用の列車も多様化しており、ただ乗車して美しい景色を堪能するだけでなく、途中駅で下車して観光やアクティビティが楽しめたり、車内で楽器などの演奏やイベントがおこなわれたりというように、何らかの付加価値を提供する列車へと進化してきている。

 なかでも増えてきているのが車内でおいしい食事が楽しめる、いわゆるレストラン列車である。このような列車は主に地方のローカル線で運行されているのだが、実は首都圏の大手私鉄でも乗車することができるのだ。

 その列車が西武鉄道の「52席の至福」。愛称からも分かるように乗車定員はわずか52人であり、車内で過ごす時間の「くつろぎ」や「特別感・限定感」を表したネーミングとなっている。車体には西武鉄道の代表的な観光地である秩父の四季と荒川の水のイメージがダイナミックに表現され、内装には沿線の伝統工芸品や木材の一部が使用されている。

 余談だが、この車両をデザインしたのは世界的に有名な建築家である隈研吾氏であり、車内メロディーはバンド「カシオペア」のキーボーディストであり作曲家の向谷実氏、車両パンフレットの撮影は弊社レイルマンフォトオフィスが担当するなど、一部を除いて(?)超一流のメンバーが携わっている。

 その西武鉄道が誇るレストラン列車「52席の至福」は土休日を中心に、池袋または西武新宿〜西武秩父間をメインに走っている。食事はすべてコース料理となっており、昼の「ブランチコース」と夕方の「ディナーコース」の2種類がある。

「ブランチコース」は午前中に都心を出発して午後に西武秩父に到着し、「ディナーコース」は夕方に西武秩父を出発して夜に都心に到着する行程だ。食事は有名店シェフ監修により3ヶ月ごとに変更され、それぞれ季節による食材や沿線の旬の味覚が提供される。料理は昼と夕方とで異なるため、往復乗車して味覚を堪能するのもオススメだ。


車内のオープンキッチンで調理

 では実際に「52席の至福」のようすをレポートしてみよう。今回乗車するのは「ディナーコース」。乗車口の前にはホームに赤い絨毯が敷かれており、普段の列車とは違う高級感が味わえ、乗車する前から旅への期待が高まってならない。車内に足を踏み入れるとデッキと客席との間が秩父銘仙で織られた矢絣ののれんで仕切られており、これが特別な車両なのだなと感じさせてくれる。

 4両編成の車両のうち客席は2号車と4号車で、インテリアには渓谷などの自然がモチーフとなり、2号車は渋皮和紙、4号車は西川材が天井に使用されている。そして3号車がライブ感あふれる自慢のオープンキッチンスペースだ。車内で食事を楽しめる列車が多いといっても、そのほとんどが出来上がった食事を途中駅などから搬入するケータリングによるものであり、このように実際に車内で調理したり盛り付けたりする列車は貴重である。1号車はパネル展示や結婚式などもおこなえる多目的スペースとなっている。

 あらためて驚くのは、この車両は新しく造られたものではなく、西武秩父線などを走っている通常の通勤型車両をリメイクしたものだということだ。以前の車内の面影はどこにもないほど、客席はまさに豪華なレストランそのものである。

 列車がゆっくりと走り始めると、まずはウェルカムドリンクとしてスパークリングワインがグラスに注がれる。さぁ、ここから日常を忘れたディナークルーズのスタートだ。その後はタイミングを見計らいながら料理が次々と運ばれてくる。

 車内ではソフトドリンクが無料なのに対しアルコール類は有料だが、種類は豊富。お酒をたしなむ人へのおすすめは、秩父の蒸留所で作られ世界から注目されているイチローズモルトの稀少なウイスキーで、なんと「52席の至福」プライベートボトルもあるのだとか。食事が落ち着いた頃になると、楽器の生演奏が始まった。

 都会の喧噪から解き放たれ、心地よい揺れとともに流れる夜景を眺めながら、列車ならではの空間でおいしい料理やホスピタリティを心ゆくまで堪能できる。これこそ「52席の至福」最大の魅力であり人気の秘密なのではないだろうか。

筆者:山﨑 友也

JBpress

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