「男性の性被害は『我慢して当然』という風潮があった」小5で“男性家庭教師から性虐待”を受けた性被害当事者(38)が語る、壮絶な過去を隠し続けたワケ
2025年4月29日(火)12時10分 文春オンライン
〈 「下半身を舐められたり、お尻に入れられて…」小5で男性家庭教師から“おぞましい性虐待”…男性の性被害当事者(38)が明かす、子ども時代の記憶 〉から続く
小学5年生のときに、男性家庭教師から性加害を受けた後藤慶士さん(38)。幼少期におぞましい被害にあった後藤さんは、男性への嫌悪感を強め、人間関係の構築に苦労したこともあったという。
現在は会社を立ち上げ、SMマッチングサイト「Luna」を運営し、性にコンプレックスを抱えた人たちの“居場所づくり”を行っている。
後藤さんはどんな環境下で被害に遭い、どのような“後遺症”に苦しめられたのか。話を聞いた。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)

◆◆◆
男性の肌に触れるのが気持ち悪いと思うように…
——小5のときに男性の家庭教師から性加害を受けた影響で、男性に対して強烈な嫌悪感を抱くようになったそうですね。
後藤慶士さん(以下、後藤) 中学生になってから、男性の肌に触れるのが気持ち悪いと思うようになって、直接触れなくなりました。
当時サッカー部だったんですけど、みんなで円陣を組むこともできなかったんです。服の上から触るのであれば、少しは我慢できたんですけど。
——運動部だと肌が触れるシーンが多い気がします。
後藤 部活は大変でしたね。僕はキーパーで、あまり体の接触がなかったので、基本的にボールにしか触れないようにしていました。
部活以外でいうと、運動会もきつかったです。騎馬戦ってあるじゃないですか。当時僕は背が小さかったので、上に乗る方だったんですけど、男子に足を持たれたり、触られるのが嫌でした。ちょっと汗に触れる、みたいなのもきつくて。とにかくつらかったですね。
——男性恐怖症みたいな感じになっていた?
後藤 恐怖というより、嫌悪感ですかね。誰にも言えなかったけど、男子中学生独特の絡みみたいなのも苦手でした。友達同士でふざけてじゃれ合うみたいな。
僕はそれができなかったから、友達との関係性を築きにくかったです。どこかのグループに属して仲良くすることも、みんなで遊びに行くこともできなくて、「なんかあいつノリ悪いよな」ってなってしまって。中学生の頃は、人間関係に苦労しましたね。
——女性に対しても同じような感覚はありました?
後藤 女性に触れられたり触れたりするのは大丈夫でした。中学1年生の頃には彼女ができて、高校時代の彼女とは性的な行為をするようにもなりました。
高校2年生ぐらいから、そういう行為や男性への嫌悪感が徐々に緩和されていった気がします。でも性加害がきっかけで「こじらせた」のは間違いないと思います。
——何を「こじらせた」のでしょうか。
性加害をうけた影響で「人と比べて愛情表現が少し変わっている」と感じる理由
後藤 僕はポリアモリー(複数愛者)という性質と、SMの特殊性癖をもっていて、人と比べて愛情表現が少し変わっている気がしています。
好きという感情が溢れすぎて、それをどう伝えていいかわからなかったり、1人の相手じゃ満足できなかったりする。また、愛情の伝え方がひねくれている傾向もあって。それは、性加害をうけた影響もあると思うんです。
家庭教師からの行為をひとつの愛情表現として受け取ってしまっていたけど、実際は愛情ではなかったこと。さらに、中学受験に失敗してから、突然親が勉強についてなにも言わなくなったこと。それらが同じタイミングで重なったことで、「愛情とは何?」と混乱してしまって。“愛情迷子”になった気がしています。
——複雑な思春期だからこそより混乱してしまいそうです。そこからどうやって気持ちを整理していったのでしょう。
後藤 やっぱり時間の経過が大きいですね。30代半ばくらいから、自分の中で心の整理ができるようになりました。それまでは約30年近く誰にも言えず、1人で抱え込んでしまっていたので。
性加害を受けた過去を両親に公表した経緯
——性加害を受けたことをご両親に伝えたのも、最近なのですよね。
後藤 本当にここ1年くらいの話で、僕が37〜38歳になってやっと伝えられました。
——打ち明けようと思ったきっかけがあったんですか?
後藤 今の仕事を始めたことがきっかけですね。会社を立ち上げて、「Luna」というSMマッチングサイトを始めたんですけど、サイトの利用者のなかには特殊な性経験がある方や、性被害を受けた方もたくさんいて。
自分も性被害にあった経験があるからこそ、そういう方たちの居場所をつくりたいと思って「Luna」を立ち上げたんです。
それを親に説明するうえで、性被害にあったことを伝える必要があるなと思って。
——ご両親はどのような反応をされていたのでしょう。
後藤 正直に打ち明けたら、親は「そんなことあったんだね」とショックを受けていましたね。あとは、「ごめんね」とすごく謝られました。
——ご両親に話したことで、ご自身の心境になにか変化はありましたか?
