タコが近づいて抱きしめてくれる。人とタコの間に芽生えた特別な友情
2025年4月27日(日)19時0分 カラパイア
オーストラリア南部、ビクトリア州モーニントン半島のライ沿岸は、美しい海中世界が広がるダイビングスポットとして知られている。
この美しい海で、1人の女性ダイバーと1匹のタコの間に、特別な友情が生まれることになった。
何度も顔を合わせ、同じ時間を過ごすうちにうちに、タコは彼女への警戒を捨て、近づいて抱きしめるようなしぐさを見せるようになったという。
海の中で交わされる友情の「ハグ」
ダイバーとして、そして海洋ビデオグラファーとして長年海の生き物たちを撮影し続けてきたジュールズ・ケイシーさん。
彼女がライ(Rye)の桟橋近くの海で出会ったのが、ニュージーランドテナガダコのプリシラだった。
私はこのタコと長い時間を過ごしてきました。これは「プリシラ」という名のニュージーランドテナガダコで、一緒に狩りに行くと良く私にハグしてくるんです。
彼女の行動やサインについて、まだ学ぶことはたくさんあります。でも、彼女が私を信頼して、一緒に狩りをしてくれることはわかっています。
そして彼女が眠りたいときには、そっとしておくべきだということも理解しているんですよ
海の中での「友情」は、決して一朝一夕には築けない。タコは非常に賢く、警戒心が強い生き物であり、特に野生の個体が人間に近づくのは稀である。
プリシラは最初は警戒心を見せていたが、何度か顔を合わせるうちに、ケイシーさんに興味を持ち始めたようだ。
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時間をかけて築かれた信頼は、やがて目に見える形になった。プリシラはケイシーに自ら近づき、腕を絡めるようにハグしてきたのである。
ここ数か月、私はほぼ毎日、彼女の様子を見に行っています。彼女は自分がカニを捕まえている間、私が一緒に泳いでいると安心するんです。そしてよく手を伸ばしてきて、私のカメラを探したり、抱きしめてくれたりします。
ニュージーランドテナガダコは非常に賢く、私が脅威でないことを知っています。私は彼らが狩りをしている時にそばにいるんですが、彼らが私の存在を気にすることはありません
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この美しい映像を見た人たちからは、賞賛のコメントがたくさん寄せられている。
ステキな動画ですね!2人は何を探しているの?
主にカニです。私はただ観察したり撮影したりしているだけなの(ケイシーさんコメ)
あなたはとてもラッキーだわ。美しい光景ね
こんな素晴らしい映像は、普段どのくらいの深さで撮影しているの?
通常は10m以下です(ケイシーさんコメ)
驚くほどに美しい、素晴らしい映像だよ
私はタコを見ていると不安な気持ちになる。あなたはとても勇敢だと思う
プリシラという名前は、映画の「プリシラ(The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert)」(※)からとったのかな
その通りです(ケイシーさんコメ)
※1994年制作のオーストラリア映画
タコはなぜ人間に触れようとするのか
タコが本当に「ハグ」をしているのかどうかはわからない。少なくとも、人間のような、「親しさ」や「感謝」といった感情の表れとして、というのはあまりにも穿った見方ではないだろうか。
彼らの行動を見た我々が、希望的観測から擬人化しているだけに過ぎないかもしれないのだ。
とはいえ、タコは非常に知能の高いことで知られる生き物であり、科学者たちの中にもタコには感覚や痛みを感じる能力があると考えている人もいる。
彼らは恐怖を感知し、文字通り皮膚の色を変えることで環境に反応します。彼らは変幻自在で、とても遊び心があります。信じられないほど好奇心旺盛で、それこそがまさに感受性を持つ存在であることを示しているのです
タコの持つ知覚について、水生生物研究所のマネージングディレクター、ソフィカ・コスティニウク氏はこう語っている。
世界最大級のタコ:ニュージーランドテナガダコ
ニュージーランドテナガダコは、オーストラリア南部やニュージーランド周辺に生息する大型のタコだ。体長は最大で3m、体重は10kgを超えることもあると言い、世界でも最大級のタコと言える。
この種は力強いだけでなく、非常に高い知能を持つことで知られている。擬態はもちろん、問題解決能力や学習能力に優れ、個体ごとに性格の違いが見られることも多い。
人間を観察し、覚え、判断を下す能力を持つため、信頼関係の構築には丁寧なコミュニケーションが求められるんだそうだ。
ダイビング中にタコを見かけたからといって、みだりに近づいてハグしてもらおうとしても、簡単に信頼してもらえるわけではない。野生の生き物であるタコにこちらから触れることは、絶対に避けるべきことでもある。
ケイシーさんは現在、プリシラとの交流を題材にした短編映画を制作しているという。彼女はこの作品を通して、海の生き物たちの知性と感情、そして自然との共生の大切さを伝えたいと考えているそうだ。
私たちが自然をリスペクトし、耳を傾ければ、動物たちも私たちに心を開いてくれまる。プリシラはそれを教えてくれたんです
タコは寿命が短く、ニュージーランドテナガダコも例外ではない。平均すると3〜4年ほどでその生涯を終える。限られた時間の中で交わされたこの友情は、ますますかけがえのないものとなるだろう。
References: Ever Wondered What It’s Like To Be “Hugged” By An Octopus? We’ve Got Just The Video For You[https://www.iflscience.com/ever-wondered-what-its-like-to-be-hugged-by-an-octopus-weve-got-just-the-video-for-you-78908]