後藤 スッキリはしました。自分の中でモヤモヤしてた部分がずっとあったので。親からすると、家庭教師はすごく仲の良いお兄さんという認識でいたので……実はそうじゃなかったという話ができて、やっと心が落ち着きました。
ただ僕が楽になった分、親に重荷を背負わせてしまった。なので、親に伝えたことが結果的に良かったかどうかは、ちょっとわからないです。知らぬが仏ということもあるし、僕の自己満足になってしまった可能性もあるのかなって。
「男なんだから我慢して当然という風潮が…」男性の性被害が理解されにくかったワケ
——SNSでも公表されていますが、周りからはどういった反応がありましたか。
後藤 noteに自己紹介として性被害の内容を書いていたんですけど、それを読んだ方からは「そんな被害があったとは」「大変な思いをされてたんですね」と寄り添ってくれる反応がたくさんありました。
誹謗中傷やセカンドレイプ的な反応はなくて、同情してくださる方が圧倒的に多かったです。ただ、男性の性被害は理解されにくいとは感じています。
——それはつまり?
後藤 男性の性被害に関しては、「男なんだから我慢して当然でしょう」みたいな、日本社会独特の風潮がある気がしています。あくまで僕自身の話なんですけど、特に同じ男性側からそういう固定概念の押しつけを感じるというか……。それによる言いづらさはありますよね。
あとは、女性の性被害のほうが圧倒的に件数が多いため、社会問題として大きく扱われやすかったと思うんです。でも、旧ジャニーズ事務所の性加害問題がきっかけで、男性も性被害について話しやすい環境にはなってきてるのかなと感じています。
——旧ジャニーズ事務所の性加害問題は、どのように捉えていましたか?
後藤 報道をきっかけに、男性の性被害が社会的にちゃんと取り上げられるようになって、被害者が打ち明けやすい空気感が作られてきていると思います。20〜30年前は、まったくそんな空気じゃなかったと思うので。
実際に僕も、隠すべきことだと思っていましたし。なんの圧力もなかったけど、人に言えない空気感みたいなものは感じていました。
日本社会の性教育や性犯罪の現状に思うこと
——日本の性犯罪や性加害問題などの現状については、どのように感じていますか?
後藤 社会全体が「性=触れちゃいけないもの」として扱っていることが問題だと思います。それが結果的に、犯罪にもつながっているんじゃないかなと。人間は欲求を抑えつけられると爆発するものなので、タブー視すればするほどよくない行為が生まれる気がします。
あとは、性教育の問題もありますね。男性が女性の生理について知らなかったり、AVで間違った情報を得たりしている。つまり、性に関する正しい情報が伝わっていないんです。子どもの頃から性のありかたについてしっかり学んでいないから、何が犯罪なのかをきちんと理解できていない人がいるのだと思います。
だからこそ、もっとオープンに性についてコミュニケーションできる環境が必要なんじゃないかな、と個人的には思っています。
「何も知らない人を信用させたり…」洗脳に近いグルーミングの怖さ
——日本の性教育については、問題視する声が大きくなっていますよね。
後藤 たとえば、女性の生理は月に1日しか来ないと思ってる男性もいるんです。被災地で生理用品が早急に必要な女性が、「大して血なんて出ないんだから1日ぐらい我慢できるでしょ」と言われたという話を聞いたこともあります。それも正しい性教育を受けていないから起こることですよね。
——最近は、グルーミング(性的手なづけ)も大きな問題として取り上げられるようになりました。
後藤 何も知らない人に対して間違ったことを教え込んだり、信用させたりして、自分の好き勝手にしようとする行為は、言葉にすれば洗脳に近いものだと思っています。それがグルーミングの怖さですよね。知識や経験の少ない子どもは、特に被害にも遭いやすい。ただ、子どもだけでなく、老若男女、誰もが被害に遭う可能性があると思っています。
性被害の話だけではなく、権力のある人が、相手を信用させて騙すという構造は、社会の中でたくさんあるじゃないですか。悪徳な宗教とか詐欺も、やってることは同じだと思っています。せっかく信用してくれた人を騙すような行為はしないでほしい。
「性にまつわる困りごと」を抱えている人に居場所を作りたい
——先ほど会社を立ち上げたとおっしゃっていましたが、今後はどのような取り組みを?
後藤 僕が運営しているサイト「Luna」にも、性被害の当事者が多くいます。特殊な性癖を持ってる人たちって、子どもの頃に性被害にあったり、トラウマになる経験を持ってることが多かったりするんです。
そういった過去の影響で、性にまつわる困りごとを抱えている人がたくさんいる。だから僕は「Luna」を通して、そういう人たちの居場所づくりをしていきたいと思っています。
——当事者として、同じような性被害者の方に伝えたいメッセージはありますか。
後藤 性被害に遭った人たちに対しては、「1人じゃないんだよ」と伝え続けていきたいですね。やっぱり1人で抱え込んで苦しんでる人がすごく多いと思っています。僕も30年近く誰にも言えなかったから。
カウンセラーでも良いですし、信頼できる友達でもいいので、話ができる人が1人いるだけで違うと思うんです。
撮影=細田忠/文藝春秋
(桃沢 もちこ)